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ダンジョンで死んだらインプに転生したので、とりあえず盗みから始めてみる  作者: 道雪ちゃん


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10/13

肥満の駄インプの目覚めと、撮影開始

あれから俺は、仮の住処に引きこもり、ひたすらにデバイスを触り続けた。


見た目は進化して少しシュッとしたはずのモンスターなのに、その実態はだらけきった休日の人間そのものだった。


シャドウインベントリから魔石を取り出してはポリポリと齧り、喉が渇けば近くの湧き水をゴクゴクと飲む。


移動距離は、岩陰から水場までの数メートル。


(……あぁ、俺は駄目なインプだ。略して、駄インプだ……)


そんなことになる前、俺が真っ先に調べたのは、あの『新宿ダンジョン』の事件だった。


検索バーに『新宿ダンジョン イレギュラー 事件』と打ち込み、ヒットした当時のニュース記事を片っ端から読み漁る。


『新宿ダンジョンを襲う未確認モンスター、新進気鋭パーティ「フロントライン」が壊滅』


その見出しを見た瞬間、心臓が跳ねた。


記事の内容は、3年前の某月24日に起きた惨劇を詳細に伝えていた。


28階層を攻略中だったパーティ『フロントライン』が、その階層には存在し得ない龍種モンスターに襲撃され、 2 名 の犠牲者を出したというものだ。


犠牲者:リーダー・相馬 武晴さん(26)。高梨 朔さん(24)。


俺は、自分の抜け落ちた記憶をかき集めるように、その名前を一つずつ再検索していった。


辿り着いたのは、事件前の『フロントライン』へのインタビュー記事だ。


そこには、4人のメンバーが揃ってポーズを決めている写真があった。


(……黒崎玲司に、水瀬綾香。この2人が、俺の仲間だったのか)


写真に写る、背中を預け合っていたはずの男女。


ぼやけていたシルエットが、鮮明な画像として俺の脳内で重なり合う。


だが、不思議なことに「懐かしい」という確かな感覚は湧いてこなかった。


誰かを逃がしたこと、誰かの盾になったことは思い出せる。


だが、彼らとどんな言葉を交わし、どんな夢を語り合ったのか。


その肝心な部分が、霧の向こうに隠れたままだ。


そして、短剣を両手に持ち、どこかぎこちない笑顔でカメラを見つめる青年――高梨 朔。


「……ギギギッ」


俺は思わず変な笑い声を漏らしてしまった。


写真の中の俺と思われる青年は、今この身体でやっているのと全く同じ、2本の短剣を構えるスタイルだったからだ。


生まれ変わっても、種族が変わっても、結局やっていることは変わらない。


そう思った瞬間、目頭が熱くなり、大粒の涙が頬を伝って地面に落ちた。


自分の記憶は完全ではなくとも、こうして「自分が死んだ事実」を文字と写真で突きつけられるのは、複雑という言葉では言い表せない。


だが、悲しみに暮れている暇はない。俺には紗奈から貰ったこのデバイスがある。


時間はいくらでもあるのだ。


俺は強引に気分を切り替えると、自分を奮い立たせるように動画アプリ『 Qtube 』のアイコンをタップした。





ポリポリ、ポリポリ……。


ギッギッギ!


寝そべりながら、面白い攻略動画を観て笑う。


シャドウインベントリの影に手を突っ込み、まるでポテトチップスを食べるような気軽さで魔石を口に運び続けていた、その時だった。


『レベルが上がりました』


脳内に響いた無機質な声に、俺はハッと飛び起きた。


気づけば、シャドウインベントリに大量に貯め込んでいた魔石が、残るは小魔石(赤)が2つだけ。


(……あれ? 紗奈に、「ちょっとシュッとした」って言われたばっかりなのに……)


嫌な予感がして自分の腹を見下ろす。


進化して少しだけ引き締まったはずの腹部は、度重なる「魔石の過剰摂取」によって、再び見事なプニプニ具合を取り戻していた。


これは、動かないとまずい。このままでは、また紗奈に笑われ……。


「サク! 来たよ!!」


「……ギィ!?」


紗奈の声が響く。


来る前に連絡するって約束しただろうが!


俺は慌てて、ぽっこりと出た腹を隠すように黒いローブを手で押さえ、トコトコと彼女の元へ駆け寄った。


「サク? どうしたの、そんなお腹を押さえて」


「(……なんでもないよ! 大丈夫だ! それより、連絡してから来るって言ったじゃないか!)」


「ふふ、サプラーイズ!!」


紗奈はニコニコと笑いながら、俺の抗議を無視して一つの袋と小さな箱を差し出してきた。


中身を確認しろと促され、俺は爪を器用に使って箱を開封する。


そこにあったのは、超小型の耐衝撃・防水カメラだった。


「(おぉ……!! これって、デバイスと連動して配信とか、録画ができるやつか!)」


「うん! サクが配信したいなら、今の身体にはこれが必要だと思ってね。あと、袋の中も見て!」


袋の中には、俺の小さな身体にフィットする革製のチェストハーネスが入っていた。


これにカメラを固定すれば、激しい戦闘中でも安定して一人称視点の映像が撮れるというわけだ。


なんていい子なんだ、紗奈。


そして、これほど気配りができて俺とは普通に喋れるのに、なぜ人間相手だとコミュ障を発動させてしまうのか。


「(……紗奈、本当にありがとう)」


俺は感謝を込めて、ぺこりと頭を下げた。


「いいのいいの! 私こそ素材をたくさん貰いすぎてたし。役に立てば嬉しいな」


「(いや、これは貰いすぎだ……俺に何かできることは……)」


「んー、じゃあ……代わりに、もっと撫でさせて!」


それくらいならお安い御用だ。


……と思ったが、紗奈の動きは異常に速かった。


気づけば、俺は彼女の膝の上で、大型犬でもあやすような手つきでもみくちゃにされていた。


「あ、サク……。もしかして、ちょっと太った?」


(クソォォォォォ!!!)


俺は観念して、すべての事情を話した。


過去のニュースを見て落ち込み、気分を変えるために Qtube を観ていたら、いつの間にか魔石を完食して「駄インプ」化してしまったことを。


それを聞いた紗奈は、腹を抱えて爆笑した。


「はははっ! お腹痛い……! 本当に、中身は人間なんだねぇ」


「(そうだよ! だから人は苦手でも、見た目がコレな俺とは喋れるんだろ。俺をぬいぐるみか何かだと思ってないか?)」


「……えへへ。だってサク、お気に入りだもん!」


(はいはい、ありがとよ)


俺は苦笑しつつも、今日から早速動画を撮影することを決めた。


このままでは腹の肉が敏捷値に悪影響を及ぼしかねない。


運動不足解消も兼ねた、実益重視のプロジェクトだ。


「あ、私が編集しようか? 撮ったデータを送ってくれれば、私が勉強しながらやってみるよ!」


「(……いいのか?)」


「可愛いペットのためだもん、頑張るよ!」


「(……ペットじゃないっての。でも、助かる。ありがとな)」


その後、俺たちはカメラの設定やデバイスとの連動テストを繰り返し、俺は貯まっていた素材を彼女に託して、一旦別れた。





紗奈を見送った後、俺は早速ハーネスを装着し、胸元に小型カメラを固定した。


電源を入れると、視界の端に「待機中」の文字が浮かぶ。


まずは生配信ではなく、投稿用の動画撮影だ。


(よし……紗奈、次に会うときには『痩せたな』って言わせてやるからな。俺はシーフインプ……カッコいい姿にならなきゃいけないんだ)


俺は意を決して、運命の「開始」ボタンをタップした。


1層の入口。


そこが、俺の配信者としてのスタートラインだ。


「(はいどうも! 『サナサクちゃんねる』のサクでーーす!! 今日は俺の庭である池袋ダンジョン1層 から、攻略の実況をしていきたいと思いまーーーす! では、GO!!)」


「(どうせ後でここはカットされるんだろうけどな……)」


初めての投稿ということもあり、後で紗奈がカットしてくれることを前提に、 Qtubeで勉強した配信者たちの真似をして、精一杯明るいトーンでスタートを切った。


トテトテと1層の奥へ踏み出す。


遭遇するゴブリンやスライム、そしてコボルト。


今の俺からすれば、もはや作業に近い。


2撃確殺の流れるような動きで、次々と魔物を霧散させていく。


本来なら実況解説を入れながら進むべきなのだろうが、俺がどれほど喋ったところで、映像には「ギィ、ギィ」という鳴き声しか入らない。


そのため、俺は無言で、だが「撮れ高」を意識して、1層の隅々まで探索する様子をカメラに収めていった。


冒険者と鉢合わせしそうになった時だけ、『透明化』と『気配遮断』を全開にしているが、これも「撮れ高」を意識して、その場に留まり続ける。


そんな地道で、かつ新しい「攻略」を続けながら、俺は1層の主が待つボスフロアへと歩みを進めていった。


「(……この映像を観た奴らは、どんな反応をするんだろうな)」


俺は少しのワクワクと、それ以上の緊張を胸に、カメラを回し続けた。

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