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大阪から山の辺の道はこんなに遠いのか

 法隆寺で鐘の音と桜を満喫した明くる日は、山の辺の道を歩きに出かけて、桜やら桃やら菜の花やらを眺めながら、田園の春を味わわせてもらうことにする。


 山の辺の道、知っている人手ェ挙げて!


 ……関西人なら、その名を聞いたことくらいはある人が多そうだけど、他のエリアの人が知っているとしたら、かなりの奈良ツウと言っていいんじゃないだろうか。

 北は奈良市から南は桜井市まで、おおむねJR桜井線と並行するようにして、大和盆地の東の山すそをたどって伸びている散策コースだ。そのうちの南半分、天理から桜井の間の15キロ程度が特によく整備されているので、ここを山の辺の道と呼ぶことが多いだろう。


 元をただせば、大和朝廷発祥の地ともいうべき今の桜井エリアと、当時の「新しい都」だった平城京エリアを結ぶ道で、「日本最古の幹線道路」なんて呼ばれたりする。それだけに、沿道には日本最古と言われる古社あり、教科書で見たような前方後円墳あり、伝説の宮跡あり、万葉集の歌枕ありと、日本古代史の舞台が目白押しだ。


 ただ、そんな一級の遺跡が、落ち着いた集落とか田畑とか果樹園とか、農村の日常の中に完全に溶けこんで、渾然一体となっているのがまたおもしろい。農村だけに、道端には野の花が咲いているし、果樹園なら春は桃の花のピンク、秋には柿の赤が目を楽しませてくれる。

 古代を身近に感じつつ、四季の趣を存分に味わえる散歩道なわけだ。


 この道はこれまで幾度も歩いてきたが、春に秋に、奈良へ来るとどうしても歩きたくなってしまう。この春もまた、山の辺の春景色を求めて歩きに行くことにした。


 で、そんな山の辺の道を1日かけて楽しむべく、私はいったいどこに泊まったでしょう?


 昨日のならまちとか法隆寺くらいなら、荷物を背負ったまま歩きまわってもまだ何とかなるが、今日はそこそこアップダウンもあるところを、丸1日かけて延々15キロ歩こうというのだ。さすがにあの大荷物といっしょに歩く気にはならない。宿に連泊して荷物を置いて、今日必要なものだけデイパックに詰めて出かける必要がある。

 さりとて、いつも山の辺の道を歩くとき、奈良のゲストハウスに連泊するのが常だったところ、ああも高いと、1泊でも手が出ないものを連泊なんて夢のまた夢だ。


 それで、結局泊まったのは……西成・あいりん地区。

 そう、つい3日前、あれだけ宿探しで苦しめられた、あそこだ。だが今回は、難なく宿を押さえることができた。しかも西成価格で。


 なぜか……何のことはない、今回はちゃんと前日に予約しておいただけのことだ。3日前のあの阿鼻叫喚は、大丈夫だろうとタカをくくって当日まで取らずにいたのが元凶なわけで、このインバウンド禍でも、平日なら、前日くらいまでは安いところを取れるようだ。


 そんなわけで、宿に連泊して、荷物を置いて山の辺の道を歩くという、これまでと変わらないスタイルを貫く準備は、無事整った。だが、これまでと大きく違うところが1つある……泊まるのが奈良じゃなくて、大阪。山の辺の道までの距離が全然違うのだ。


 私はこの道を歩くとき、いつも桜井駅のひとつ隣の三輪駅をスタート地点にしている。その三輪駅まで、奈良からだったら30分もかからないのに、新今宮からだと、どうも1時間以上かかるらしい。調べてみたら、いつも奈良を出る時間より早く新今宮を出ても、三輪に着くのがいつもより30分以上も遅くなる。


 丸1日かけてのんびり満喫したい山の辺の道、少しでも早く歩きはじめたいところ、この30分遅れは痛い。かといって、もっと早く着こうとすると、三輪駅を通るこの桜井線という電車は、朝の通勤時間帯なのに30分に1本しか走っていないので、さらに30分早く宿を出るハメになる。

 うーん、それはちょっと……。

 仕方ない。30分遅れプランで行くしかないな。宿がいけないんだ、宿が。


 かくして、朝のあいりん地区のただ中を、仕事に出かけていく人々を横目に駅へと向かう。途中、朝早くからやっているスーパーで弁当をゲットしつつ、駅に着き、ほどなくやってきた大和路線の快速に乗って、まずは王寺おうじ駅へ。


 新今宮から王寺までで、全体の半分くらいの距離があるのだが、快速だし、快適に飛ばして20分くらいで済む。問題は、残り半分だ。

 奈良からだったら電車1本で行けるところ、これから2回乗りかえなきゃいけない。どっちの乗りかえも接続自体はスムーズなのだが、乗りかえが多いと、それだけでヤケに時間を食う気がするし、遠さも感じるもんだ。

 加えて、乗りかえる電車は、どっちものどかなローカル鈍行。これまた、時間も距離も長く感じさせる。


 王寺で快速電車を降りて、昔ながらのこ線橋を渡っていくと、和歌山線の鈍行がお待ちかね。これに乗って、奈良のはずれの田園地帯を20分ばかりコトコト揺られていくと、終点の高田に着く。ここでまた乗りかえだ。

 前後の電車は王寺から三輪まで乗りかえなしで行けるのに、なぜかこの電車だけ高田止まりっていうのが、なんだか妙に気に障るのだが……。


 乗りかえる電車は、桜井線。ここでようやく、目指す三輪駅を通る電車に乗れるわけだ。ただ、線の名前は変わっても、車窓から見えるのは、あいかわらず奈良の田舎の風景。

 今日は1日、自分から好きこのんで奈良の田舎をほっつき歩こうというのだが、今電車から見える景色は、さしておもしろみを感じない。そんなことより、早く三輪に着いて歩きはじめたい……。


 高田を出た電車は、田園風景の中を走って、一旦、奈良第2の都市・橿原かしはらの町中に入って、そこを抜けるとまた田園風景。そうして10分ちょっと走ると、大和盆地東側に連なる山並みが間近に見えてきて、ほどなく、1つ手前の桜井駅に着いた。さあ、あと1駅。

 ところがそのとき、車掌の放送が入る。

「当駅で13分ほど停車いたします。発車までしばらくお待ちください」

 あと1駅なのにぃ……。


 ここまでお読みいただいている読者諸氏はご記憶だと思うが、この旅の前半、中国地方をめぐる鉄旅で、駅での長時間停車と、ホームに降りて景色を眺めるひとときをさんざんありがたがってきた。でも、この桜井駅は、ホームに降りてもさして旅情をそそる風景を見られるわけでもないし、そもそも今そんな気分じゃないことはお分かりだろう。

 仕方なく、車内でおとなしく待つわけだが、そうすると、この13分がとてつもなく苦痛に感じる。


 こいつは、いっそここで降りて歩きはじめちゃったほうがよかったかな……。

 山の辺の道を南から北へ向かって歩くとき、この桜井駅からスタートするのが、どちらかというとオーソドックスなんじゃないかと思う。でもそうすると、歩きはじめていきなり、おもしろくもない町中を延々歩かされるし、車もそこそこ多くて気分が悪い。だからいつも三輪からにしているのだが、よりによって、ここでこの待ち時間。

 どっちみち13分で三輪まで歩いて行けるわけじゃないから、こうしてボケーっと待つしかないんだけどさあ……。


 実際の何倍にも感じる苦痛な13分が過ぎると、ようやく電車は桜井駅を出て、3分くらい走ると、ついに待ちに待った三輪駅に着いた。新今宮駅を出て、実に1時間17分。


 いやー、大阪から山の辺の道、遠っ!

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