さすが関西は農家まで商売上手
はじめて大阪から山の辺の道を歩きにきた今日のこと、スタート時点ですでにいつもより30分遅れだったのに、結局のんびり花見を楽しんでしまった。これから、ちょっとスピード感を持ちつつも、春の山の辺を楽しんでいくことにしよう。
大神神社からしばらくは、林に囲まれてひっそりした、心細くなるくらい狭い小径をたどる。ちょっとした小川とか、谷間の畑とか、小さなお寺なんかを通り過ぎて、ハイキングコース然とした趣の山道をひとしきり進むと、ようやく視界が開けて、檜原神社に着いた。
ここは、本殿はおろか拝殿すらない、おもしろい神社だ。境内からは、桜咲く道の彼方に大和盆地の一角が見晴らせて、ベンチもある。大神神社を出て最初の休憩所として絶好のスポットだ。
ここから先は、これまでと打って変わって、明るく開けた農村風景の中を歩くところが多くなる。檜原神社を出ると、さっそく、ミカン畑の中に桜やら桃やら見えてきて、春ハイクの醍醐味満点。
ときどき車の通る道路も歩くが、そのうち田中の農道に入って、春の陽を浴びながら野の花咲く道を行けば、花好きかつ歩くの好きな人間にしてみたら、もう、たまらん!
そんなウキウキ気分で進んでいくと、道のわきに、袋に入ったミカンを置いてあったりするのが、ちょくちょく目に入る。農業用のケースを台にして置いてあったり、屋根のついた手作りの棚に並んでいたり、スタイルはいろいろだが、「1袋百円」なんて書いてある。いわゆる無人売店というヤツだ。
読者諸氏のご近所には、無人売店、あるだろうか?
当方、今住んでいるところは、あまりにも田舎過ぎて、かえってないのだが、かつて暮らしていた神奈川のはずれでは、よくお世話になったもんだ。その無人売店では、季節ごとの品々がどれでも1つ百円で、当然店番の人はいなくて、お金を棚の一角に伸びているプラスチックの筒に入れて、シナモノを持って帰るスタイルだった。
その売店で売っている野菜とか果物は、スーパーのそれらと比べると見た目が悪かったりするものが多かったが、そのぶん安かった。これはちょっとスーパーに出せないな、っていうシナモノを安く置いているんだろうけど、安かろう悪かろうで結構、っていう貧乏人脳には、野菜が高いときは特にありがたい。しかも確実に地場産品が手に入る。
ミカンとか白菜とかネギとか、スーパーと組み合わせてよく使ったもんだ。
山の辺の道を歩いていると、そんな無人売店をあちこちで見かける。数えたことはないが、全線にわたってかなりの数あるんじゃないだろうか。
農村をたどる道だから、売る作物はいくらでもあるだろうけど、お客がいなければこんなに店が出ることもないだろう。この道がいかに親しまれているかっていうのが、無人売店からも透けて見えてくる。
商品ラインナップとしては、果物メインのところもあれば野菜メインのところもあるが、果物のほうが多い印象。春のこの時期はかんきつ類一色だが、秋になると、どこもかしこも柿が並ぶ。
歩いていれば、ミカン畑とか柿畑をそこらじゅうで見かけるわけだが、なっているのを眺めるだけじゃなくて、買って帰ることもできるし、なんならかじりながら歩くこともできるっていう寸法だ。季節を、目だけでなく舌でも感じられるってのは、なかなかオツなもんじゃなかろうか。
そんな無人売店を眺めながら歩いていると、みんないろいろ個性があっておもしろい。スタイルとかラインナップがいろいろなのは今言ったとおりだが、店によっては、作物だけじゃなくて手作りの食べ物まで置いてある。
それも、たとえば干し柿とかジャムあたりなら、果物を売っているわけだから、さもありなんという感じがするが、手作りの大福を置いてある店まであるのだ。
こんな無人売店、見たことあるだろうか? 私はよそでは見たことない。
山の辺の道歩きのお供に、っていうことなんだろう。ちゃんと発泡スチロールの箱にしまってあって、開けて取るように書いてある。しかもそこに、「大人気」とか「ほっぺたが落ちるおいしさ」なんて売り文句まで書いてあるのだ!
こんな無人売店、見たことあるだろうか? 私はよそでは見たことない。
これはきっと、ここが関西であることと無関係ではないんじゃなかろうか。関西の人自身はどう思っているか知らないが、よそ者にとっては、関西といえばやっぱり関西商人だ。
昔、関西出身のプロ野球選手が、ヒーローインタビューで「まいどー!」って叫んでいたのも記憶に新しいところだし、関西の某鉄道会社の駅員にものを尋ねたときも、なんか、応対が駅員というより店員っていうフンイキに感じた。
そんな商人マインドが、こういう町はずれの素朴な農村にも、あたりまえのように、自然にあふれているっていうことなんじゃなかろうか。うーん、やっぱり、奈良って、関西なんだなあ……。
もちろん、実直に果物だけを置いてある、見慣れたスタイルのところも少なくないのだが、シナモノが果物だけだったとしても、「1袋百円のところ3袋で二百円」だとか、「はっさく1袋お買い上げの方にはミカン1つサービス!」なんていう店もある。これまた、よそでは見たおぼえがない。
そんなふうに、道端の無人売店に関西人の商人マインドを垣間見ながら歩いていくと、やがて前方後円墳のほとりを通る。はじめて歩いた頃は、歴史の教科書で見たアレがいまここに!って感激したもんだが、その傍らにも、無人売店。
それもそのはず、いくら第一級の遺跡がそこにあったって、まわりはまごうことなき農村だ。畑には野菜がなり、ミカンがなり、菜の花とかボケとかユキヤナギとか、春の花も色とりどりに咲いている。
その後も、ときどきお寺とか神社とか古墳なんかもありながら、時が止まったような古民家の集落に入ったり、山の眺めがいい開けた畑を横切ったりして、心弾む春ウォークが続く。そんな道も後半に入ってしばらく行ったあたり、畑から集落に入ろうかというところに、ひとつの休憩所がある。
農家の納屋を解放したようなスポットで、沿道の農家が個人的にやってくれているんだろう。無人売店を兼ねていて、果物以外にお米なんかも置いてあるのだが、冷凍庫にソフトクリームまで置いてある。テーブルにはインスタントコーヒーとポットが置いてあって、これは自由に飲んでもいいものらしい。
これまで、関西人の商人マインドにばかり触れてきたが、その奥底に流れているのは、きっとおもてなしマインドなんだろう。そのことを、ここで付け加えておかなきゃいけないようだ。




