↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第十五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

506/509

歪ー39 論戦



 現時点で確認できていることは、ひととおり説明した。


 カフカと魔族の関係については、今後の調査で明らかにしなければならないことも多い。


 だが、少なくともヘルメースの内部を詳しく調べる必要があるという点については、議場でも一定の理解を得られたようだ。


「ほかにご質問はございますか?」


 議長が出席者たちに問いかけた。


 しばらく待っても、新たに手を挙げる者はいない。


「 それでは、エルドルン襲撃事件に関する報告は、ここまでといたします」


 俺は軽く頭を下げ、隣のハンスも静かに着席する。



 これでひとまず、俺たちの報告は終わりだ。


 もっとも、本当に重要なのはここからだろう。


 ヘルメースと魔族の関係が明らかになった以上、これまでヘルメースと深いつながりを持っていた者たちも、無関係ではいられないはずだ。


 議長は手元の書類を整理すると、改めて口を開いた。


 「続きまして、王国の統治体制の見直しについて審議を行います。こちらは、中央による地方行政への関与を強化することを目的として、大派閥の諸侯より提出された議案です」


 その言葉に、議場の空気がわずかに変わった。


 今回の評議会で、大派閥が強く推し進めようとしているのが、中央による統制の強化だ。


 地方行政に対する王都の権限を拡大し、管理を一元化する。


 表向きは王国全体の秩序を守るための改革だが、その権限が大派閥の貴族たちに集中することになれば、地方領主の立場は今よりも弱くなる。


 「議長、よろしいでしょうか」


 ハンスが再び手を挙げた。


 「ハンス公爵、どうぞ」


 「先ほどのエルドルン襲撃事件に関する報告を踏まえ、今回の統制強化案について、一つ確認しておきたいことがあります」


 ハンスは大派閥の席へと視線を向けた。


 「今回の事件では、王国の交易を担ってきたヘルメースのロイヴァ・カフカが、魔族と結託していたことが明らかになりました。これまで信頼されていた組織でさえ、その内部で何が行われているのか、十分に把握できていなかったのです」


 ハンスは一度言葉を切った。


 「だからこそ、新たな管理体制を築くのであれば、その権限を誰に委ね、どのように監督するのかを慎重に考える必要があるのではありませんか?」


 「おっしゃることは理解できます」


 大派閥の席から、一人の貴族が答えた。


 「しかし、今回の事件が明らかにしたのは、地方の管理体制だけでは不正を見抜けなかったという事実でもあります」


 男は議場を見渡し、言葉を続けた。


 「各領地がそれぞれの判断で対応していては、こうした問題を防ぐにも限界があるでしょう。だからこそ、王都が各地の状況を把握し、統一して監督する仕組みが必要なのです」


 「管理体制を見直す必要があることは、私も否定しません」


 ハンスは落ち着いた口調で答えた。


 「しかし、今回の統制強化案を推進している諸侯の中には、ヘルメースと長年にわたって取引を重ねてきた方々もおられます」


 その言葉に、大派閥の席で何人かの貴族が顔を見合わせた。


 「もちろん、取引そのものを問題にするつもりはありません。しかし、その関係について十分な説明がなされないまま、新たな権限の配分を決めてしまうのは、あまりにも早計ではありませんか?」


 「……それは、我々がヘルメースの不正に関与していたとおっしゃりたいのですかな?」


 「そこまでは申し上げておりません。ただ、これまでどのような関係にあったのかを明らかにする必要はあるでしょう」


 ハンスの言葉に、大派閥の貴族たちが表情を険しくした。


 「ハンス公、それはいささか乱暴な話ではありませんかな」


 別の貴族が口を挟んだ。


 「ヘルメースは王国有数の商業ギルドです。交易に携わる貴族であれば、取引や交流があって当然でしょう。それを理由に不正への関与を疑われては、たまったものではありません」


 「もちろん、通常の取引まで問題にするつもりはありません」


 「であれば、ヘルメースとの関係を持ち出すこと自体、無意味ではありませんか?」


 その反論に、何人かの貴族が頷いた。


 確かに、ヘルメースと取引していたというだけで、魔族との結託を疑うことはできない。


 ハンスもそれは承知しているはずだ。


 「私は、皆様が魔族と結託していたと申し上げているのではありません」


 ハンスは大派閥の席を見渡した。


 「ただ、ヘルメースとの関係について十分な説明がなされないまま、新たな統治体制を決定することには賛成できません。少なくとも、関係する諸侯への調査が終わるまでは、今回の議案について結論を急ぐべきではないと考えています」


 「……なるほど。つまり、我々の適格性を疑っておられるわけですな」


 「王国の将来に関わる問題ですからな。慎重に判断すべきだということです」


 「しかし、調査が終わるまで改革を先延ばしにするというのも、いかがなものでしょうか?」


 大派閥の貴族は、なおも食い下がった。


 「今回のような事件が再び起こらぬよう、早急に対策を講じる必要があるはずです。調査の必要性は理解しますが、それを理由に王国全体の改革を遅らせるべきではないでしょう」


 その言葉に、大派閥の席から賛同する声が上がった。


 確かに、調査と改革は並行して進めることもできる。


 大派閥の主張にも、一理あるということか。


 そのとき、大派閥の席から、一人の男がゆっくりと立ち上がった。


 これまでの議論では発言していなかった貴族だ。


 男が立ち上がると、周囲の貴族たちが自然と口を閉じた。


 どうやら、大派閥の中でも相応の発言力を持っているらしい。


 「――議長、私からも一言よろしいでしょうか」


 「どうぞ」


 男は軽く一礼すると、ハンスへと向き直った。


 「ハンス公のお考えは理解しました。しかし、ヘルメースとの関係を理由に、我々が王国の統治を担う資格を疑われるというのは、少々納得しかねますな」


 落ち着いた口調だったが、その声には有無を言わせぬ迫力があった。


 「我がパーシヴァル家は、長年にわたり聖リヴォニア教会と歩みを共にしてまいりました。魔族との結託など、断じて容認できるものではありません」


 聖リヴォニア教会。


 その名が出たことで、俺は改めて男へと目を向けた。


 パーシヴァル家の当主。


 ガラハッドの父親であり、聖リヴォニア教会から強い後ろ盾を受けている大貴族。



 「今回の事件でも、ハンス公は以前からヘルメースの不正を疑い、調査を進めておられたと伺いました。しかし、そのような尽力があったにもかかわらず、結果としてエルドルンの惨劇を防ぐことはできなかった」


 その言葉に、議場の一部がざわついた。


 「無論、ハンス公に責任があると申し上げているのではありません。むしろ、一人の領主の努力だけでは対処しきれない問題があるということです」


 男はそこで一度言葉を切り、議場を見渡した。


 「ですが、今回の事件で最も重く受け止めるべきは、魔族が王国の都市を壊滅させたという事実ではありませんかな?」


 先ほどまでとは異なり、その声には強い響きがあった。


 「我々が今なすべきは、互いの関係を疑い合うことではなく、魔族の脅威に対抗できる王国を築くことです。そのためには、王国全体が一丸となって対処できる体制を整えなければなりません」


 男はハンスへと視線を戻した。


 「それこそが、聖リヴォニア教会の掲げる神聖な秩序を守ることにもつながるはずです」


 大派閥の貴族たちから、賛同する声が上がった。



 教会の理念を持ち出して、議論の方向を変えるつもりか。



 確かに、言っていることはもっともらしい。


 だが、ハンス公がこのまま引き下がるとも思えない。


 俺は隣のハンスへと目を向けた。


 当の本人に焦った様子はない。


 むしろ、相手の発言を待っていたかのように、静かに耳を傾けていた。


 やがて、パーシヴァル家当主が席に腰を下ろすと、ハンスがゆっくりと立ち上がった。



 「おっしゃるとおり、王国全体で情報を共有し、魔族の脅威に対処する体制を築くことは必要でしょう」


 ハンスはそこで一度言葉を切った。


 「しかし、それと今回の統制強化案は、果たして同じ問題なのでしょうか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。