神と王
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
突撃してくる聖騎士の一体一体は、確かにニンゲンの冒険者から見れば絶望的な強さなのだろう。
怪物相手との戦いであっても、この圧倒的な物量と聖なる力だけで余裕で押し切れてしまうはずだ。
だが、俺の領域はすでにその遥か上に至っている。
「『シャドウミラージュ』、――『リアリティブレイク』」
俺は自身の足元の影から分身体を3体作り出すと、間髪入れずに幻惑系最高位の権能を重ねて発動した。
幻惑をそのまま現実に実体化させる俺の中でも最強とも思えるスキルだ。
俺はこの3体の分身体に完全な実体を持たせる。
分身体のステータスは俺の能力の完全なコピーであり、神の格を持つ以上、まず負けるはずがない。
今、4体の俺が合計8本の大鎌を構え、波のように押し寄せる聖騎士の軍勢を正面から迎え撃つ。
「――『影葬』」
俺が手にする2本の大鎌に濃密な闇属性の魔力を強く込めると、連動して3体の分身体たちも一斉に全く同じ闇の魔力を大鎌へと込めだした。
そのまま一閃。4対の漆黒の刃が虚空を振るうと、空間を引き裂く特大サイズの闇の斬撃波が凄まじい嵐となってフロアを吹き荒れた。
最前線にいた聖騎士たちの強固な鎧が無惨にも紙切れのように切断されていき、貫通しながら後方まで飛んでいくと、千の軍勢の数が一気に出色に減らされた。
「……これが、神を冠する者の力なのか。……面白い、本当に面白いぞ!」
玉座の前に佇み、自身の聖騎士たちの動きを観察していたアストラだったが、その絶対的な劣勢の光景を前に、額から一筋の冷や汗を垂らしていた。
俺は手を緩めることなく、さらに『シャドウカラミティ』を重ねて使用する。
ボスフロアの床一面から無数の鋭利な影の棘が槍のように一斉に突き出し、残った聖騎士たちの身体を容赦なく串刺しにして襲った。
「アストラ、もうそろそろいいんじゃない? 俺の実力はこれで十分に分かったでしょ?」
「いや、まだだ。……我の王たる格を見せてくれよう。――『王権領域』」
アストラが重々しくそう唱えると、フロアの床一面が、目が眩むほどの黄金の輝きを放ちだした。
その瞬間。
フロア全体の重力が何倍、何十倍にも感じられるほどの凄まじい圧力が空間を支配し、立っているだけで全身の骨が軋み、思わず膝を折ってしまいそうになるほどの重圧が俺の肉体を襲う。
「……へえ、さすがは世界の調停者だねぇ。重いな」
「幻惑神よ、我こそがこの世界の支配者ぞ。我の前に、大人しく跪け」
バカ言え。
神より偉い王様なんてどこを探しても存在しないんだよ。
俺は展開していたシャドウミラージュとリアリティブレイクを静かに解除すると、固有スキルである『神の悪戯』を静かに発動させた。
まだ奥の手はいくつも残してあるけれど、手合わせならこれでいい。
俺はかかる重圧を完全に霧散させ、スッと何事もなかったかのように姿勢を真っ直ぐに戻すと、手に持つ2本の大鎌を軽く振るい、残っていた聖騎士の残党たちをまとめて綺麗に斬り伏せていく。
「何故だ……!? 我の絶対的な領域の中で、何故貴様は平然と動ける!?」
「え、だから、神だから」
「うぉぉぉぉおおお!!!!」
俺の至極あっさりとした言葉に激昂したように、アストラは玉座の前から弾かれたように飛び出すと、輝きを放つ大剣を全力で振り下ろした。
ドォォォンッ!!!
その一撃による衝撃は凄まじく、ボスフロアの床の岩盤が、まるで巨大な隕石でも直撃したかのように激しく弾け飛んだ。
広大なドーム全体が激しく揺れ動く。
「さすがはアストラ。『星』の名を冠するだけのことはある、素晴らしい一撃だよ」
「なっ……、貴様、何故だ……!?」
もうもうと立ち込める土煙の奥から、傷ひとつ、1ミリのダメージすら受けていない俺の姿が現れたのを見て、アストラは信じられないといった様子で硬直した。
「何故だ!? 我の間合い、我の全力の刃が、何故かすりもせず当たらぬ!!」
「だから、俺のスキルが働いているから。当たらないんだよ」
そこからアストラは、一撃一撃が地響きを起こすような途轍もない力と圧を持った連撃を仕掛けてきた。
大剣の軌道は正確無比であり、空間を抉るような神速の剣技。
だけど、俺はそのすべての攻撃を、ただ歩くような動作だけで完璧に躱し続ける。
というか、確率の因果がねじ曲がっているため、絶対に当たらないのだ。
「おい、アストラ。ただの軽い手合わせじゃないのか? これ、どう見ても完全に俺を殺す気で撃ち込んできてるだろ」
「何を言うか……! これほど全力で我が刃を振るっているというのに、当の貴様には掠りもせぬではないか!」
「じゃあさ、逆にこれを、こうしてみると」
俺は足元に転がっていた床の岩盤の小さなかけらを拾い上げると、アストラに向けて軽く投げつけてみた。
バキンッ!
アストラの白銀の鎧の肩口に、石ころが正確に命中して乾いた音を立てる。
「な? 俺の攻撃は当たるだろ?」
「い、いや……我は今の軌道を確実に視て、完璧に避けたはず……」
「当たるんだよ。俺の力で『当たる』という因果に書き換えているからね」
「……まだだ、我は王ぞ! まだ終わってはおらぬ!!」
プライドをかけてなおも魔力を膨らませる傲慢な王様に、一度ゆっくりと良い夢を見てもらい、冷静さを取り戻して落ち着いてもらおう。
「――『ナイトメア』、――『カオスフィールド』」
俺がそう呟いた瞬間、アストラは本能的な危機感を覚えたのか、バッ!と凄まじい速度で後ろへ大きく飛び退いた。
だが、神の精神干渉から物理的な距離で逃れることなど、最初から何の意味もないんだよ。
「……では、おやすみ」
アストラの頭上の空間から、巨大な漆黒のドーム状の結界が即座に形成された。
それは精神の深淵へと誘う闇の檻であり、幾重にも重なり合いながら、アストラの全身を完全に閉じ込めようと収束していく。
だが、さすがは世界最強の厄災の一角だ。
アストラはその結界が完全に閉じる前に、空間の隙間を縫うようにして瞬時にその場から外へと抜け出して見せた。
身のこなしといい反応スピードといい、これまでに見てきたどの化け物よりも圧倒的だ。
でもさ、さっきも言ったじゃん。
「――『当たるんだよね』」
空間をステップして抜け出したはずのアストラの姿はどこにもなく、代わりに彼自身が、自ら回避したはずの漆黒のドームのど真ん中へと最初から囚われていた。
俺のの創り出す空間からは、誰も逃れられない。
そして、しばらくの沈黙の後。
役目を終えた漆黒のドームがドロドロと影の沼のように溶け出して消え去ると、中からは息を切らし、片膝を地面へとついてガクガクと震えているアストラの姿が現れた。
「……勝てるわけがない。……これが、本物の神の力なのか………」
視線を床に落としたまま、アストラはぽつりと呟いた。
どうやら、ようやく格の違いを本当の意味で理解してくれたみたいだ。
レベル113の王様として、他にもまだ隠された強力なスキルや権能を持っているんだろうけれど、これ以上はすべて無駄だと判断してくれたみたいで、こちらとしても無駄な消耗がなくて本当にありがたいよ。
俺の攻撃は一歩間違えれば、アストラを本当に死なせかねない威力を持っているからね。
「俺の能力は、まだ他にも色々と用意してあるんだけど……もうこれでいいよね?」
「……貴様は強いのではない。最初から戦いそのものが成立しておらぬのだ」
「我が振るった全ての力は、貴様の前では意味を持たぬのだ。我の全力を以てしても貴様には敵わないということが、身に染みてよく分かった。……この手合わせ、我にとって至高の経験となった。ありがたく思う」
「あはは、分かってくれればそれでいいよ! じゃあ、これで俺たちはこれからの世界を支える大切な同志だ。だから、今後は仲良くしような、アストラ!」
俺が差し伸べた手を、アストラは鎧の籠手に包まれた手で、力強くガシリと握り返してきた。
「……もちろんだ、幻惑神サク。我らが存在するこの世界のために、今後は互いに強く協力し合おうぞ」
最初は冷酷で一切の感情を悟らせない荘厳な王様だったけれど、こうして拳……いや、互いの力をぶつけ合ってみれば、案外すぐに分かり合えるものだよね。
男の子同士の付き合いには、こういう熱いやり取りで一気に深まる仲だって確実にあるもんだよ!
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