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人生五度目。浅井茶々は遂に開き直った〜今度こそ、生き残らせてもらいます!〜  作者: 奈羅
第七章 戦場は再び上方へ〜茶々、江戸帰還の僅か一年で再出荷される〜
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独眼竜、薬膳茶に敗れる

政宗が腕を組み、茶々を見る。


「治部殿……こちらのご夫人は?」


当然のことを聞いているだけなのに、三成は舌打ちしたくなった。しかし表情には出さない。


「井伊侍従殿の奥方にございまする。」


政宗の片目が細くなる。


「……ほう。」


茶々は静かに政宗の前へ進み、座って手を付く。


「井伊侍従直政が妻、茶々にございまする。

どうぞ、お見知りおきを。」


政宗も軽く頭を下げた。


「伊達陸奥守政宗にござる。」


三成は二人をじっと見ていた。


(余計な事言うなよ……。)


しかし政宗はただ楽しそうに笑っているだけだったが、茶々はふと部屋を見回す。


棚に並ぶ薬草、文机の薬研、干された生薬。

茶々は近くの文机に置いてある壺を覗き込む。


「治部様。」


「……はい。」


「この乾いた皮は?」


「陳皮です。」


「……橘ですか?」


三成は少しだけ驚いた。


「蜜柑です。」


茶々は頷く。


「胃に効くのですね。」


「……よくご存知で。」


横で正則がぼそっと言う。


「知らんかった。」


清正が腕を組む。


「俺もや。」


茶々は次の壺を指した。


「では、これは?」


「甘草。」


「甘味の調整ですか?」


「そうです。」


吉継が感心する。


「箕輪様、詳しいですねぇ。」


茶々はにこっと笑う。


「すべて、旭様に教えていただきました。」


茶々の返答に、三成たちは苦笑した。そして次を指す。


「では、この粉は?」


「乾姜。」


「生姜を乾かしたものですね。」


「はい。」


茶々はさらに身を乗り出す。


「では、乾姜と陳皮を合わせると……」


三成が少し笑いながら答える。


「胃を温めます。」


「甘草を加えると?」


「刺激を抑えます。」


清正がぽつりと言う。


「……分からん。」


康政と正則も頷く。


「某も、分かりませぬ。」


「俺もや……。」


政宗がくくっと笑う。


「治部殿、何の話をしておるのだ?」


三成が淡々と告げる。


「薬です。」


茶々はまだ止まらない。


「では、半夏は?」


三成が一瞬止まる。


「……ございます。」


茶々は嬉しそうに笑う。


「吐き気止めですね。」


三成は茶々を見た。


「箕輪様。」


「はい?」


「なぜご存知で?」


茶々は得意気に笑う。


「すべて、旭様に教えて頂きました。」


先ほどと同じ返答に、政宗が笑う。


「ほう。」


その時、戸が開いた。


「来たか、お茶々よ。」


入って来た家康に、茶々はすぐ振り向く。


「大殿!」


そしてすぐ質問をする。


「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)はどのように作るのです?」


正則と清正は首を傾げる。


「……は、はんげこ…何それ?」


「なにかの呪文か?」


家康は嬉しそうに笑う。


「ほう、それを知っておるか。」


三成がぼそっと言う。


「ああ〜……始まった……。」


吉継が筆を持ったまま、苦笑する。


「終わりましたねぇ。」


政宗が楽しそうに言った。


「面白い。」


茶々の質問はまだまだ続く……。


家康と茶々が薬棚の前で話していた。


「半夏はどこで手に入れたのです?」


「堺の薬種問屋じゃ。」


三成が横から口を挟む。


「乾燥が甘いと効きません。」


「なるほど……。」


三人は薬草を見ながらぶつぶつ話している。

その様子を、少し離れた場所から四人が見ていた。


正則と康政は、再び薬研を回した。


「……始まったな。」


「始まりましたなぁ……。」


清正は肩をすくめる。


「今日は長そうだ。」


吉継は帳面を書きながら笑う。


「そう思うわ〜。」


政宗は楽しそうな三人を眺めて、静かに立ち上がった。


「さて……。」


片目を細め、三成に声をかける。


「治部殿。」


「何でしょう。」


政宗はにやりと笑った。


「儂はそろそろ帰るとしよう。」


三成はすっと手を上げて、出口を指差す。


「どうぞ。」


政宗が一歩踏み出した、その瞬間。


「伊達様。」


柔らかい声に、政宗の足が止まる。振り返ると、茶々が笑っていた。


「なにか?」


茶々は薬棚の壺を持っている。


「少し、試してみたいのですが。」


政宗の片目が細くなる。


「……ほう?」


茶々はにっこり笑った。


「飲んでくださいませぬか?」


正則が薬研を止め、清正が目を丸くし、吉継が肩を震わせ、康政が目を閉じた。


政宗は少し考え――そして笑った。


「面白い。」


三成が横で言う。


「毒ではありません。」


政宗が湯呑みを受け取る。


「では頂こう。」


一口飲む。


沈黙。


政宗がゆっくり呟いた。


「……苦い。」


吉継が笑う。


「薬にございまする。」


正則が吹き出し、清正が肩を震わせた。

三成は煙管をくゆらせながら、静かに笑っていた。


「どうです?」


茶々が聞くと、政宗は口元を拭きながら答える。


「治部殿。」


「はい。」


「お主……。」


政宗は楽しそうに笑った。


「いつもこんな物を飲んでおるのか?」


三成は煙を吐いた。


「伊達様。」


「なんじゃ。」


三成は珍しく機嫌が良かった。


「今日は、伊達様が飲んでおります。」


正則たちが吹き出した。


茶々は空になった湯呑みを覗き込む。

そして、土瓶を持ち上げ政宗の湯呑みに……どばどばどば、と注ぎ出した。


正則たちがギョッとする。


「おい……。」


「多ないか?」


「箕輪様……容赦ないなぁ……。」


康政が静かに目を閉じた。

茶々は満面の笑みで湯呑みを差し出す。


「さぁ!」


政宗は湯呑みを見る。

なみなみと注がれた、濃い色の薬膳茶。

そして茶々に目線を移すと、にこにこしている。


「どうぞ〜。(副音声:飲め!)」


政宗は珍しく少しだけ黙り、三成は煙管をくゆらせながら言う。


「伊達様。」


「……なんじゃ。」


「逃げても良いですよ?」


政宗の片眉が上がる。


「逃げぬ。」


そして湯呑みを持ち上げた。

一口、二口……そして、飲み干して沈黙。

政宗が静かに顔を上げて呟く。


「……苦い。」


正則が吹き出し、清正が肩を震わせ、吉継が書簡で口元を隠していた。

三成は煙を吐きながら、少し嬉しそうだった。

茶々が首を傾げる。


「もう一杯いかがです?」


政宗が即答する。


「待て。」


部屋に笑いが広がった。


***


数日後、伏見城の廊下を三成は政宗と並んで歩いていた所、政宗がふと呟く。


「治部殿。」


「はい。」


「先日の女性(にょしょう)…」


政宗が止まったので、三成も止まり振り返る。


「箕輪様ですか?」


「うむ。……聞いたぞ。」


政宗はにやりと笑い、三成は嫌そうな顔をする。


「何をですか?」


「信長公の姪御だそうじゃな……。」


そう言うと、政宗は肩を揺らした。


「なるほど…通りで強い……ふふふ……。」


三成は呆れた顔をして見つめた。


「儂が、初めて焦ったわ。」


「……自業自得です。」


政宗は楽しそうに言った。


「治部殿。」


「なんです?」


「面白い者が増えたのぉ。」


三成は深く息を吐いた。


「……厄介なのが増えました。」

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