復讐の先
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
「――はい、というわけでカメラの向こうのみんなも見てもらった通り、無事に仇討ちはすべて終わりました。……終わってみれば、なんだか呆気ないものだったね」
俺はグリムの構えるデバイスのカメラのレンズを真っ直ぐに見つめながら、一息ついて語りかける。
「戦う前は、もっとこう胸の奥がスカッとするような派手な感情になるかと思ったけれど、実際に終わってみると、なんかそれとも少し違ったよ。……昔の俺は、こんなものになす術もなく簡単にやられちゃったんだなってさ。やっぱり、ニンゲンは弱い。だからこそ、これからは俺らみたいな者がしっかりと守っていかないとね」
「……主よ、チャット欄の赤い目立つコメントで、『討伐おめでとうございます。やはり今の人間たちには、あの厄災を討伐することは絶対に不可能ですか?』と書かれているぞ」
カメラを操作しているグリムが、流れるコメントを拾って教えてくれる。
俺の今の戦闘を見たせいで、視聴者たちの間でルミナスドラゴン自体の強さをどこか見くびって、甘く考えてしまった人間が紛れ込んだのだろうな。
「あはは、質問のコメントをありがとう! 結論から言えば、将来的な可能性としては全く無くはないよ。だけど、現在のニンゲンの基準からすれば、自力での討伐はほとんどあり得ないかな。俺は今のニンゲンのステータスの最高値がどれほどの値かは詳しくは知らないけれど、SSSランクのさらに上の世界、そしてまたその上の世界に存在しているのが、厄災という個体なんだ。だから、あいつらに立ち向かうような危険な役目は俺らだけで十分だよ。みんなは、どうか大切な命を大事にしてね」
この先、もしかしたら探索者の中から厄災を単独で倒せるような規格外の存在が現れないとは言い切れないけれど、確率としては限りなくゼロに近くて、ほとんど有り得ないだろうからね。
人間に夢を見せて、その大切な命を簡単に捨ててほしくないという、俺なりの本音の警告だった。
「さて、姉ちゃん。今の俺の戦いを見ていてどうだった?」
俺は隣に佇む大天使へと顔を向ける。
「……そうですわね。今は深い感謝の気持ちしかありませんわ。本当にありがとう、わたしの愛しい弟。これで、理不尽に命を奪われる哀れな聖女の器たちはいなくなりました。私の役割は、これで完全に終わりですわ」
「そうだね。これからはもう役割に縛られず、自分のために自由に生きなよ。新しい目標をのんびり立てたり、地上でゆっくり過ごしたりさ。……あ、そうだ」
俺は、左手に持っていた輝くドロップアイテムをクレアの目の前へと差し出す。
「これ、姉ちゃんにあげるよ。姉ちゃんにこそ、ずっと持っていてほしいんだ」
「これって……、あぁ……、本当にありがとう……」
クレアは受け取った瞬間、それがどういった意味を持つアイテムなのかが、すぐに理解できたらしい。
「私も、あのルミナスドラゴンの被害者の1人であり、あの者の手から少女たちを救おうとしてきた者です。『聖女の涙』……、ありがたく、大切に受け取りますわ」
配信のカメラの前で、クレアが自分の過去の正体に繋がる重要な情報をうっかり言っちゃったけれど、まあ、今更隠す必要もないし、どうでもいいよな。
「さて、じゃあ俺も、残ったこれを」
俺は右手に持っていた、黄金にギラギラと輝く『輝天龍の心核』を見つめる。
そして、躊躇うことなくそれを一気に口へと放り込んで、ガリガリと豪快に齧りついた。
『――特殊なアイテムを確認。個体名『幻惑神サク』と完全統合……完了。新規固有スキル『神域展開』を習得しました』
モンスターの身体になり、さらに神へと至った今の俺の肉体であっても、強者の核を喰らうことで、まだまだ成長できるようだ。
『神域展開』。
それは、発動することで一定の空間そのものを自らの支配領域へと強制的に書き換える、神だけの最高位の権能。
その領域の内部において、敵対する者の力は大幅に削がれて弱体化し、逆に俺が味方と認めた者には絶対的な加護が与えられる。
なるほどな。
ただ敵を惑わし、壊すためだけの力ではなく――俺の大切な誰かを守り抜くための真の力を。
「さて、今日のライブ配信はここまでにしたいと思うよ。これまでにもらったたくさんのコメントをまとめて一気に返す配信回も近いうちにやる予定だから、また是非観てね! じゃあみんな、またね、バイバイ!」
撮影係のグリムが画面の配信停止ボタンをピッと押し、現在のライブ配信が完全に切れた。
「みんな、撮影の協力も含めて最後まで見ててくれて本当にありがとう。これで、俺の最大の目標が完全に達成できたよ。これから俺は、自分の大切なニンゲンのため、そしてこの世界のために動いていく。……みんな、これからもずっと俺についてきてくれるかな?」
俺の改めての問いかけに対し、グリムはフッと口元を緩めた。
「……主よ、ついていくと決めたあの時から、我らの歩む道は最初から同じと決まっている。今更そんな当然のことを確認するまでもなかろう」
「そうだぜ、大将。俺らはもう、地上の楽しさを知っちまったんだ。どうせこれから先、長い時を生きるんだからよ、ゆっくり楽しんでいこうぜ」
「そうね、私もまったく同じ気持ちだわ。これからサクと一緒に、たくさんの楽しいことをいっぱいしていきたいの」
ゴウキもノア子も、それぞれの言葉で俺の未来に寄り添うように力強くそう言ってくれた。
「私も、ニンゲンたちを救うためにこれから動きましょう。わたしの愛しい弟と共にね」
俺の復讐という目標は、今日ここで完全に達成された。
だけど、厄災という個体はこれからも不規則に世界に生まれてくるし、そいつがどんな悪影響をもたらすかもまだ分からない。
だから、俺がやれることを、これからも変わらずに全力でやっていく。
その決意は、何一つ変わることはない。
この大切な仲間たちと、これから先も、ずっと一緒に。
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