6体目の厄災
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
あの相談会の料亭の夜から、ちょうど1ヶ月。
紗奈は我が家でのマネージャーとしての仕事にもすっかり慣れ、ノア子ら少女たちのモデルの管理や、俺の動画配信の手伝いをしつつ、時には紗奈自身にも配信に直接登場してもらったりしていた。
今までは色々と世界中を飛び回っていてなかなか気楽に配信する機会がなかったのだが、特に大きな問題の起きない平穏な日々が続いていたので、近況報告を兼ねた雑談でもしてみようかと思って配信を再開してみたのだ。
国公認の神による直々の生配信ということもあって、ネット上では非常に多くの視聴者が配信を観てくれた。
投げ銭の機能は「お金は要らないよ」と事前にアナウンスしておいたのだけど、視聴者たちが『お布施』という独自の名称を勝手に作って面白がり、配信をする度に毎回かなりの金額が口座へと振り込まれる事態となった。
そんな、何気ないある日のことだった。
ドンッ!!!
我が家であるこのマンションの建物全体が、上空から一瞬で押しつぶされるんじゃないかという、凄まじい密度の魔力の圧が突如として部屋を襲った。
ノア子たちは瞬時に紗奈の身を守る盾となり、ゴウキと俺がその圧倒的な魔力の発生源に向けて全速力で駆け出す。
魔力の元は、ワンフロアの我が家にある俺の自室だ。
部屋の扉を開けると、そこには終わりの王アストラ・エンドロードと、大天使クレア・レミエルの2人の厄災が平然と佇んでいた。
「おぉ、同志よ。ここが貴様の住処か。なかなか手狭な場所だな」
「いいから今すぐに、極限まで魔力を完全に抑えろ!!!」
俺の血相を変えた必死な叫びを聞き、アストラがフムと頷いて瞬時に魔圧を完全に抑え込む。
「なぜだ? 我らはただ同志に会いに来ただけなのだが、なぜそんなにも慌てて魔力を隠す必要があるのだ?」
「ここには大将の番である大切なニンゲンがいるんだ。あんたの圧が直撃したら、それだけで一発で死にかねないからな。……姉御、すまないけれどリビングにいる紗奈の状態を今すぐ見てやってくれ」
「分かりましたわ」と言って、事態の深刻さを察したクレアがパタパタと素早い足取りでリビングへ向かって走っていった。
「……そうか、それは悪いことをしたな。だが、我は事情を詳しくは知らなかったのだ、許せ」
「まあ、悪気がないのは分かっているから仕方がないことだけどね。次からこの家に来るときは、あらかじめ魔力を極限まで抑えてから来てくれればいいから。とりあえず、こっちへ来てくれ」
そう言って、俺はアストラを連れてリビングへと通した。
リビングの中では、すでにクレアに膝枕をされた紗奈の姿があり、クレアがつきっきりで優しく介抱をしてくれていた。
ノア子たちのスキルでも回復はできるのだが、血の循環によるものだったりする。
クレアは高位の聖属性の回復魔法を完璧に扱えるので、こういった繊細な精神的対処はクレアのほうに任せるのが一番いいのだろう。
「あれ……、こちらの騎士さん、は……? クレアお姉様、……お知り合いですか……?」
クレアの魔法で回復はしているものの、アストラの放った圧倒的な格の圧によってまだ少しだけ頭がぼーっとしている紗奈が、膝枕をされながらクレアに弱々しく尋ねる。
「あれはアストラ・エンドロード。世界で一番最初に生まれた始まりの厄災であり、騎士ではなく王ですわ」
アストラは紗奈の前へと歩み出ると、静かに頭を下げた。
「同志の番よ、我が不調法で恐怖を与えてしまい申し訳なく思う。我はアストラ。幻惑神サクの……そうだな、友と言ったところだ。以後、宜しく頼む」
「あぁ……、ご丁寧にわざわざありがとうございます。サクのマネージャーを務めております……、松田紗奈です」
「ほう、番のことをマネージャーという言葉で呼ぶのか」
「いや、マネージャーとは役職の名前だよ、紗奈は俺の仕事や生活のすべてを裏で支えてくれているんだ」
「なるほどな。それなら納得だ。……時に、そうだ、同志よ。本日の世界の厄災の数の確認は済ませたか?」
「いや、今日は色々と忙しくてまだ見ていないけれど……まさか」
アストラの意味深な言葉に、俺はすぐに脳内のマップを広げる。
現在の世界における、厄災の個体の生存反応。
1体はロシア。
1体はモザンビーク。
もう1体がブラジル。
そして今、日本のこの俺の部屋に集まっているアストラとクレア。
……あ。
「気づいたか。つい先ほど、世界に6体目の新しい厄災が現れた。何かの兆候があれば同志はすぐに討伐へ向けて行動を起こすと思っていたが、もし同志がまだ誕生に気づいていないのなら、我の手で直接教えてやろうと思った次第だ」
「私も全く同じ理由ですわ。愛しい弟、お相手のところへ行くのでしょう? もちろん私も一緒に行きますわ」
「2人ともありがとう。ちょっとそこで待ってて」と言って、俺は池袋にいるグリムを連れてくる。
グリムに対して「グリム、今からあのクソトカゲを倒しに行くぞ」と短く伝えたら、グリムは『……すぐに行こう』とだけ静かに告げて、影へとスッと潜って控えてくれた。
ノア子とゴウキもいつでも動けるように影に待機してもらい、グレイスら少女たちには、念のためにここで紗奈の護衛として側に付いていてもらうことにする。
「サク……、本当に大丈夫?」
紗奈が心配そうに俺の服の裾をギュッと握ってきた。
「大丈夫だよ、何一つ心配いらない。すぐにあのトカゲを捻り潰して帰ってくるから、大人しくここで休んでいてね」
俺はそう優しく言って、紗奈の頭をよしよしと撫でて安心させる。
「では、我はアメリカへと戻る。討伐を無事に終えたら、また我の元へ会いに来てくれ。その時にこれからの話をしよう」
そう言い残すと、アストラは空間を転移して一瞬でアメリカのグランドキャニオンへと帰っていった。
「6体目が現れた目標の場所はロシア。セルギエフ・ポサードダンジョンの最深部。……愛しい弟、準備はいつでも良いかしら」
「あぁ、行こう」
俺は自身の体内で魔力を静かに練り上げ、精神を集中させる。
脳内の世界地図の目的地、ロシアの座標に向けてピンを深く刺すように、俺は一気に魔力を込めて空間を跳んだ。
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