歪ー41 評議会の幕間
休憩に入った俺たちは、評議会場を離れ、王城内に用意された控室へと移動していた。
部屋に入ると、ハンスは椅子に腰を下ろし、静かに息を吐いた。
「ひとまず、午前の審議は終わりましたね」
「ああ。だが、大派閥が優勢な状況に変わりはないな」
そう答えたのはロンド伯爵だった。
伯爵は向かいの椅子に腰を下ろすと、難しい表情を浮かべていた。
「パーシヴァル公は、王国全体の連携が必要だという点では正論を述べていた。あれでは中立派の貴族たちも、簡単には反対へ回るまい」
ハンスは静かに頷いた。
「ええ。問題は、それを口実に西方の経済まで中央の貴族たちが握ろうとしていることです」
「だが、エルドルンの惨状を考えれば、王国全体で対策を講じる必要があるのも事実だ」
実際にあの街の惨状を目にした俺としても、魔族への備えを強化する必要性は理解できる。
だが、それを理由に西方の経済まで中央に任せるのは、話が違うだろう。
「……今のまま採決に持ち込まれれば、こちらが不利だ。地方派と中立派の一部は味方についているが、数では向こうが上回っている」
ロンド伯爵はそう言って、腕を組んだ。
「代替案を提示しても、簡単に賛否が逆転するとは思えない。だが、何もせず議案を通すわけにはいきません」
「そうだな。中立派が全員こちらについたとしても、票数は足りない。大派閥の内部を切り崩すか、聖リヴォニア教会派が支持を撤回しない限り、我々の案が採択されることはないだろう」
ロンド伯爵の言葉に、ハンスは険しい表情を浮かべながら頷き、テーブルの上に置かれた資料へ目を向けた。
「いずれにせよ、午後は予定どおり対案を提示します」
ハンスはそう言って、手元の資料を閉じた。
どうやら、午後も厳しい議論になりそうだ。
とはいえ、前半のやり取りが無駄だったわけではない。
アルトゥール公爵、聖リヴォニア教会派が重大な不正に対してどのような立場を取るのか、それを確認できただけでも十分収穫だったと言えるだろう。
そんなことを考えていると、控室の扉が控えめに叩かれた。
「――失礼いたします。ラック公爵様に、お届け物がございます」
扉の向こうから聞こえた声に、俺は顔を上げた。
「俺に?」
「はい。クロマ商会からのお届け物です」
俺は席を立ち、扉の方へ目を向けた。
「入ってくれ」
扉が開き、王城の使用人が封書を手に入ってきた。
「こちらでございます」
「ありがとう」
封書を受け取り、差出人を確認する。
「ラック公、それは?」
ハンスが尋ねてきた。
「以前依頼していた調査の報告のようです」
俺は封を切り、書類を取り出した。
数枚の報告書に加え、調査で入手した記録の原本も添えられている。
まず報告書に目を通していく。
……なるほど。
続けて添えられた記録にも目を通すと、思わず口元が緩んだ。
「何か分かったのか?」
ハンスの問いに、俺は顔を上げた。
「ハンス公、この報告書を見てもらえますか? すこし調べてほしいことがあるんです」
俺が差し出した報告書にしばらく目を通していたハンスは、やがて真剣な表情で顔を上げた。
「……なるほど。確かに、これは確認しておく必要があるな」
報告書に記された情報だけでも十分に価値はあるが、これを材料にするなら、確かな裏付けが必要になる。
ハンスもその点を理解したのだろう。
控室の外に控えていた従者を呼ぶと、すぐに調査の指示を出した。
「……どのくらいかかりそうですか?」
「おそらく後半の審議中には返答が届くはずだ」
審議中か。
採決までに間に合うかどうかは、議論の進み具合次第だな。
やがて、廊下から休憩の終了が近いことを知らせる声が聞こえてきた。
「後半の審議は、私が中心となって対案を説明することになる。調査結果が届くまで、できるだけ時間を稼いでみよう」
「あとは、こちらの思惑どおりに事が運んでくれるといいんですが……」
「ああ。だが、今はできることをやるしかない」
俺はハンスの言葉に頷くと、受け取った書類をしまい、二人とともに控室を後にした。




