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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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11/13

事故

ゆるゆると書いてます。

変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。

池袋ダンジョン1層の静寂の中、俺は順調に攻略を進めていた。


霧散させたモンスターたちが残した魔石や素材は、残さず『シャドウインベントリ』へと放り込んである。


カメラの向こう側にいる視聴者……いや、未来の視聴者に向けて、俺は少し調子に乗った実況を続けていた。


「さぁ、みなさん! ここまで出会ったモンスターたちは、一匹残らずアイテムに変わってくれました。……ということで、ここで一度、おやつターイム! なんてな……」


俺はインベントリから極小魔石を一つ取り出し、ポリポリと景気よく音を立てて齧る。


魔素の甘みが口に広がるが、今の俺が本当に求めているのは、こんなエネルギーの塊ではない。


「やっぱり美味ぇ。……でもな、本当は俺、米が食いてぇんだよ。揚げたての唐揚げも食いてぇし、熱々の味噌汁が飲みてぇんだ……グスン……」


脳裏に浮かぶのは、出汁の香りがふんわりと立ち上る、なめこと豆腐の味噌汁。


その夢の汁を啜る自分を想像して、思わず目頭が熱くなる。


いや、いかんいかん。


俺は今、カメラの前なんだ。


格好悪いところは見せられない。


「……よし。これからボスに挑戦だ。油断せず、気合を入れていくぞ!!」


俺は自分を鼓舞するように小さく鳴くと、重厚な石造りの扉へと手をかけた。





扉の先、ボスフロアに足を踏み入れる。


もう何度目になるだろうか。


俺がこの部屋の主なら、いい加減に顔パスで通してほしいくらいだ。


もし自分がフロアボスとして転生していたら、毎日毎日、同じ部屋で殺され続ける羽目になっていた。


そうならなかったことを、心から神様に感謝したい。


(撮れ高、撮れ高! ケンちゃんや、 Qtube で見た有名配信者たちみたいに、派手に行くか!)


俺はカメラの角度を意識しながら、中央に鎮座するゴブリンリーダーへと歩み寄った。


「……なんだ、お前。……嫌な匂いがするな」


「ボス、こいつが匂うんですか? お前、ボスの鼻が曲がるほど臭ぇってよ! ギャギャギャギャ!!」


醜い顔を歪めて嘲笑してくるゴブリンたち。


その時、俺の意識の端で『ピコンッ』という電子音が鳴った。


(なんだ……? 今の音。まあいい、今は集中だ)


俺はわざとらしく鼻を鳴らし、リーダーを指差して言い放った。


「……多分、お前らのボスが言ってるのはそういう意味じゃないと思うぞ? まぁ、お前らみたいな馬鹿に説明しても理解できないか。“鬼のなり損ない”で、俺の養分にしかならない存在だもんな」


俺はこれでもかというほど煽り立てる。


「ほら、どうせやられるんだからさっさと来いよ。“鬼さんこちら、手の鳴る方へ”……あ、悪い。鬼ですらなかったな」


そこまで言い終わった瞬間、沸点の低いゴブリンたちは、リーダーも含めて完全な逆上状態に陥った。


連携もクソもない。


ただ殺意に任せて、一斉に俺へと突進してくる。


(ヤバい、ちょっと煽りすぎたか!)


「アイツを殺せぇぇえええ!!!!」


「ギャギャァァアア!!!」


「『ファイヤーボール』!)」


俺は間髪入れずに3連発 の火球を放った。


ドォォォォォンッ! ドォォォォォンッ!! ドォォォォォンッ!!!


狭いフロアに爆炎が吹き荒れる。


盾代わりにされた配下たちが一瞬で霧散し、爆風に煽られたリーダーが床に転がった。


「ごめんな、ちょっと言い過ぎた。次に来る時は、もう少し優しくしてやるから」


俺はトドメの言葉と共に、倒れたリーダーの首筋を短剣で鮮やかに斬り裂いた。


戦利品は、極小魔石 4 つ と小魔石(赤)。そして、いつの間にか部屋の隅に出現していた宝箱には、幸運にも『ゴブリンリーダーリング』が入っていた。


「……これ、紗奈にあげたら喜ぶかな」


ニコッと笑う彼女の顔を想像して、思わず頬が緩む。


その時、再び『ピコンッ』という音が鳴り響いた。


(なんだよ、さっきから……。……通知音か?)


俺は不審に思い、急いで腰のデバイスを取り出した。





画面を見て、俺の思考は完全にフリーズした。


・着信 5 件

・メッセージ 1 件


すべて、紗奈からだった。


嫌な予感が全身を駆け巡る。


俺は震える指でメッセージを開いた。


『サク! 間違えて録画開始じゃなくて、配信開始ボタンを押したでしょ!! 今、生配信になっちゃってる! どうしよう……!!』


「(は……?)」


俺は血の気が引くのを感じながら、Qtubeのアプリ画面を確認する。


自分のチャンネルページに飛ぶと、そこには忌々しいほど鮮やかな「赤い丸」のマーク。


その隣には、はっきりと『 LIVE 』の文字が躍っていた。


終わった。


完全に、終わった。


後でカットされると思って、めちゃくちゃな独り言や煽り文句、挙句の果てには「味噌汁が飲みてぇ」なんていう泣き言まで、すべてがリアルタイムで世界に垂れ流されていたのだ。


俺はカメラの終了ボタンを、祈るように、そしてそっと押し込んだ。


全身から力が抜け、膝からその場に崩れ落ちる。


(やってしまった……。取り返しのつかないことを……)


呆然と立ち尽くしていたが、リンリリンリと再び激しい着信音が鳴り響いた。


通話ボタンを押すと、紗奈の悲鳴に近い声が聞こえてくる。


『サク!! ヤバいって、今の!!』


「(……本当に、ごめん。……俺、もう終わったわ……)」


『違うの! 同接人数、見た!?』


「(……同接? いや、焦りすぎて消すことしか考えてなかった……)」


『最終的に1000人以上に見られてたんだよ!それも、コメント欄がめちゃくちゃ盛り上がってたの!』


「(……でも、それって、俺が研究機関に連れて行かれるリスクが……)」


強くなりたい。


外の飯が食いたい。


金も稼ぎたい。


だが、正体がバレて捕まるリスクは避けたい。


今の俺の胸中は、複雑なジレンマでぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。


『でも、やっちゃったものは仕方ないよ。最悪、私の「ペット作戦」もあるし! サクはどうしたい? 配信、やめる?』


紗奈の言葉に、俺は一度深く息を吐いた。


確かに、起きてしまったことは変えられない。


それに……正直に言えば、どこかで人との繋がりを求めていたのかもしれない。


あのコメント欄のガヤガヤした空気感が、羨ましかったのかもしれない。


「(……いや、続けるよ。研究上等だ。なんなら、記憶を取り戻してもらうくらいの気でいてやるよ。紗奈、お前を稼がせてやるくらいの勢いでやってやるわ)」


『……本当にヤバかったら、すぐに私に連絡するんだよ? もう、サクは私の友達なんだから。何かあったら、私、嫌だよ……』


彼女の真っ直ぐな言葉が、絶望していた心に温かく染み渡る。


「(……わかった。ありがとう。とりあえず、今流れたコメントを見てみるよ)」


俺は紗奈に感謝を伝え、通話を切った。





:お、なんか始まったぞ


:サナサクちゃんねる? 初心者か?


:可愛い女の子の配信を希望する


「ギィ! ギギギギィ! ギィギ、ギギィギィィィィ!(はいどうも! 『サナサクちゃんねる』のサクでーーす!! 今日は俺の庭である池袋ダンジョン 1 層 から、攻略の実況をしていきたいと思いまーーーす! では、GO!!)」


:!?!!!??!???!?


:え? 何これ


:何が起きたんだ!?


:なんか鳴き声しか聞こえないんだが……


:ちょっと待て、こいつめちゃくちゃ喋ってるぞ


「ギィギィギ……(どうせ後でここはカットされるんだろうけどな……)」


:喋ってるというか鳴いてるんだが、何者だこれ


:テイマーのペットか?


:俺テイマーなんだけど、この鳴いてる子、めちゃくちゃ知性高いぞ。


:間違えてテイムモンスターがデバイスいじっちゃった説


:おちゃめさん、可愛いじゃねーか


:いや、そんなレベルじゃない。こいつ自身で配信始めやがったぞ!


:どういうこと? 通訳してくれ


:【通訳】最初はどこかの配信者みたいに「池袋ダンジョンを攻略していく」って言ってた。で、その後に「どうせ喋ってるところは後でカットされるだろう」って言ってる。


:頭良すぎwww


:何のモンスターだよ、これ


:ちょっと待て、このモンスター、強くねぇか?


:そもそもここはどこだよ。1層か?


:ゴブリンを二撃確殺……動きがモンスターのそれじゃないぞ


:わかる。というか、短剣の扱いがプロのシーフのそれだ


:モンスターのフリした狂人説?


:草。それなら不審者で即通報だろ


:いや、ちゃんとモンスターだと思うぞ。俺、テイマーだから聞き取れるんだもん


「ギィギィギィ(……この映像を観た奴らは、どんな反応をするんだろうな)」


:【通訳】「この映像を観た奴らは、どんな反応をするんだろうな」って言ってるわ。賢すぎる。


:かっこよ……


:おい、同接が増え続けてるぞ。


:当たり前だろ! Currentにも情報が流れ始めてるわ!


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