終わりの王
ゆるゆると書いてます。
変なところがあれば都度ストーリーに関わらない程度に直しております。
中に一歩足を踏み入れると、そこは天井が見えないほどに広大な巨大ドーム状の空間となっており、フロア全体がどこか神聖で張り詰めた空気によって満たされていた。
そのフロアの最奥、天井の隙間から一筋の神々しい光が差し込まれた玉座があり、そこには1人の、全身に純白の聖騎士のような重厚な鎧を纏った男が静かに腰掛けていた。
俺はあえて武器も何も構えず、そこまでつかつかと軽い足取りで歩いていく。
「……待っていたぞ。貴様が新たな厄災だな」
空間をビリビリと震わせる、圧倒的な威厳のある重い声が、俺の腹の内側へとズシッと響き渡る。
目の前の個体に向けて『アナライズ』なんて発動したら、クレアの時のように一発で相手にバレてしまうんだろうなぁと思いつつも、やはりそこは戦闘に備えて見てしまうのは仕方のないことだよね。
そして返ってきた、解析結果。
■名前:??? 種族:アストラ・エンドロード
ほう、固有の名前の欄が『???』表示ということは、元々は純粋なモンスター側から現在の格へと上り詰めた存在なのか。
「我が言葉を掛けて問うているというのに、無視か?」
「あ、ごめんごめん。ちょっとステータスが気になっちゃってさ」
「随分と礼儀がなっていないな、貴様は。……我はこの世界を正す調停者であり、頂点に立つ王ぞ?」
「ごめん。俺、種族の格としては『神様』だからさ」
「……。そうか、……確かにそうだったな」
俺の神としての返しに、誇り高き王様は、ほんの少しだけ返答に困ったように沈黙した。
ちょっと困っているじゃん、王様。
「……して、我に何用か? ただの挨拶というわけではなかろう」
「そうなんだけどさ、ここに来るまでに色々と疑問が浮かんできてね」
俺は玉座の前に立ち、1つずつ気になっていた疑問を聞いていった。
ここは本来ボスフロアのはずなのに、まるでアストラ専用のフロアみたいに構造が作り替えられていること。
元々どんなモンスターだったのか、ということ。
現在のステータスのレベルはどれくらいなのか、ということ。
なぜ世界の調停者なんていう面倒くさい立場に好んでいるのか、ということ。
そして最後に、現在のアメリカ政府のニンゲンたちと裏で繋がっているのか、ということ。
向けられた多くの質問に対し、アストラの言葉のトーン自体はどこか冷たく感じるものの、中身としては結構丁寧に答えてくれた。
まず、この部屋に関しては、管理者に命じ、アストラ専用の玉座の間へと無理やり作り替えさせたらしい。
この傲慢な王様の理不尽な要求をハイハイと聞くしかない管理者には、心から同情するよ……。
そして、アストラは元々、『星界騎士』という特異なモンスターとしてこの世に生まれたらしい。
そこから生存競争を勝ち抜いて世界で初めての『厄災』の格へと至り、現在のステータスのレベル数値は113だと言っていた。
なぜ調停者なんてやっている?という質問に対しては、「我が存在するこの世界を守ろうとするのは、その世界に生きる強者として至極当然のことだ。そして、その世界に生きる無力なニンゲンやモンスターのために動くのも、王としての義務であり、当然のことだ」と断言していた。
生まれながらにして本物の王様気質なのだろう。
その回答を聞き、少なくともこいつには、世界そのものを理不尽に滅ぼそうとする意思は一切無いのだと分かって安堵した。
そして、現在のアメリカ政府と裏で深く繋がっているかどうかという問いには、「……知らん。そのようなニンゲンの政治など我の関知するところではない」と一喝された。
そもそも、我を管理しようなどというニンゲンが、どうやってここまで辿り着けるというのだ?と、ぐうの音も出ない正論をかまされる。
まあ、英国政府と水面下で繋がっている(というか勝手に守っている)クレアはあの性格だから例外として、フラフラしてたらニンゲンの上層部とたまたま接触があったんだろう、と俺は脳内で推察する。
クレアと池袋の食卓で話した内容の中で、アストラが世界中のダンジョンを自らの手で潰して回っているという話があった。
管理が行き届いていないダンジョンや、魔素が飽和したダンジョン、イレギュラーの発生確率の高いバグったダンジョンなどだ。
それによって成熟や中枢ダンジョンを失ったニンゲン同士の戦争が起きるかもしれない、ということについての彼の見解はこうだった。
「それはニンゲン側の都合の話だろう。我はダンジョンという世界のシステム側に干渉できる存在として、我がやるべき役割を果たしているだけだ。資源を失ったニンゲン同士の諍いは、ニンゲン自身の手で解決しろ」と発言し、まさにクレアの予想が完璧に当たっていた。
いや、その冷徹とも言える合理的なシステム管理の考え方に関しては、実は俺も全くの同意見なんだよね。
大規模なスタンピードやイレギュラー、そして世界の厄災の数自体の調整などは、こちら側の規格外な領域の力を持った者でないと物理的に不可能なはずだ。
世界には未発見のまま長期間放置され、いつの間にか魔素が飽和状態となっている危険な隠れダンジョンだって数多くあるだろうし。
俺は目の前のアストラに対して、自身のスタンスをハッキリと伝えた。
「……俺も、厄災の調整だったり、ダンジョンの間引き管理に関しては、適度に手伝うよ。世界のシステムが完全に崩壊したら、俺の大切な祖国である日本も一緒に崩壊しちゃうからね」
「……フッ、好きにすればいい。貴様には、それをこなすだけの圧倒的な力があるだろう。……ただ、我の敷いた世界の秩序を乱さなければ、我から貴様に文句を言うことはない。だが、もしも万が一、貴様が世界の均衡を大きく乱した時は……」
「なに? 俺と正面からやり合うの?」
「そうなるであろうな。……例え我であっても、神を相手にするとなればただでは済まないであろうがな。……そうだ。我はこれまで数多くのイレギュラーや世界の厄災を見てきたが、本物の『神族』の領域に至った個体と対峙するのは、これが初めてなのだ。……幻惑神サク、我とこの場で少し手合わせを願えないか?」
なんだよこいつ、澄ました顔をしておいて、中身はとんでもない戦闘狂かよ。
「おいおい、ここで俺たちが暴れたら、このボスフロアそのものがぶっ壊れちゃうよ。それに、俺は君の『世界を守る』っていう全体の理念には大いに賛同してるんだ。この世界を存続させるという立場においては、俺も君も、あのクレアも、みんな同じ同志だろう?」
俺の制止を無視し、アストラは空間に向けて力強く声を張り上げた。
「――おい、管理者。今すぐこの33層の強度を、システム上の最大限界値にまで強制強化しろ。ほかの上の階層がどうなろうと知らん」
うわぁ、この王様、自分の要求を通すための態度が傲慢過ぎぃ……。
「神族と刃を交えるなど、初めてのことなのでな。……我も、ようやく本気を出せそうな相手だ」
「なんだよ。もしかして君、周りに誰も対等に話せる友達がいなくて寂しかったのか?」
「……友達とは何だ? よく分からぬが、我の側の戦闘準備はすでに完璧に出来ている。……幻惑神よ、始めようぞ」
それまで冷酷で一切悟らせない、荘厳で威厳のある王様だったはずのアストラが、獰猛に犬歯を剥き出しにして、子供のように嬉しそうに笑っている。
なんだよこいつ、戦う前からめちゃくちゃワクワクしやがって。
「……はぁ。分かったよ、受けて立つ。だから、戦う前に1つ約束してくれよ。こういうマジの戦いをするのは、本当にこれっきりにしてくれ。俺と君とクレアは、これからの世界を護るための大切な同志なんだ。世界がぶっ壊れないように、今後はしっかり協力してくれよな」
「……分かった。貴様と我は、これより世界の均衡を護る同志だ。……では、いくぞ?」
アストラが腰の巨大な大剣をゆっくりと引き抜くと、その鞘の隙間から、フロア全体を真昼のように照らし出す、目が眩むほどに強烈な『聖』と『光』の輝きが溢れ出た。
そして彼がその大剣をボスフロアの地面へと深く突き刺すと、アストラの背後の空間に、巨大で複雑な黄金の魔法陣が何重にも重なり合って浮かび上がる。
その莫大な魔力量の膨れ上がり方に、俺の直感が嫌な予感しかしないと警鐘を鳴らす。
「おいおい、ちょっと待て。ただの手合わせのつもりじゃないのか?」
「――ふん、我はそのつもりで"全力"の調整をしているぞ?」
スケールのデカすぎる手合わせだこと。
俺は、自身の足元の影からゴウキとノア子の2体をフロアへと呼び出した。
「おいおい大将……ありゃなんだ? ちょっとヤバすぎねえか?」
「とんでもない密度の魔力圧ね。……サク、私たちはどう動いたらいい?」
「ゴウキもノア子も、厄災同士の戦いなんて、今までに一度も見たことがないだろ? 特等席でじっくりと見学しててよ。今後の自分たちの戦いにぜひ活かしてほしいから。……あ、少女たちも、全員を召喚して一緒に見せてあげて」
俺は配下たちを巻き込まないように安全な後方へと退がらせると、自身の背中のから、漆黒の輝きを放つ2本の大鎌を両手でしっかりと握り締めた。
その時、アストラの背後に浮かび上がった巨大な魔法陣の光の中から、白銀の鎧を身に纏い、武器を構えた数え切れないほどの『聖騎士』の召喚体が次々と出現し、あっという間に広大なボスフロアの地面を埋め尽くしていった。
「てっきり、1対1のシンプルな手合わせだと思っていたんだけどなぁ」
「貴様の方こそ、後ろに凄まじい力を持つ配下を複数体も控えさせているだろう。我の目から見ても、全員が優に厄災級の格に至っていると視えるがな?」
「あぁ、俺の自慢の配下たちだよ。でも、今回のこの戦いは俺しかやらないから安心してよ」
「……。ならば、我も貴様が"死なない程度"の塩梅に全力を出すぞ? 神である貴様を相手にするには、これくらいの手数を揃えてやらなければ、そもそも手合わせにすらならんだろうからな」
無茶苦茶な戦闘理論を平然と言いやがって、この戦闘狂の王様め。
「……ちなみに、そこに出現した聖騎士の兵隊、全部で何体いるんだ?」
「――1000だ」
「そりゃあ、これ以上ないくらいに思いっきり楽しめそうだな。……じゃあ、遠慮なく一斉にかかってこい!」
俺が忍装束の奥で不敵に言い放つと、アストラは突き刺していた大剣を豪快に引き抜き、剣先を真っ直ぐに俺へと向けた。
それを合図に、1000体の聖騎士の軍勢が、地鳴りのような足音を響かせながら俺の身に向けて一斉に突撃を開始したのだった。
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