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朝日さんの面倒ごと  作者: 日の太郎
第2章
14/42

朝日さんは普通です

 夜中の12時、俺と衛藤は東星学院の正門に立っていた。

 しきりに吹く夜風が体に染みる。こんなに寒いならもっと上着を持ってくるべきだった。そんな真夜中の寒空になんで二人でいるのかと言うと・・・。

 話は数時間にさかのぼる。


 ~数時間前~


「ねえ、朝日。当てがあるって言ってだけど、どこに行くのよ?」


 衛藤が不思議そうに質問する。


「ああ、それは寧々先生に頼むんだよ」

「寧々先生ってあの?」

「あのって、それ以外誰がいるんだよ」

「そうだけど意外だったのよ。学院でかなり人気の寧々先生と知り合いだったことがね。あなた知り合いいなさそうだったから」


 ひどい偏見だ。

 俺にだって知り合いは居るし友達も居る。


「おい待て、ひどすぎるだろ。お前には俺がどう言う人間に見えるんだよ」

「・・・」


 衛藤が何か考えるように黙った。


「おい、どうしたんだよ」

「・・・私にもよくわからない。あなたがどう言う人間なのか。優しいのか優しいくないのか。面倒くさがりなのか面倒くさがりじゃ無いのか。一人が好きなのか知り合いが沢山居るのか。あなたは底が見えないのよ」


 衛藤が俺を横目で見ながら言った。


「俺はそんな難しい人間じゃないよ。もっと単純だ、単純!」

「どうだかね」


 そうこう話しているうちに寧々先生の居る職員室着いた。ドアをノックして中に入ると先生のいる机まで歩いて行く。


「先生! ちょっといいか?」

「朝日くん、どうしたんですか。こんなところに来て?」


 先生は湯のみに注いだお茶と和菓子を食べながらこちらを向いた。


「おばあちゃんみたいですね」

「ひどいですよ、朝日くん! この和菓子は極堂先生がくれたものです。和菓子といえばお茶でしょ!」


 先生が湯のみを突き出してくる。


「ごめん、ごめん。あんまりにも雰囲気がね。あと湯のみを振り回すとお茶がこぼれますよ」

「もう、私これでもまだ20代なんですよ。それで用事は何ですか?」


 不貞腐れた顔をしながら先生が言った。


「盗撮犯ついてですよ。今何処で盗撮しているか場所が分かったんです。それで教室を張り込むんで朝早くに学校に入れてもらう許可が欲しくて」


 そう説明すると、


「張り込み・・・。張り込みってあの張り込みですよね、警察ドラマでよくある!」


 先生が目をキラキラさせながら俺に迫ってくる。


「先生、そんな警察ドラマでやるような物ではないですよ。朝4時くらいからやりたいんですが・・・」

「朝日くん、甘いですよ! そう言うのはもっと早くやるものです。分かりました許可を出します。今日の夜12時に集合です」



 そうしてこの寒空の下に放置されているのである。


「まさかこんな事になるとは・・・」


 俺は寒さで肩震わせながら衛藤に言った。


「本当にそうよ。こんな時間から張り込みなんて聞いてない!」


 衛藤もかなり不満らしい。

 と言うか普通に考えてこんな時間に女性が出歩くものじゃない。


「先生まだかしらね」

「自分で言っておいて遅れるとは先生らしい」


待ち合わせの12時はとっくに過ぎ、かれこれ20分ほど正門の前で突っ立っている。


「朝日くん〜! 衛藤さん〜! すいません、遅れました!」


 予定よりも20分も遅れてやっと先生が来た。

 何やらかなりの量の荷物を持っている。


「先生遅いですよ、何やってたんですか! だいたいその荷物は!」


 見るからに大量の荷物。

 バックの間からはお菓子の袋がチラリと見えている。


「あはは、すいません。荷物の準備に時間がかかってしまって」


 先生はそう言ってバックを下ろす。


「いろいろ持ってきたんですよ。張り込みをしやすいように双眼鏡と望遠鏡。手元が見やすいように懐中電灯。お腹が減った時のためのお菓子。口が渇いた時なためのコーラ。準備万全です!」


 先生が一つ一ついちいち荷物を見せてくる。


「あの〜、寧々先生。別にお泊まり会と言うわけでは・・・」


 衛藤が困惑しながら言う。


「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない。さあ、中に入って準備しますよ」


 先生は正門の傍のドアを開けどんどん進んで行く。


「私たちも早く行ったほうがよさそうね」

「そうだな」


 俺と衛藤は先生の後について行った。

 しばらく歩き、盗撮場所である二号館の7番更衣室が見やすい中庭を挟んだ向かいの教室に陣取った。     

 ここなら犯人が現れても中庭を突っ切って1分もしないうちに更衣室に駆けつけられる。


「ここだったら。しっかり張り込みできそうね」

「しっかり更衣室も見えるしな」


 俺は教室のカーテンをしめてその隙間から更衣室の方を見る。


「朝日くん、双眼鏡使いますか?」

「いや、先生。この距離で双眼鏡は逆に見にくいですよ!」

「それじゃあ望遠鏡!」

「もっと使えませんよ!」


 双眼鏡ならともかく望遠鏡とは・・・。

 先生は一体なにを覗くつもりなのだろうか?


「え〜、せっかく持ってきたのに重かったんですよ!」


 先生が頬を膨らませながら怒る。


「持って来なければよかったじゃないですか」

「使うかなと思ったんですよ!」


 先生はフンて拗ねたようにそっぽを向く。さっきのお菓子といい、コーラといい、先生はピクニック気分で来ているらしい。真夜中のピクニックとはなんとも刺激的である。それによくよく考えればこの状況かなりすごい状況ではないだろうか。女二人と男一人で一晩過ごす。漫画やアニメ、ラノベくらいでしか聞いたことない。他の男子にこれを話せば血の涙を流しながら変われと言ってくるだろう。そしたら俺はこう言ってやる。


“変わってくれるなら代わってくれ” と。


 女の子とお泊まりと聞けば聞こえはいいかもしれないがそのうちの一人が先生でもう一人が仕事仲間といえばいいもクソも無い。何よりこれから朝7時まで続く地獄の張り込みのことを考えると憂鬱な気分しか湧いてこない。

 今すぐに家に帰って布団でゆっくり寝たい。


「それじゃあ張り込み始めるか」

「そうね」

「先生も頑張りますよ!」


 そんなこんなで三人で張り込みを始めた。

 張り込みを始めて三時間が経った。

 三人でローテーションしながら更衣室を見張っていたが二周目に入るところで先生がダウンした。


「先生、寝ちゃったね」

「自分でこんな時間から張り込み始めて寝ちゃうとは先生らしい」


 今、先生は俺たちの後ろでスヤスヤと寝息を立てながら幸せそうに寝ている。

 最初はあんなにテンションが高かったのにここ数十分静かだと思っていたら夢の世界に旅立っていたらしい。


「次、先生の番だったのに。どうする?」

「起こすのも悪いから俺がやるよ」


 あんなに気持ちよさそうに寝ている人を起こすのは気がひける。


「いいの?」

「別にいいよ。それに先生の次は俺の順番だしな」


 俺は窓際に移動してカーテンの隙間から更衣室を見張る。


「衛藤も寝てていいぜ。犯人が来たら起こすから。寝不足で犯人捕まえるのに支障が出たら元も子もないからな」

「いいわ、私は眠くないからまだ起きてる」

「そうか・・・」


 二人の間に沈黙が流れる。数分後その沈黙を破ったのは衛藤だった。


「ねえ、朝日」

「ん?」


 唐突な呼びかけに俺は少し驚いた。


「どうした?」

「あのさ、夕方の時の話覚えてる?」

「あの俺がどういう人なのかって言う?」

「そう」


 俺は更衣室から目を外さないように横目で衛藤を見た。

 衛藤は体育座りをしながら俺とは逆の方向を向いている。


「それがどうかしたのか?」

「あれから考えたのよ。それで一つわかったことがあるの」


 衛藤が改まったように言う。


「へー。それで何が分かったんだよ」

「朝日、あなたは普通なのよ」


 予想外の答えが帰って来た。

 辛辣ではないだろうか。


「それ他の人が聞いたら泣くぜ」

「あなたは泣かないのね」

「馬鹿言うな。普通ほど幸せなものはない」

「あなたらしい」


 衛藤はそう言って笑みをこぼす。


「多分ね、私が別の人と協力してこの事件を捜査してもその人はあなたと同じことをしたと思うの」

「そんな奇特な奴いるかな。まあ、風紀委員の頼みならその辺で歩いてる人に協力を求めても手伝ってくれるか・・・」

「それじゃあ何が普通じゃ無いかってそれはこう言う事を極端に断ったり極端に首を突っ込んでくる人が普通じゃ無いのよ。でもあなたはそのどちらでも無いわ。だから普通」

「・・・」


 衛藤はよく分かっている。

 俺も含めた大多数の人が特別ではないことを。


「だから言っただろ。俺は難しい人間じゃない。どんな人だって優しいし、面倒臭がりだし、底が見えない。当たり前だ」

「本当にそうね」


 衛藤はそう言うと大きな欠伸をする。


「朝日、ごめん。私眠くなってきちゃった。少し寝てもいいかしら?」

「そうしろ、少しでも寝といたほうがいいぜ」

「ありがとう。私と見張り変わる時間になったら起こしてね」


 程なくして衛藤の静かな寝息が聞こえてきた。ついに俺は一人になったらしい。時間は真夜中の4時になろうとしている。今の所、更衣室に犯人が現れる様子はなく静かな時が流れている。


「まだまだ夜は長そうだ・・・」


 そんなことを一人で呟きながら空に浮かぶ月を眺めるのだった。

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