紗奈は強くなりました
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
朝から桜台の紗奈の家に行き、事前に纏められていた荷物を全て俺のシャドウインベントリに入れ、引っ越し自体はすぐに完了してしまった。
家に帰ってきてから、紗奈の部屋へ荷物を入れる。
ここで俺は紗奈に、うちはペット可だからと、彼女のテイムモンスターたちは部屋から出しといて自由にさせておいていいよ、と伝える。
その方がノア子ら少女たちが喜ぶし、テイムモンスター自身も広々とした場所でくつろげると思ったからだ。
紗奈はそのまま自分の部屋で私物を片付けており、そこにはレイが付き添って仲良く手伝っている。
リビングではグレイスがグレイに抱きつき、シュナはリリとメロと一緒に楽しそうに遊んでいた。
ゴウキは今日、新宿でお笑いのイベントがあるということで出かけており、俺だけがリビングで完全に手持ち無沙汰になってしまった。
さすがに男である俺は、女の子のデリケートな私物を片付ける手伝いには入れないしね。
なのでテレビをつけてソファーでのんびりとくつろいでいると、画面の中のアナウンサーがニュースを告げた。
「次のニュースです。昨日、横浜のみなとみらい周辺で突如現れた、人型の飛行物体の映像がネット上で大きな話題になっています」
「なっ!?」
画面に映し出された現地の映像には、空中散歩をしていた俺と綾香の姿が、遠目ながらも小さくはっきりと映っていた。
SNSでこの動画が爆発的にバズってしまったらしく、俺の予想よりも遥かに大きく、早いスピードで世間に広がってしまったらしい。
「ねぇ、サク……」
ヒャッ!?
心臓が跳ね上がるような冷たい声に後ろを振り返ると、そこにはいつの間にか紗奈とレイの2人が立っており、ものすごいジト目でこちらを睨みつけてきていた。
「紗奈姉様、ニンゲンの間では、こういうことを浮気というんでしょうか?」
いつの間にか紗奈のことを姉様呼びするようになったレイが、とんでもなく鋭いことを言い出す。
レイ、そんな言葉を一体どこで覚えたんだ。
パパはそんなことは一切教えていませんよ。
「ち、ちがくて! これはその……」
「でもさ、画面のこれってどう見てもサクだよね。お相手の女性は……」
手元のデバイスに表示された元の投稿動画を、じっくりと一時停止しながら拡大して見ている紗奈。
「へぇ、水瀬さんかぁ……。ふーん……、私のことを大切にしてくれるって言ってくれたのにね?」
あぁ、そのジト目もめちゃくちゃ可愛いよ、なんて口が裂けても言えるわけがなく、俺は冷や汗を流しながらあたふたと言い訳を探す。
「昨日、急に綾香から連絡があってさ。前にノア子たちが原宿で色々とお世話になったから、その時のお礼の食事だったんだよ……」
「そういえば、前にそんな約束をしていたかしら。綾香には原宿で素敵なところへ連れて行ってもらったし、私たちもまた今度遊びに連れて行ってって、約束をしているものね」
ノア子ナイスフォローだ!!
お前のその一言で俺のHPが首の皮一枚繋がったよ!
「そ、そうなんだよ……。代わりに今度どこかへ連れて行ってくれって綾香に頼まれてさ……アハハ」
「ふふ、わかっているよ。前に私、言ったでしょ? サクのお嫁さんは何人いてもいいって」
ブフッ!!と、お茶を吹き出しそうになって激しく咽せる。
「でもね、私を一番に思ってくれなきゃ絶対にやだよ?」
「……どうしたの、紗奈。なんか今日、いつもよりグイグイと積極的というか……」
「今日からここで一緒に住むんだし、思ったことは最初から隠さない方がいいと思って。私はいつでもいいからね」
「ん? なにが??」
「――結婚」
積極的になり過ぎている紗奈の真っ直ぐな瞳に、もうここからは逃げられないなと思ったし、昨日すでに腹をくくったから逃げるつもりもハナから無いんだけど、こうして紗奈の側から先に言わせてしまって、男として自分がなんだか無性に恥ずかしくなった。
「は、はい。まずは、俺の目標を達成してからですね。その後、きちんと紗奈のご両親へのご挨拶をさせてもらってからですかねぇ……」
「うん、信じてるからね……」
そう言って、顔を真っ赤にしながら俺の胸へと勢いよく抱きついてくる紗奈を、俺は愛おしさを噛み締めながらよしよしと優しく撫でるしかなかった。
「サク様、紗奈姉様と結婚するんですか?」
ソファーの横から、グレイスが不思議そうに聞いてくる。
「そうなるかもしれないね。グレイスは、俺たちのことを祝ってくれるかな?」
「私は、ノア様とサク様、みんなと一緒にこの家でいれたらそれでいいです。サク様が大好きですから」
少女たちの中で一番俺に懐いてくれてるグレイスが、本当に嬉しいことを言ってくれる。
ちなみにシュナはゴウキに一番懐き、レイはグリムに一番懐いていた。
「……私は、2人の結婚のお邪魔になるのかしらね」
ノア子がポソッと寂しそうに呟く。
「そんなことあるわけないだろ。ノアと俺は、これから先ずっと一緒にいるって決まってるだろ。俺たちは大切な家族なんだから」
「紗奈は、それで本当にいいの?」
「もちろんだよ、ノアちゃん!」
紗奈と俺の迷いのない言葉を聞き、ノア子は心から安心したのか、「そう」と一言だけ小さく呟いて、お気に入りのビーズソファーの定位置へと戻っていった。
「よし、みんな! 私の部屋の片付けが全部終わったら、今日の夜ご飯の買い物にみんなで行こう! 今日はみんなの好きなものをたくさん作るからお手伝いしてね!」
「「「わーい!!」」」
紗奈の明るい提案に、ノア子ら少女たちは大喜びで飛び跳ね、さっそくリビングでおかずのメニュー会議が始まった。
「紗奈、本当にありがとう。色々と助かるよ」
「実はね、私、こういう賑やかなお家の雰囲気がすごく楽しみだったから。逆にこちらこそ、ありがとうだよ、サク」
こうして紗奈が我が家の大切な一員として加わり、俺たちの新しくて騒がしい共同生活が、本格的に始まったのだった。
◇
紗奈やノア子ら少女たちが夕食を作っている間、俺は自身の自室へと戻り、まずは人生の先輩である師匠にメッセージを送った。
折り返しでかかってきた電話で、これから人生に関わる大事な相談があるという旨を伝えると、向こうの師匠からは『……ふん、まぁ、なんとなく予想は出来る。目出度いな、坊主』と、こちらの状況を見透かしたような察しの良すぎる返答をもらい、師匠のスケジュールをしっかりと押さえた。
そしてもう1人、俺は連絡を入れておかなければならない相手へと通話を繋いだ。
「もしもし、いきなり連絡してごめんな」
『いや、気にしないでくれ。お互いに落ち着いたらまた会おうと言いつつ、ここのところバタバタしていたからな』
電話の向こうから聞こえてくる落ち着いた声の主は、かつて俺と同じ『フロントライン』に所属し、現在は最前線パーティである『レガリア』に所属してる黒崎玲司だった。
俺は玲司に対して、近いうちに男同士で真面目な大事な話があるから、どこか店で一緒に酒でも飲みながらゆっくり話せないか?と伝えると、彼は「あぁ、もちろんいいぞ」と快く了承してくれた。
「ちなみに、この約束のことは絶対に舞ちゃんには悟られないように上手く隠してくれよ。俺からの極秘任務だと思ってくれ」
『……どういうことだ? ……いや、余計な追及は野暮か、わかった。じゃあ来週な。会えるのを楽しみにしている』
そう言って、俺たちは通話を終えた。
これは俺の今後の人生の門出についての相談であり、それと同時に、目的であるルミナスドラゴン討伐計画についての正式な報告でもある。
人生の重大な決断を下すにあたって、師匠と当時の元メンバーである玲司にだけは、事前に話しておくのは当然の筋だと思ったからだ。
これは俺自身のケジメだけじゃなく、あの日に散ったリーダーの弔いでもあるのだから。
目を閉じると、生前の相馬さんとのたくさんの楽しかった思い出が、一瞬にして頭の中を駆け巡る。
そして、あの凄惨な最期の光景。
あのクソトカゲを、俺やリーダーを蹂躙した時のように、ただ簡単に殺して終わらせては絶対に気が済まない。
その復讐の結末のことを考えると、知らず知らずのうちに、自分の中にある黒い感情が激しく燃え盛るのがはっきりと分かった。
『ご飯ですよぉ!!』
ドアの向こうから、少女たちの賑やかな声が聞こえてくる。
その温かい声を聞いた瞬間、俺の胸の中に酷く昂ぶって渦巻いていた暗い感情が、一瞬にしてスッと優しいものへと変わっていくのを感じた。
「……よし、今行くよ」
俺が立ち上がって部屋のドアを開けようとした、まさにその瞬間だった。
「今日のご飯のおかずは、一体なにかしらね。……あは、わたしの愛しい弟。こんばんは」
俺のすぐ背後の空間から、純白の光の残滓と共に大天使クレアが何の前触れもなく唐突に姿を現した。
「心臓に悪いから、いきなり現れてビックリさせるなよもう……。ほら、姉ちゃん。行くぞ」
「ええ、喜んで付いていきますわ」
俺は突然乱入してきたクレアを引き連れて、みんなが待つリビングの食卓へと向かった。
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