結婚
「わかって、いたんですね」
アミリアさんも、俺のこの感情を察していたようだ。
あの眠れない夜に、結論はまた今度でなんて言っていたが、それも希望はまだあると自分に言い聞かせるためのものだったのか。
そう言っておけば、まだその言葉を聞かなくて済むから。
「そうですね。ロードさんはもう、選ぶ覚悟を持っている。だからもう、これ以上言っても変わらないだろうな、って」
聖女様はそこで座り込んだ。
その目には、涙が浮かんでいた。
試練の前に結論を急かされていれば、もしかしたら言われるままに協力していたかもしれない。現に、あの時は結局選べずに夜を超えてしまった。
試練が先でよかった、と内心ほっとしていた。
だが、アミリアさんは続ける。
「私は、それでも諦めたりできません。今夜は駄目でも、来月、再来月、翌年、もっと先も、何度もあなたにこの儀式を持ち掛けるでしょう」
「そうですか」
完成したリザレクションは、いつか彼女や周りを巻き込んで悲劇を招く。
だから、俺の今の目的はリザレクションそのものを、父を、諦めさせることだった。
だが、彼女は諦めることはしないと、何度も言う。
これ以上は意地と意地がぶつかり合うだけで、何の結果も生まない。
そう、どちらもわかっているだろう。
「わかりました。それで、元の話に戻りますよ。完成しているならば尚更、それが理由で攫われた可能性が高いわけです。これから何度、犯罪の魔の手が及ぶかわからない」
「......はい」
聖女様は、そのまま俯く。
まぁ、これで最初の話に戻ってきても、内通者を話そうとはしないだろう。
「わかりました。では、内通者は話したくなったら話してください」
「......問い詰めないのですか」
「その覚悟はそう簡単に、揺らがないでしょう?」
俺はそう問う。
そして沈黙。それは肯定でもあった。
「それでは、重い話はここまでにしましょう」
ぱん、と手を叩いて空気を入れ替える。
もちろん二人の間に広がる空気のほうだ。
まぁ正直、ここまで重くなるとは思っていなかったが。
「......えぇ、分かりました。でも、まだ何かありましたか?」
アミリアさんは頬に手を当て、唸るほどに考えていた。
だから、俺から。
片方の膝を地面につけて、手を出す。
「アミリアさん、結婚してください」
これは、改めて言うべき言葉だと、そう思ったから。
だからこの場を使った。
ここ以外に、二人の時間を取れない、間に合わないと思ったから。
「――――儀式魔法の協力をしてくれるなら、構いませんよ?」
「それはちょっと......」
それを言われると俺は弱い。
どちらが大切、なんて言う話ではないほどに、どっちも大切な選択なのだ。
さて、どうしようか。と今度は俺が唸って考える番になってしまった。
すると、アミリアさんはふふっ、と口に手を当て笑った。
「冗談です。結婚しましょう」
彼女は俺の手を取る。
その表情は、太陽のように眩しかった。
「よく聖女アミリアを連れ戻ってきた、ロードよ」
また式。今度は英雄を讃える的な式のようで、アミリアさんと総隊長も出動していた。
「何か、褒美を出そう、希望はあるか?」
教皇様は、興味を持ちながら問いかけた。
俺がなんと答えるのか、欲深き人なのか、それとも無欲なのか、知りたいのだろう。
「そうですね、一つだけ」
そう、答えた。
「ほう、言ってみろ」
教皇様は立ち上がって、うろうろとし始める。好奇心で落ち着いていられない表れだったが、誰もそれを咎めることはなかった。
俺は教皇様に一言。
「聖女、アミリア様との結婚のお許しを」
宗教の重役、と言うだけならまだ結婚は自由だっただろう。だが、その視線を集める外見を、さらに外に滅多に出ないことで希少価値を高めて宗教活動に使っていた彼女が結婚をするとなると、それは個人の自由とは言えないほどになっている。
だから俺は、この褒美を使ってでも結婚をしてやると、そう決めていた。
「......ほう。そう来たか」
教皇様は顎に手を当てながら椅子に座った。
今まで何も行動を起こさなかった大聖女様も何を感じたか、小さくくすりと笑いを漏らした。
教皇様の目は一度、アミリアさんのほうへと向けられた。
そのまま数秒、沈黙。
そして、教皇様の一言が部屋に広がる。
「聖者ロードと聖女アミリアの結婚を許そう」
その瞬間、周囲の兵士の拍手が部屋に鳴り響いた。
小手をつけているため金属音だったこともあり、その音は少しうるさいほどだった。
大聖女様も小さく、拍手をしている。
「ハッハッハッ。孫が結婚とは、これまためでたい。祭りをするぞ!」
教皇様は立ち上がった。
俺はその思い切りの良さよりも、その前の一言に意識が持って行かれた。
「今、なんと......?」
「祭り......いや、そっちではないな。アミリアは私の孫だ」
隣を見れば、こくり、と頷いたアミリアさん。
なんと、つまり......
「ご家族にご挨拶の手間が省けたって考えても良いのか......?」
小声が漏れてしまうのも、論点はそこなのかというツッコミが入るのも仕方ないだろう。
聖女を娶った聖者、という褒美と共に、教皇様との思わぬつながりが出来てしまったのだから。
次回本日深夜予定。少々お待ちください。




