黄金の終焉
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
ボス部屋の中に凄まじい悲鳴を響かせたルミナスドラゴン。
まだ俺が直接攻撃をしていないにもかかわらず、何故あいつがそんな風に突然悲鳴を上げたのか。
それは、俺が事前に重ねて使った2つのスキルによる効果だった。
『トリックスター』は罠や幻惑の効果を劇的に高める強化スキルで、もう1つの『ジョーカートラップ』は、対象が仕掛けた罠にかかると、ランダムで状態異常を付与するものだ。
俺はあいつが怯えて後退する、まさにその移動先の座標の床に、その罠を先読みして仕掛けていたのだ。
あいつのステータスを解析で覗き見てみると、案の定『大混乱』の状態異常がバチッと付与されていた。
いいねぇ、最高だ。
でも、お楽しみはまだこれからだよ。
「――『ダークワイヤー』」
俺の意思に呼応して、『ERR』という魔力値の基準を超越した超高純度で練られたワイヤーが、無数に突き出し、ルミナスドラゴンの巨大な四肢と身体の自由を完全に縛り上げて床へと押さえつける。
「……あはは、俺がニンゲンの探索者だった頃、お前はこれを、意図も容易くブチブチと力任せに引き破ってくれたんだよなぁ」
俺は拘束されて動けないルミナスドラゴンへと、ゆっくりとした足取りで近づいていく。
そして、やつの巨大な顔面はもう、俺の目と鼻の先だ。
「そうそう、俺が人生の最期に見た光景は、まさにこんな感じの距離感だった」
頭の記憶の中で鮮明に蘇る、この不快にギラギラと輝く黄金の目。
あの日、この目が俺を見下ろしながら、目の前で大きく顎を開いたんだ。
その瞬間に、すべてが終わったと悟るのは本当に簡単なことだった。
……この、クソ野郎が。
「――『幻惑』」
俺の手のひらから濃密な紫色の靄が勢いよく放たれ、身動きの取れないルミナスドラゴンの巨躯を瞬く間に包み込んでいく。
ルミナスドラゴンの身体は大きくガタガタと震え出し、必死に抵抗してジタバタと暴れようとするが、俺の放ったダークワイヤーが全身を押さえつけているため、全く動けない。
さらに解析で見てみると、そのステータス欄には『大混乱』に加えて、新たに『大恐慌』という状態異常の文字が表示されていた。
俺はここで、カメラを構えるグリムたちのいる後ろの方向へと静かに振り返る。
「さて、これでこっちの準備はすべてバッチリ出来たよ! ここから先が仕上げになるから、そういう酷い描写が苦手な人は、今のうちに画面を閉じてね。……姉ちゃん」
「どうしたのです、愛しい弟?」
「ここからが俺の仕上げだから、しっかりとその目で視ていてね」
リーダー、玲司、綾香、あの日のお前たちの仇を、今から俺が討ちに行くよ。
「――『リアリティブレイク』、――『カオスフィールド』」
俺はさらに2つの固有スキルを重ねて発動する。
刹那、ルミナスドラゴンの大きな巨躯の周囲が、精神を蝕む漆黒の結界ドームによって完全に覆われていく。
相手の判断能力を根本から完全に失わせ、その場から一切動けなくさせるそのドームを、俺はあいつの頭上から何重にも容赦なく重ねて包み込んでいく。
そして。
「では、おやすみ。――『ナイトメア』、良い夢を」
展開した何重ものドームの上空から、禍々しい漆黒の靄が現れ、ドロドロと溶けていきながらドームの結界の中へと一気に染み込んでいく。
これは今までにも使っていた、俺自身のコンボではあるのだが、今回はその威力が根本から違う。
『トリックスター』という幻惑強化を最初に乗せた上での、『ナイトメア』だ。
あいつの悪夢は……。
俺はふぅ……と深く息を吐き出すと、一度グリムが構えるデバイスカメラのほうへと静かに歩いて戻った。
◇
「あぁ……、なんて凄惨なことを……」
俺のすぐ横で、ルミナスドラゴンの夢をじっと視ていたクレアが、自身の顔を両手で押さえながらぽつりと呟いた。
「姉ちゃん、あいつが見ている悪夢の中身は一体どんな感じになってるの?」
「……あのルミナスドラゴンが、これまでに各地で喰らってきた大勢の者たちが、夢の中で一斉に出てきているのですわ。ワイヤーで完全に押さえつけられたルミナスドラゴンは恐怖に激しく怯え、そこから必死に逃げようともがいているのに、現実と同じように床から全く動けないのです」
へぇ、それはまさに完全なる自業自得だしね。
「そしてね、その動けないルミナスドラゴンの巨躯の肉を、あの子たちが今度は逆に貪り喰らっていますわ」
「ふん、それこそあいつが今までにニンゲンたちにやってきたことそのものじゃないか」
「ええ。ですが恐ろしいのはここからですわ。あいつは夢の中で肉を喰われては、肉体を回復され、自分の身体がまたなくなっていけば、また元通りに回復され……という無限のループを、今も何度も何度も延々と繰り返しているのです」
俺は一度、カメラを持っているグリムへと視線を向けた。
「グリム、チャットコメントの様子は大丈夫かな?」
「いや、主よ。コメントは流れてはいるが、あまりの光景と効果に、言葉を失っているようだぞ」
「サクラーのみんな、ごめんね。でもね、これはあくまでルミナスドラゴン自身が見ている悪夢であって、俺が意図して直接この内容を見せているわけじゃないんだ。このスキルがかかった相手が、それぞれに自発的に見る夢だから、俺にも詳細は分からないんだよね」
俺は再び、漆黒のドームの結界を見つめる。
「この地獄は、あのドームがなくなるまで続くよ。だから、配信的にはしばらくただの静止画みたいになって退屈させちゃうかもね」
あいつをただ簡単に一瞬で殺して終わらせるつもりなんて最初からなかった俺は、だからこそ何重にもドームを重ねて発動しておいたのだ。
それから、一体どれくらいの時間が経過しただろうか。
「あぁ……、ついに終わりを迎えたのね」
クレアが静かにそう呟くと同時に、ルミナスドラゴンを完全に覆い隠していた漆黒のドームが、ドロドロとした闇の沼のように溶け出して床へと消えていった。
そして、その中から現れたのは、肉も鱗もすべてを食い尽くされて無残な白い骨だけとなった、ルミナスドラゴンの変わり果てた姿だった。
直後、その巨大な骨までもが、紫色の硝煙となって空気中へと静かに消えていく。
「――俺の悪夢は、そのまま現実となるんだ。脳内で何度も喰われては強制的に再生し、また生きたまま喰われては再生する。あいつにとっては永遠にも感じられたであろう地獄を存分に味わって、終わってみれば現実の肉体も骨になっちまった。これがあいつの自業自得で見た悪夢の結末だよ」
『――レベルが上がりました』
システムが、俺の肉体がさらに成長したことを告げてくれる。
俺はルミナスドラゴンいた位置へとゆっくり歩いて向かった。
そこには、消え去った証として、特大の漆黒の魔石と、黄金にギラギラと光る不思議な物体、そして蒼く神秘的に輝く美しい宝石が床にポツンと落ちていた。
解析してみると、それらは『輝天龍の心核』と『聖女の涙』という名称のアイテムだった。
俺はまず、床から特大の漆黒の魔石を拾い上げると、自分の口へと運んでガリガリと豪快に噛み砕いていく。
うわ、やっぱり厄災の魔石ってとてつもなく不味いな。
『――レベルが上がりました』
これによって、現在の俺のレベルは105へと到達した。
だけど、今の俺には、もうレベルなんていう概念は、正直あまり関係がないような気がする。
俺はドロップした2つのアイテムを両手にしっかりと持ち、再びグリムが構えるデバイスカメラの目の前まで戻ったのだった。
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