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朝日さんの面倒ごと  作者: 日の太郎
第3章
21/42

朝日さんは腹ペコです

 朝日は、自分の足元に転がるものを見下ろしていた。

 そこには、バチバチとショート音を響かせながら、微動だにしないアンドロイドが転がっている。


「……何だったんだ、こいつ」


 ガンガンとアンドロイドを蹴って様子を確かめるが、やはり反応はない。

 それもそのはず。アンドロイドの顔面と胸のど真ん中には、拳大の穴がぽっかりと開いているのだから当然だ。


 もちろん、それを開けたのは朝日自身だ。


 あのとき――このアンドロイドに襲われそうになった朝日は、とっさに糸の能力を使い、ロッカールームの天井へと張り付いて攻撃を回避。続けざまに、背中から拳ほどの太さの糸を硬化させて射出し、アンドロイドを貫いたのだ。


 狙いどおり、糸はアンドロイドのコアを粉砕して行動不能にし、現在に至る。


 ……不良のイタズラにしては、やりすぎなんてレベルじゃない。これはもう、特殊機動隊が動いてもおかしくない話だ。


 朝日はしゃがみこみ、アンドロイドをまじまじと調べる。


 どうやらこれは、量産型のアンドロイドではないらしい。通常では見かけない高性能なパーツがいくつも組み込まれている。


 さらに調べていくと、アンドロイドの腕の部分に、見慣れない小さなエンブレムがあることに気づいた。


 それは、赤く塗られたジョーカーの絵柄――まるでトランプのジョーカーを模したような不気味なマークだった。


「……なんだ、これ?」


 朝日はそのエンブレムをじっと見つめるが、どうにも見覚えがない。少なくとも、一般流通しているモデルではなさそうだ。


 少し考えた朝日は、状況の深刻さを理解し、デバイスを取り出して電話をかける。


『はいはい、学院長の仙崎だが?』


 応答したのは、学院長・仙崎薫。その口調からして、電話越しでもニソニソとした笑顔が浮かんでくるようだ。


「学院長、今すぐ旧第3グラウンド地下ロッカールームに来てください。詳しい話は、到着してから」


『おいおい、いきなり何だ? 私は競技祭の準備で忙しいんだぞ? 私用なら後にしてくれ』


「わかってます。けど、これは本当に大事なことなんです」


『……ふむ。さては愛の告白か? 言っとくが私は既婚者で子持ちだぞ?』


「学院長、冗談でもそういうこと言っちゃダメですよ」


 呆れながらも、朝日は反論する。


『はっは、すまんすまん。で……何があった?』


 仙崎の声が、先ほどより低く落ち着いたものになる。状況の異常さを察したらしい。


「だから、それも含めて早く来てください」


『……わかった』


 通話が切れ、しばらくするとロッカールームの扉が開いた。姿を現したのは学院長・仙崎薫。


「朝日。何が――……これは……」


 仙崎は足元のアンドロイドに目をやり、しゃがみこんで調べはじめた。


「俺、そのアンドロイドに襲われたんですよ」


 朝日は、今までの出来事をすべて話した。

 仙崎は黙って話を聞き、アンドロイドの各部を念入りに確認していく。


「朝日、そういえばお前、怪我はないか?」


「学院長……。それって普通、真っ先に聞くことじゃないですか?」


「そう言えるってことは無傷だな」


 仙崎は相変わらずアンドロイドから目を離さない。


「まあ、確かに怪我はしてませんよ。で、何かわかりましたか?」


「……ああ。とりあえず、このアンドロイドがただのものじゃないってことと、ウチの学院がちょっとヤバいってことくらいだな」


 そう言って、仙崎はアンドロイドの腕にあるエンブレムを指さす。


「そのエンブレムが、何か?」


「これはな、アンドロイドの機種を示すものじゃない。――ジョーカーズのマークだ」


「ジョーカーズ……?」


 耳慣れない単語に、朝日は首をかしげる。


「ジョーカーズってのは、国際指名手配中のテロリスト集団だよ」


「なるほど……それなら、いきなり襲ってきたのも納得できますね」


 朝日はアンドロイドを見下ろしながらつぶやく。


「だとしたら、このジョーカーズってやつらの目的は何なんでしょうね?」


「さあな。だが、すぐに調査を進めないといけないな。学院のセキュリティも強化が必要だ」


「競技祭は、中止しないんですか?」


「しない方がいい。中止にして混乱を招いたら、もっと面倒になる」


「そうですか……」


 (中止になってくれた方が助かったのにな)と、朝日は内心ぼやく。


「今、中止になってくれって思ったろ?」


「……いえ、全く」


 図星だった。


「はあ〜……まあ、いい。とりあえずお前には一緒に来てもらうからな」


「えっ?」


 思いがけない言葉に、朝日は目を丸くする。


「当たり前だろ。襲撃を受けたのはお前だけなんだから、聞きたいことが山ほどある」


「でも、俺、棒倒しがあるんですけど……」


 朝日が言うと、仙崎は腕時計を確認する。


「……とっくに始まってるぞ」


「ですよね。こっちでいろいろあったんで……」


「まあな。だが問題ない。お前が抜けても大した影響はないさ。どうせ本気出す気もなかったんだろう? それにあそこには機龍がいる。あいつがいれば、“勇気”とか“希望”とか“絆の力”でなんとかなるさ」


「急にそれっぽいこと言い出しましたね」


「ハハッ、若いのはそういう言葉が好きだろ? まあ、こっちはそういうの抜きで――捜査と作戦、そして武力で解決するとしようじゃないか」


なかなかに物騒なセリフだった。


「穏やかじゃないですね……」


「それが大人のやり方ってやつだ」


 仙崎はアンドロイドの残骸を自分の能力で空間に収納すると、出口に向かう。


「さ、行くぞ」


「わかりました。でも、その前に……」


 朝日はある重大な問題を思い出した。


「どうした?」


 仙崎が少し警戒した声で聞く。


「学院長……。昼ご飯、食べさせてください」


 その直後、朝日の腹がグ〜〜ッと鳴った。


「……お前、昼食ってなかったのか?」


「いろいろありまして」


「っていうか……よく見たら、アザだらけじゃないか」


「ほんと、いろいろあったんですよ……」


 朝日は自分の腕をさすりながら力なく笑う。


「お前も苦労してるんだな。……よし、昼飯は私が奢ってやるよ」


「それはありがたいですね。では、遠慮なくご馳走になります」


 こうして、朝日は棒倒しには出場せず、学院長とともに食堂へと向かうのだった。

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