朝日さんは気圧される
第5章です!
7月の中旬ごろ、テロ事件の騒ぎも過去のものとなり生徒たちの天敵である期末試験も終わった。
あとは夏休みを待つだけと、ゆる〜い空気が学院を満たしている。
ここ東星学院も他の高校と同じようにしっかりと夏休みがある。
ここ数か月、生徒たちはこのために頑張っていたようなものだ。
それだけ夏休みと言うのは学生にとってかけがえのない時間であり青春を謳歌する絶好の機会だ。
友達と海に行ったり、山に行ったり、はたまた恋人と夏祭に行ったり、などなど。
考えるだけでも楽しみは尽きない。
そんな最高の夏休みがあと一日で始まるという今日。
「朝日さんは何も予定ないんですか」
「無いな」
ミス研の部室でいつもの椅子に座りながらリモコン片手にテレビゲームをしている朝日に向かって無元は呆れたように言う。
「無いなって、寂しすぎません」
「そうか?」
「そうですよ。もっとこう、友達と遊びに行くとかないんですか?」
「そんなもの無いよ。いいじゃん、この夏休みくらい一日中、家でゴロゴロしてても」
「一カ月近く家に入るつもりですか」
「俺はそのつもりだったんだが」
「それもう、ニートですよ」
「ニートで結構、最高だろ」
朝日はゲームを一時停止すると無元の方を見ながらそう言う。
そこには悪びれた様子は微塵も感じられない。
「それにだ。最近、依頼の数がバカみたいにあっただろ」
「ま、まあ確かに沢山ありましたね。迷子の犬を探してくれとか、落し物探してくれとか、倉庫の整理手伝ってくれとか」
「だろ、それにこの前の生徒会長からの依頼。あれが本当に面倒だった」
「ええ、確かにあれは骨が折れましたね。期末試験問題を盗んだ犯人を捕まえてくれってやつですよね」
「ああ、何とか犯人は捕まえたけど、おかけで期末の勉強が出来なくて散々の結果だったんだぜ」
「ほぼ、平均点台でしたっけ?」
「ああ、平均だったよ。英語は赤点ギリギリだったけどな」
「良かったじゃないですか、赤点は確か補習でしたよね」
「まあ、とにかくだ。最近忙しかったんだから一カ月くらい好きにしてもいいと思うわけですよ」
「確かに忙しかったことは認めますけど、さすがに一カ月ニートでいるのはヤバイ気がするんですが」
もはや諦めたような目をしながら無元が湯飲みのお茶を啜っているとガラガラと部室のドアが開く。
「予想どうり、あなた達ならいると思ったわ」
生徒会長がひょこっとドアから顔を出して来た。
「また、生徒会長か! 今日は何しにっ」
と朝日が言いかけた時、生徒会長の後ろからついてくるようにもう1人、誰かが入って来た。
朝日はその姿を見るや否や素早くゲームのスイッチを消す。
あたりに散らかっていた漫画やゲーム機器を自身の糸の能力を神技的に使って所定の位置に戻した。
その速さはまさに目にも留まらぬ速さで、そのもう1人の人が部室に入って顔を上げる前にはすでに隠し終わっていた。
何で朝日がこんなことをしたのかと言うと
「どうも。えーーと....、極堂先生。何の御用でしょうか?」
そう、生徒会長の後ろから現れたのは当学院を代表する鬼講師、極堂恵だったのだ。
「悪いね、失礼するよ」
極堂はそう一言だけ言う。
極堂 恵、その名前から分かるとうり女性だ。
それも、厳つい女性と言う訳ではなく、むしろ超絶スタイルの良い人で顔もキリッとし髪もショートカットで整った、側から見ればカッコイイ感じの超絶美人なのだが...、
学院では鬼講師としてよく知られている。
生徒たちの噂する逸話は数知れず。
最近では学院長より強いのでは?とまで言われている。
「本郷、案内ありがとう」
極堂は生徒会長にそう言うと生徒会長は綺麗にお辞儀をする。
「さすがにこんな辺境にあるとは思わなかったよ」
極堂は部室をぐるりと見回すと朝日の前まで歩いて行く。
「いや、すまないね。急に押しかけてしまって、忙しかったかい?」
「いえ、問題ないです。むしろ、暇で暇でどうしようかなって考えてたところですから」
朝日は引きつった笑みを浮かべてそう言う。
学院で有名な先生ではあるがこう面と向かって話すのは朝日も初めてのことでいささか気圧されているのだ。
「それは良かった。最近は忙しいと聞いていたからいなかったらどうしようかと思っていたところだよ」
「そ、そうですか」
「ふふ、大空 朝日だったかな? 生徒たちの頼みを聞いているんだって? 良いことだよ、人助けをするのはね」
「あ、ありがとうございます」
「評判は聞いている。まあ、主に学院長からだが、その評判を信じて一つ頼みたいことがある」
「はあ、えーと、何でしょう?」
朝日は引きつった笑みのまま、恐る恐る聞く。
「まあ、たいそうな話ではないんだ。私はアビリティアーツ部の顧問をしていてね。毎年、夏休みに強化合宿があるんだが例年なら全員参加で問題なかったんだ。ただ、今回はテロ事件の事もあって希望制に変えたのだが予想外に参加者が少なくてね。このままだと家事炊事なんかの雑用をする人がいないんだ。そこで雑用係としてうちの合宿に来て欲しいのだけれど無理かな?」
極堂はかなり普通に言っているのだが十分たいそうな話である。
「いや〜〜、大変嬉しいお誘いですけど僕も夏休みはいろいろ予定が」
「無いって言ってませんでした?」
無元は朝日の嘘を的確に指摘する。
それに対して朝日は無元を睨みつけるが
「ん? 予定は無いのか?」
不思議そうに極堂が聞く。
「いや、そのあると言えばあるし、無いと言えば無いと言うか。あの、ちなみに期間は?」
「期間か? まあ、だいたい1週間だ」
「そうですか」
朝日は思った。
冗談じゃ無い!
1週間あれば何ができるか、おそらくテレビゲームを2本ほど終わらせられる。
それを見ず知らずの部活の合宿に使うなんて馬鹿らしすぎる。
「いや、やっぱりいろいろ予定が」
そう言いかけた時
「しかし、やはり期待してしまうな。あそこまで学院長に勧められては」
極堂は腕を組みながらそう言った。
「学院長?」
「ああ、実は前々から学院長にこの事で相談していてな。そしたら、『1人使えるやつがいるからそいつを持って行くと良い』言われて、あそこまで言われたらどんなやつかと思ってしまうよ。本郷からも聞いていたしな」
朝日は生徒会長の方を見ると生徒会長はクスッと笑いながらこちらを見て来た。
言われてみればそうだった。
前に学院長室に呼ばれた時に近いうちに依頼があると言われていたのだ。
まさかその相手が極堂先生なんて予想もしていなかったのだが。
「それで受けてくれるのかい?」
朝日は考える。
これで断るのはさすがにやばいのでは無いだろうかと。
何となくわかるのだ、断った先にもっと厄介なことがあることが。
そして、ギリギリまで考えた挙句。
「分かりました。受けますよ」
朝日小さくそう言った。
あとあと面倒なことが来るより潔く依頼を受けてしまった方がいいと考えたのだ。
「恩にきるよ。しかし、巻き込んでしまってすまないね。お金の方は気にしなくていい。宿泊費や食費、交通費は全て私が負担する。まあ、雑用ありの慰安旅行と考えておいてくれ。それじゃあ、詳しいことはまた別の日に話すとしよう」
極堂は安心したような顔をすると朝日に一礼して部室から出て行った。
まさに、嵐のような人だった。
朝日は息が抜けたように椅子にもたれかかる。
「また生徒会長は面倒ごとを持って来てくれたな」
「まあ、いいじゃない。どうせ夏休みなんて予定ないでしょ?」
「そう言う問題じゃないだろ」
「そう言われてもね〜、今回ばかりは私も案内しただけよ。もう受けたんだから潔く諦めなさい。それに悪いことばかりではないわよ。聞いた話によると、泊まる宿には秘湯と有名な温泉があると言うし、海もすぐ近いそうよ」
「やけに詳しいな」
「そりゃ、私も行きますからね」
生徒会長はにこりと微笑みながら朝日に言う。
「嘘だろ」
「貴方なら断らないと分かっていたから先に極堂先生に言っておいたの。私の場合は雑用と言うよりマネージャーね」
「わざわざ来なくてもいいだろ。こんな事に予知能力使ったとか言うなよ」
「まさか! 予知能力なんて使わなくても、貴方なら極堂先生の威圧に押されて簡単に受けると思ってたわ」
「まあ、確かに気圧されたな」
「潔く仲良く合宿に行きましょう。さっきも言ったけど悪いことばかりじゃないんだから」
「分かってるよ」
朝日はため息をつきながら机に肘をつく。
「そういえば無元。お前も来るのか?」
朝日は無元がアビリティアーツ部だったことを思い出しそう聞く。
「一応、アビリティアーツ部ですからね。行きますよ。だけど、朝日さんが来るなら楽しくなりそうですね」
「やっぱり、無元さんもそう思います? 私も楽しくなると思うんですよ」
生徒会長と無元は顔を見合わせながら嬉々として言う。
「いや、変わらんと思うぞ」
朝日は呆れ気味にそう言い、自分の優雅なニート生活が崩れ去るのをただただ見ているのであった。




