朝日さんのショッピング!
日曜日の午前10時、いつもの日曜日ならばまだ布団の中で寝ているはずだったのだが朝日は東星学院前駅の近くにある星空の天使と呼ばれる像の前でベンチに座りながらうなだれていた。
ちなみにだがこの星空の天使像は地元の人から待ち合わせ場所として親しまれている銅像だ。
「相変わらずの顔ね」
ベンチの隣に生徒会長が座った。
今日は学校じゃないからか、いつもの着物は着ずに白いワンピースを着ていた。
「生徒会長か、おはようございます」
朝日は気のない返事を返す。
「せっかくの休みなんだからもっと元気出しなさい」
「その休みを台無しにしたのはどこのどいつだよ」
朝日はベンチにもたれかかりながらあくびをした。
「そんなに悪い休日にはしないわよ」
「だといいんだけどな」
そんなことを話していると
「朝日くん、おはよ」
今来たのであろう春川が挨拶をして来た。
「ああ、おはよ」
朝日は春川をちらりと見ながらそっけなくそう言う。
「朝日くん来たんだね、良かった。私てっきり朝日くんはこう言うの苦手かと思ってたけど?」
「苦手に決まってるだろ。強制的に連れてこられただけだよ」
朝日は生徒会長の方に視線をやりながらため息をつく。
それを見ていた春川は苦笑いをした。
春川とはあの依頼の一件があってから時たま話すようになった。
と言っても廊下ですれ違った時に挨拶をしたりする程度ではあるのだが。
「春川、他のみんなはどうした?」
「機龍くんは立花さんと妹さんと一緒に来るみたいだから、多分もうすぐ来るよ。笹野さんと無元くんはまだ来てないの?」
「笹野は知らんが無元は『寝坊したから先に行っててくれ』って今さっきメールが来た」
「そ、そうなんだ」
春川は若干引きつった顔で笑っていた。
想像していた無元のイメージが春川の中で崩れて来ているのだろう。
それについては朝日の知ったことではないのだが。
「そういえば、朝日くん。妹さんは?」
「今コンビニに行ってるんだよ。口乾いたから飲み物買って来るだってさ」
一応、これでも兄妹なので一緒に来たのだがここに向かっている最中、終始無言だった。
まあ、話すことがないのだから仕方がない。
そんな話をしながら残りのメンバーを待っていると機龍と立花、機龍妹が遠くの方に見えた。
ちゃっかり笹野の姿も見える。
どうやら途中で会ったらしい。
これで寝坊した無元以外は揃った。
そんなこんなで一行はショッピングへ向かうのであった。
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まずは必需品を買って行く。
主に合宿の練習中に食べる軽食類や怪我した時に使う湿布などを買い揃えて行った。
それらが買い終わる頃には無元もなんとか合流することができた。
「遅かったな」
「すいませんね。ここに着いたのは良かったんですが道に迷いまして」
無元は苦笑いをしながら頭をかく。
「先にいろいろ買ったけど、お前はどうするんだ?なんも買ってないけど」
「僕は近くのスーパーで適当に揃えますよ」
「ここに来た意味ないな」
「いや、まあ約束ですからね。来ないわけには行きませんよ」
「なら、寝坊しないことだな」
「うっ、ごもっともです」
そんな感じで無元が落ち込んでいると
「一通り買いたいものは買ったか? 次はどうする?」
機龍がみんなにそう聞いた。
「買うもんないなら飯でも食いに行こうぜ。お腹へってさ〜」
笹野がお腹を抑えながらそう言う。
「私はまだお兄様と買い物したいです。お腹が減ったのなら1人で食べに行ってはどうです?」
そう言うのはさっきからずっと機龍の腕に抱きついている機龍妹だ。
なかなか辛辣なことを言う。
「ななみ⁈ そこまで言う必要ないだろ。もうお昼時だから俺もお腹へってるし」
「すいません、お兄様。ですが私は本当にお兄様と買い物がしたかったんです」
上目遣いでそう言う機龍妹に機龍はタジタジだ。
あれでは機龍はもう妹に強く注意できないだろう。
機龍妹は、なかなかやり手のようだった。
そうして意見がなかなか一致せずにいると
「それなら、水着を見に行くのはどうですか?」
生徒会長がそんなことを言った。
「ほら、私達が行く合宿先は海が近くにあるそうじゃない。その準備は今するしかないわ!」
そい言いながら生徒会長はちょうどよく目の前にあった水着売り場を指差す。
「た、確かにへんな水着は着ていけないわね。お兄様もいるし、、、、」
機龍妹は水着売り場を見ながらボソッとそう言う。
「そ、そうだな確かに水着は大事だ!」
笹野も合意したように頷く。
「ふふ、意見は一致したようね。それじゃ、行きましょう」
その他の女子達も了承したようでみんなで水着売り場に入っていく。
「女子達は水着を買いに行くのか。それじゃあ、俺たちはここで、、、、」
と機龍が言いかけると
「何やってるんですか? 機龍さんも行きますよ」
生徒会長はそう言って機龍の腕を掴むとずりずりと引きずりながら水着売り場の中に引っ張って行く。
「い、いや⁈ 生徒会長! ここ女物の水着売り場ですよ!」
「あら、機龍さん。水着を着た乙女を評価する人は必要でしょう?」
そんな理不尽なことを言われながら機龍は水着売り場へと消えて言った。
それを見ていた朝日達は
「なあ、無元。この茶番いるか?」
「この中でやって行くためには見るしかありませんね」
2人とも呆れ顔でこの茶番を見たのであった。
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朝日達はなかなか女子達が水着売り場から帰ってこないので近くにあったベンチに座って待っていた。
すると前の水着売り場から生徒会長がこちらに向かってひょいひょいと手招きをしている。
「なあ、無元。あれはどっちに手招きしてるんだろうな? 俺かお前か?」
「いつもの通りに行けば朝日さんですね」
「そうだよな〜」
朝日は特に気にした様子もなくデバイスでゲームを始める。
どちらを呼んでいるか正確に分からない以上、朝日も動けないのである。
まあ、これはただの言い訳であり、十中八九朝日を呼んでいることは明らかなのだが、ただ単に行きたくないのである。
しかし、
ピロン!
とデバイスから電子音がなり画面の上の方に
『早く来なさい!』
とメールが送られてくる。
それでも無視してゲームをしていると
ピロン!
ピロン!
ピロン!
と何通もメールが送られて来て画面を覆い隠す。
もはや、ゲームどころではなかった。
「はあ〜〜〜」
朝日はそんなため息をつきながらゲームをやめると水着売り場の方へ向かう。
「来るのが遅いわよ」
「あのなあ、俺はお前の子分じゃないんだ。なんだよ?」
「ふふ、ちょっと来て」
生徒会長はそう言うと水着売り場の奥へ入っていく。
朝日も生徒会長について行く。
すると更衣室の前に着いた。
生徒会長は悪戯少女のような笑顔を見せると水着を持って更衣室の中に入る。
しばらくして、バサッと更衣室のカーテンが開く。
そこには真っ黒なビキニを着た生徒会長が得意げな顔で立っていた。
どうやら、これを見せたくて朝日を呼んだらしい。
その姿は非常に美しく、普段は着物であまり強調されていなかったがその彫刻のように綺麗なプロポーションがこれでもかと言うくらい強調されていた。
加えて、黒いビキニがなんとも言えない色気を醸し出しまさに完成された美人という感じだった。
周りにいた他のお客さんも感嘆するほどだ、余程すごかったのであろう。
「どう?」
生徒会長はその姿を朝日に見せながらそう聞く。
「似合ってるよ。綺麗、綺麗」
朝日は無表情でそう行った。
朝日も男である以上、今目の前にいる女性は眼福であることは確かなのだがあれが生徒会長だと思うとなんでかあまり良い気がしない。
「そっけない返事ね」
生徒会長はつまんないと言った感じでそう言う。
「そう言われてもな、いきなり連れてこられてそんなもの見せられたらこうなるさ」
「さっきの機龍さんは面白い反応したのに」
生徒会長はため息をつきながら項垂れる。
どうやら、これの第一犠牲者は機龍らしい。
ご冥福をお祈りいたします。
「あなたももっと面白い反応してくれるかと思った」
「生憎、俺は二次元の方が好きなんでね」
「呆れた」
生徒会長は更衣室のカーテンを閉める。
またしばらくするとカーテンが開き、今度はしっかりと服を着た生徒会長が立っていた。
「本当にあなたはブレないわね」
「まあね」
そう言いながら朝日は水着売り場から出て行った。
また、しばらくベンチで待っていると女子達が水着売り場から出て着た。
一緒に行った機龍は若干、元気が無いようにも見えたが特に構うことはなかった。
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水着売り場を離れやっと昼食にする事ととなり、一行は近くのフードコートに入った。
フードコートには多くの数の店が並んでいた。
ファーストフード店にラーメン屋、うどん屋、中華料理、ピザなどなど数えるのが面倒なくらい並んでいる。
その中からそれぞれ好きなものを買って来るようにして各々散らばって行った。
朝日は考えるのも面倒だったので無難にファーストフード店でポテトとハンバーガー、コーラを買って席に着いた。
席には荷物番をしていた無元しかまだ座っていなかった。
どうやら、他はまだ並んでいるらしい。
「朝日さんは相変わらずですね」
荷物番をしていた無元が呆れたように言う。
「無難だろ。ハズレないし、美味しい」
朝日はポテトを食べながらそう言う。
「まあ、そうですけどね! せっかく、来たんですからもっと良いもの食べましょうよ。そのファーストフード店、朝日さんの家の近くにもあるじゃないですか!」
「よく行くぜ」
と、わざとらしく親指を立てる。
そんなこんなでまったりとポテトを食べているとあることを急に思い出しハッとする。
「どうしたんですか?」
無元は不思議そうに聞いた。
「そういえば新作ゲームの予約をしてたんだよ。今思い出した」
慌てたように朝日はごそごそとカバンをあさり中から財布を出す。
「予約?」
朝日は財布から予約の本人控えを出して無元に見せた。
「それって3日前に発売されたやつですよね?」
「ああ、せっかくだからと思って初回限定版を予約したんだよ。ここのゲームショップで予約してたのすっかり忘れてた」
「朝日さんこの予約の期限、今日の16時までですよ!」
「マジかよ!」
朝日は急いで時間を確認すると15時45分を指していた。
「ヤベエ〜〜、時間ねえ!ごめん、無元。ちょっと行って来るから先にみんなで食べてろ!」
朝日はポテトとハンバーガーを口に詰め込むと一目散にフードコートを出て行く。
そのゲームショップは今いる2号棟の隣である3号棟にあるので間に合うかは厳しいがいかないよりはマシであった。
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運命というものは良く出来ている。
なぜ、そんなことを言うかと言うと朝日が立ち去ったその5分後、このフードコートでは能力至上主義団体によるテロが起こるからである。
そのテロは程なく機龍達、優秀な能力者によって鎮圧され、またも機龍は新聞やテレビで話題の人物として取り上げられる事となる。
ここに朝日がいなかった事が運が良かったのかはたまた悪かったのかよくは分からないが少なくとも歴史は彼を表に出す気は無いらしい。
しかし、後に朝日曰く、
「マジで運良かったわ」
と言っているのできっと運が良かったのだろう。




