同志との約束とすっぽかし続けた約束
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
拳を交えた手合わせのおかげで、分かり合うことができた俺とアストラ。
俺は日本へ帰る前に、これからの行動を決める上で、どうしても1つだけ本人に直接確認しておきたい大切なことを聞いてみた。
「アストラ、最後に確認として聞きたいんだけどさ。……実は俺の昔からの仇が、厄災の中に1体だけ混ざっているんだよ。そいつを俺が今すぐ現地へ行って、討伐して数を減らしちゃったら、やっぱり君としては駄目だよな?」
彼がこれまでに敷いてきた、世界の秩序とシステムと均衡を大きく崩す考えなのは、十分に分かっているからね。
「……それは駄目だ。維持するためには、例外はあるものの、秩序はどこまでも厳格な秩序でなければならん。現在の数である5体の均衡を、理由なく崩すことは認められんな」
「やっぱりか。……ちなみに、君の言うその『例外』っていうのはアレだよね? 向こうから、俺や俺の身内、あるいは俺たちの国に対して先制攻撃を仕掛けてきた場合とかのケースだよね?」
「そうだ。もし向こうから害意を以て攻めてきたというのであれば、それはもはやシステムの調停ではなくただの生存競争だ。……幻惑神サク、貴様はすでに我と世界の存続を誓い、共有した。我らの同志であるならば、向こうから仕掛けてくるまではその均衡のルールは厳格に守れ」
戦闘の真っ最中の時はあれほど楽しそうに笑っていたクセに、いざ話し合いに戻るとお堅い王様になっちゃうんだよ。
「……はぁ、分かったよ。そこは大人しくルールに従う。……それともう1つ。我が祖国である日本が今、俺という存在を専属として抱えているせいで、海外のニンゲン諸国からめちゃくちゃ嫉妬されて槍玉にあがっているんだよ。……もし万が一、国際政治の場で日本が窮地に陥るようなことがあったら、そっちへの牽制として『アストラ』の名をこちらの交渉のカードとして勝手に使ってもいいかな?」
「……どういうことだ?」
突然の政治的な質問に眉をひそめるアストラに対し、俺は今のニンゲンの表の政治の世界がどういう力関係で動いているのか、そして日本が現在置かれている国際的な立場がどうなっているのかを、順序立てて分かりやすく説明してやった。
「ふん、……そういうくだらぬニンゲンのパワーバランスの話か。それならば一向に構わん。……どうせならば、我の存在するこのアメリカという国も、その日本の枠組みの中に一緒に混ぜておけ。ここの管理者には、日頃から色々と無理をさせているからな。それくらいは資源という形で、現地のニンゲンどもに報いてやらねばなるまい」
「まぁ、そう言ってくれるなら助かるよ。そのアストラの意向に関しては、日本に戻ったらすぐに総理に伝えておくね。……これでクレアのイギリス、アストラのアメリカ、そして俺の日本という3か国は安泰ということだな」
「それで構わん。資源の分配や細かな諍いに関しては、地上のニンゲンどもが自分たちの知恵で勝手に考えればよいことだ」
「分かった。じゃあ用事も済んだし俺はそろそろ日本へ帰るけれど、最後にこれをここの部屋のどこでもいいから、適当に置いておいてくれよ」
そう言って、俺は先日クレアに手渡した時と全く同じように、自身のシャドウインベントリから直筆の特製サイン色紙を取り出し、アストラへと手渡した。
「それを影の媒介にすれば、俺のスキルでここへいつでも来られるようになるからさ。わざわざ世界の壁を越えて、あの面倒くさい『空間転移』の精密操作をいちいちやるのは流石に疲れるだろ?」
俺のサインを興味深そうに眺めていたアストラは、「なるほどな」と呟くと、何かを取り出した。
「ならば、我の側からはこれを貴様に渡そう」
そう言って彼から手渡されたのは、表面に不思議な星界の紋章が刻まれた、手のひらサイズの1枚の金貨のような物だった。
「貴様の発想と同じように、その金貨に宿る我の魔力を媒介にすれば、我もいつでも日本の地へ一瞬で行けるようになる。……我はこれまでに長いこと世界の調停者として各国のダンジョンを巡ってきたが、そういえば、まだ一度も日本という国には行ったことがないからな」
……ないからな、って、その語尾の余韻は何だ?
俺の直感が、これまた最高に嫌な予感しかしないと激しく警鐘を鳴らし始める。
「あ、いや、別にあれだぞ? 君はアメリカの調停者として毎日めちゃくちゃ忙しいと思うから、別に無理して日本に遊びに来なくても全然いいからね!?」
「何を言うか。我らはこれからの世界を護るための、唯一無二の同志であろう? また近いうちに、そちらの地で色々と深く語り合おうぞ」
向けられた王様のあまりにも純粋で嬉しそうな誘いに対し、俺は「お、おう……」としか引きつった返声を返すことができなかった。
俺はそれ以上の追及を恐れるように、急いでゴウキとノア子、そして少女たちを自身の影の底へと一気に引っ込めると、そそくさと『影移動』を使って日本へと逃げるように帰っていった。
これまで長い年月の間、誰とも友人としての交流を持たず、自身の高すぎる理念を共有できる対等な相手がいなかったあの傲慢な戦闘狂の王様。
俺という理解者を得てしまった結果、今後一体どれほどフランクに我が家に突撃してくるようになってしまうのか……。
俺の脳裏には、イギリスの大天使に続いてリビングがさらに大混乱に陥るという、最高に恐ろしい嫌な未来予想図しか思い浮かばなかった。
◇
日本に帰国してから数日が経ったけれど、俺が懸念していたアストラが我が家へ来訪してくるという、心臓に悪いサプライズイベントは今のところ発生していなかった。
流石に調停者として、アメリカをはじめ世界中のダンジョンを間引いて回る仕事で毎日忙しいだろうしな、とひとまず胸を撫で下ろす。
帰国後すぐに、俺は冒険者協会の師匠の元へと向かって事の顛末をすべて詳細に報告し、そこから絹川総理のルートへと機密情報を渡してもらった。
一応、グランドキャニオンの1層でアメリカ政府のニンゲンやトップ探索者と派手に揉めてしまった件と、最深部でアストラと軽い戦闘をおこなったことも包み隠さず伝えた。
後日、師匠を通じて総理から「我が国の公認神に対して、アメリカ側が多大な無礼を働いて本当に申し訳なかった」という、謝罪の言葉が届いたと伝えられた。
まあ、結果として日本、アメリカ、イギリスの3か国による水面下での生存同盟の確約が取れたわけだし、俺としては日本のためになるのであれば、これくらいの諍いは全く構わないんだけどね。
そうして国際的な大仕事がひと段落し、明日はいよいよ、待ちに待った紗奈がこの新宿の我が家へと正式に引っ越して同居を始める記念すべき日となった。
胸のワクワクと緊張感をどうしても抑えきれずにリビングでソワソワしていた、まさにその時、俺のデバイスに1本の通話連絡が入った。
画面に表示された名前に一瞬だけ思考がフリーズしつつも、通話ボタンを押して耳に当てる。
「もしもし、どうしたの?」
連絡をくれた相手は綾香だった。
『……もしもし、朔? ちょっと、そろそろわたしをご飯にでも誘ってくれてもいいんじゃない? 忙しいのはよく分かるんだけどさ』
あ、やばい。
完全に失念していた。
冒険者登録のあの日に、ノア子たちの原宿観光の付き添いとう残業をさせてしまった時に「どこか素敵な場所へ連れていってね」と言われていたんだ。
「本当にごめんな、綾香……。ちょっと本当に色々と世界規模のバタバタがあってさ……。……あれ? 協会の師匠から、俺の動向について何か聞いてない?」
『あのね、下っ端の私のところへ朔と会長が裏で話しているようなヤバそうな話なんて、いちいち降りてくるわけないでしょ。……で、朔の予定はいつ空いてるの?』
うーん……。
明日からは紗奈が正式にこの家で暮らし始めるわけだし、それ以降のタイミングはなかなか難しいよなぁ。
「……今日なら何とか行けるんだけど、流石に急すぎて難しいよね……?」
『行く。絶対に行くから! 今からすぐに準備する! でもさ、普通の場所での待ち合わせは流石に厳しいよね? 朔は有名人だから、街中で顔を晒したら一瞬で大パニックになっちゃうし』
「分かった。じゃあそっちの自宅の住所をメッセージで送って! 直接家の前まで迎えに行くからさ」
『了解! じゃあまた後でね!』
そう言って電話が切れ、綾香から送られてきたメッセージを確認する。
準備を終えたら、綾香の自宅の前まで迎えに行くことになってしまった。
ニンゲンだった頃も含めて、女の子とのまともなデートなんて今までにほとんど経験したことがないというのに、素敵な場所なんてわからないし、彼女を連れて行けばいいのだろうか……。
俺はデバイスで、『デート おすすめ 素敵』と検索しつつ、急いで自室のクローゼットへと私服を選びに向かうのだった。
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