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朝日さんの面倒ごと  作者: 日の太郎
第3章
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朝日さんの後日談

八号館の奥まった廊下――ほとんど人の来ない、学院の秘境とも言える場所。

そこで、まるで何事もなかったかのように、平凡な日常が流れていた。


「朝日さん、この一週間、どうでした?」


新聞を広げながら無元が問いかける。


「んー……家でゴロゴロしてただけだな。ずっと漫画読んでた」


朝日は、床に投げ出した足をぶらぶら揺らしながら、漫画のページをめくった。


あのテロ事件から、もう一週間。

発生直後こそ世間は騒然となったが、幸いにも死者は出なかったことで、徐々に騒ぎも沈静化していった。


学院側は事件の影響を抑えるべく、修復作業や報道対応に全力を尽くし、学院は臨時休校に。

おかげで朝日は、何の予定もない一週間の休暇を謳歌していた。


「一週間もダラダラしてたんですか!?」


驚きに目を見開き、無元が新聞から顔を上げる。


「いやだって、他にやることもなかったしさ。……で、お前の方は? ケガ、大丈夫なのか?」


漫画を棚に戻しつつ、朝日はソファにどっかと腰を下ろす。


「はい、全然平気です。病院で治療してもらったら、二日で完治しましたし。今の医療、ほんとにすごいですね。それに、立花さんの方も問題なく回復しましたよ。運ばれた当初はかなり危なかったみたいですけど」


「そうか、それは良かった。危うく貴重な部員を失うところだったな」


「本当ですよ。今でも、朝日さんが来てくれなかったら……って考えるとゾッとします」


「いやー、助けに行ったのは本当に偶然だったんだけどな」


――テロ事件は、朝日が本館裏の避難所で鈴葉を助けた後、すぐに到着した能力特殊機動部隊によってテロリストが撤退したことで、なんとか収束を迎えた。

怪我人はすぐに病院へ運ばれ、全員無事だったという。


一方で、テロリストのボス・キングと戦っていた機龍も、春川を守りきったらしい。

ただ、キングは特殊部隊の到着を確認するや否や、忽然と姿を消してしまったとか。


「ま、結果オーライだな。全員無事ってのはありがたい」


朝日は棚から新しい漫画を引っ張り出し、再びソファに腰を下ろす。


「そうですね」


新聞を広げたまま、無元が静かに相槌を打つ。


「……それにしても、さっきから何読んでんだ? お前が新聞なんて、珍しいな」


「これ、見てください。もう知ってると思いますけど」


差し出された紙面には、でかでかと載った機龍の写真と見出し――

『学院の英雄! 少女を一人で守りきる!』の文字。


「何だこれ……」


「知らなかったんですか? 最近じゃあ、テレビでも毎日特集されてますよ」


「……あー……テレビ全然見てなかったわ。マジでゴロゴロしてたからな」


「怠惰にもほどがありますよ……」


「いや、待て。見てたわ。録り溜めたアニメと借りてきた映画をな!」


「それはもっと悪いです!」


無元は思わず天を仰いだ。


「……で、この記事。どういう経緯でここまで持ち上げられてるんだ?」


「機龍くんがキングと戦って春川さんを守ったのは知ってますよね?」


「まあな」


「それを、応援に来た特殊部隊の人たちがちょうど目撃してたらしくて。

翌日には“英雄”って扱いで、新聞もテレビも機龍くん一色ですよ」


「なるほどな。ま、実際に活躍したんだし、当然っちゃ当然か」


「朝日さんにしては、素直な意見ですね」


「事実だろ」


「……いや、そうなんですけど……」


言い淀む無元に、朝日が目線を投げる。


「ん? なんだよ」


「いや……朝日さんも結構、頑張ってたと思うんですけど……」


実際、朝日は無元と立花を救い、さらにナイトとの激戦の末、鈴葉を救出している。

あの戦いがなければ、ナイトはキングの援護に向かい、機龍は敗北していただろう。


「まあ、面倒だったけどそこまで大変でもなかったし。ナイトとは、個人的にボコボコにしたかっただけだしな」


ちなみにナイトは、通信タワーに叩きつけられ、人型の窪みを残して消失。

おそらく仲間に回収されたのだろう。あの程度で死ぬようなタマじゃない。


「うーん、もっと話題になってほしかったんですけどね……」


「俺、応援来る前に倒しちゃったしな。目撃者がいなかったんだろ」


「つくづく運がない人だなあ。人気者になるチャンスだったのに」


「どうでもいいだろ。俺は守りたくて戦っただけだ。機龍も同じさ。ただ、見てた人間がいたかどうかの違いだろ」


朝日はそう言うと、漫画に再び集中し始めた。


「……まあ、朝日さんがそれでいいなら、僕も別にいいですけど」


無元は新聞を畳むと、机の上にぽいと放り投げた。


「そういえば、妹さんとはあの後どうなったんです? なんか喧嘩してましたよね」


「ああ、鈴葉か。問題ないよ。お互いちゃんと謝って、仲直りした」


実際、退院した鈴葉はすぐに朝日に謝罪の言葉を伝えた。

朝日もそのつもりだったため、兄妹は自然と和解できたのだ。


「朝日さんが謝るなんて……! 奇跡だ!」


「お前な……俺だって悪いと思ったら謝るくらいするぞ」


「で! 鈴葉さんは、朝日さんが助けたこと、知ってるんですか!?」


無元が勢いよく詰め寄ってきた。その目が、妙にキラキラしている。


「いや、知らねぇよ」


「えっ!? なんでですか!?」


「意識なかったしな。救急隊に引き渡した後に目を覚ましたみたいだから」


「じゃあ……朝日さんからも言わないんですか?」


「言う必要ないだろ。仲直りもしてるし。それに、『実は助けたのは俺なんだ』なんて言われて、信じると思うか?」


「…………思いません」


「だろ。そういうことだよ」


漫画のページをめくりながら、朝日は淡々と答える。


「は〜〜……残念だ。ここでリアル兄妹の禁断の恋が始まると思ったのに!」


「バカ言うな、アニメの見すぎだ。……もういるだろ、そういうやつ。機龍の妹がさ」


「……あれはちょっと……いや、まあ……うーん……」


「お前の好み、ようわからん」


朝日は呆れたようにため息をついた。


「……で、無元。お前はこの一週間、何してたんだ?」


「聞いちゃいますか?」


「そりゃ、俺が話したんだからお前も言え。……って、その反応。何かあったな?」


「ええ、ありましたとも。実はですね、三日前くらいに怪我も治った機龍くんたちと一緒に、デパートに行ったんですよ!」


「お、そりゃ面白い話が聞けそうだ」


朝日はニヤリと笑いながら、無元の話に耳を傾けた――


……そうして、彼らはゆるやかに“いつもの日常”へと戻っていく。

この先にまた厄介ごとが待ち受けているとも知らずに、束の間の平穏を楽しむのだった。

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