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人生五度目。浅井茶々は遂に開き直った〜今度こそ、生き残らせてもらいます!〜  作者: 奈羅
第七章 戦場は再び上方へ〜茶々、江戸帰還の僅か一年で再出荷される〜
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再び上方へ〜江戸からやって来た嵐〜

文禄四年 八月。


江戸城下・井伊家上屋敷の留守と子供達を杏と萩乃に託し、茶々は旭に付き従って再び上方へとやって来た。


(関東に戻ってまだ一年しか経ってへんやん!)


内心でぼやきつつも、井伊の正妻として、そして御台所の女房としての務めだと自分に言い聞かせる。


その旭と茶々の顔を見た瞬間、西郡殿は泣き出し、膝から崩れ落ちた。


どうにか二人で奥へ連れて行くと、彼女は旭の膝に突っ伏す。


「御台様ぁ……もう、無理です。」


旭は西郡殿の背中を摩りながら、様子を伺う。


「そんなに酷いん?」


「酷いなんてものではございませぬぅ……。」


西郡殿は顔を上げた。


「朝から晩まで縁談の相談、政務の愚痴、毛利様の嫌味……。」


「毛利?」


旭が眉を上げる。


「はい……。」


西郡殿は深く溜め息を吐いた。


「もう毎日、殿の愚痴を聞かされて……。」


「まぁまぁ、西郡様。」


柔らかな声が旭の隣から聞こえる。

顔を向けると、そこには茶々がにこやかに笑う。


「愚痴を聞くのも大変ですよねぇ。」


西郡殿は涙目で頷く。


「箕輪様ぁ……。」


旭がその横からくすっと笑った。


「まぁでも……。」


茶々をちらりと見る。


「この子連れてきたから、少しは面白なるやろ。」


茶々はにっこり笑う。


「面白いかどうかは……分かりませんが〜。」


西郡殿は一瞬、沈黙した。そしてぽつりと言う。


「……伏見、大丈夫でしょうか。」


***


その頃、伏見城・奉行衆の詰所。


三成は煙管をくゆらせながら呟いた。


「……嵐、来ましたね。」


片桐且元と浅野長吉が首を傾げる。


「嵐?」


三成は紫煙を吐いた。


「旭姉ですわ。」


且元と長吉は一瞬考え、そして同時に頷く。


「……ああ。」


「確かにな。」


三成の横で、最近やたらと詰所にやって来る、奥州の伊達政宗がにやりと笑った。


特に何かした、というわけではないのに、何故か政宗に気に入られてしまった。

ちょっかいを掛けられて、ぶっちゃけ鬱陶しい。


「ふむ……。ますます面白くなりそうだ。」


三成は呆れた顔で言った。


「………アンタなんでおんねん、帰れ。」


「まぁ、そう申すな……。」


「……ちっ!」


***


二日後。


三成は徳川邸を訪れた。『徳川御台への挨拶』の為だ。


前より顔色が良くなっている西郡殿が、部屋の前で膝を付く。


「石田治部様、お見えにございまする。」


「入られよ。」


西郡殿がすっと戸を開けてくれたので、中に入る。

打掛を腰に巻き、上座に座るのは旭。その少し下座で、団扇を仰ぎ旭に風を送る茶々が居た。


三成は静かに旭の元へ足を進めて、座る。


「治部殿、久しぶり。」


「ご尊顔拝し、恐悦至極にございまする。

御台様におかれましては、ご機嫌よろしゅう。」


「うむ、苦しゅうない。」


三成は旭へ一度深く頭を下げてから、茶々の方へと向く。


「箕輪様もお変わりなく……。」


「治部様、しばらく……。」


にこりと笑う茶々に、三成は溜め息を吐きたくなったが、グッと堪える。


「……ふふ、まぁまぁ!佐吉!固い挨拶はこれぐらいにしよぉか!

……誰ぞ。」


旭は控えている侍女にお茶を持って来るように命じていた。


侍女が茶を運び、部屋に静かな香りが広がった。旭は湯呑みを手に取り、一口飲む。


「うん、美味しい。」


茶々は扇子で風を送りながら、三成をじっと見ていると、三成はその視線に気付く。


「……箕輪様?」


茶々は首を傾げる。


「治部様。」


「はい。」


「何か……香りません?」


三成は一瞬、黙った。すると、旭も鼻をすん、と鳴らす。


「……ああ。」


西郡殿が小さく笑う。


「御台様、それは——」


三成が先に答えた。


「薬草です。」


茶々の目がきらりと光る。


「薬草?」


三成は少しだけ肩をすくめる。


「胃に効く薬膳茶を煎じております。」


茶々の目が一気に輝いて、身を乗り出してくる。


「まぁ!大殿から随分とご機嫌な文を頂きましたが、誠にございましたか〜!」


三成は思わず天井を見た。


(余計な事を……。)


旭がくすっと笑う。


「殿、えらい喜んでたわ。」


西郡殿も頷く。


「おかげで最近は胃の調子もよろしいようで……。」


茶々はさらに身を乗り出した。


「それ、見てみたいです!」


三成は静かに目を閉じる。


(……面倒なの増えた。)


茶々はにっこり笑う。


「ご案内して頂けます?」


一瞬、部屋の空気が止まる。

三成は旭を見るが、旭は茶を飲みながら言った。


「佐吉。」


「……はい。」


三成は悟った顔になり、旭は微笑みながら、あっさり言った。


「お茶々を連れてったって。」


三成は深く溜め息を吐いた。


「……はぁ。」


茶々は嬉しそうに立ち上がる。


「まぁ!では早速!」


西郡殿がぽつりと呟く。


「伏見……大丈夫でしょうか……。」


家康の部屋……という名の研究室へ向かう。


「ここが治部様の薬部屋ですかぁ。」


「内府様のお部屋にございまする。」


「あら、そうでしたわね。」


ハイテンションな茶々に、三成は既に疲れていた。

三成が戸を開けると、中からふわりと生薬の香りが流れた。

棚には袋や壺が並び、文机の上には薬研と乾いた草が広げられている。


茶々はぱちくり、と目を見開き部屋を見渡してから、三成を見る。


「……治部様、ウチの大殿と薬屋でも始められたのですか?」


「兵站奉行にございまする。」


茶々はくすりと笑う。


「同じでは?」


「違います。」


茶々が部屋の奥から聞こえる音に気付いた。

そして、そのまま部屋の中に入り、勢いよく戸を開ける。


「あらあらまぁまぁ……。」


茶々は目を細めて、ぐるりと部屋を見渡す。


「皆様お揃いでぇ〜。」


薬研を挽く正則と徳川家臣の榊原康政、文机に向かう吉継、生薬の整理をしている清正と、当たり前のように居座る伊達政宗が茶々を見上げた。


「箕輪様……。」


「小平太様も駆り出されておられるか。」


そう言って茶々は遠慮することなく中へ入って行き、その後ろで三成は天井を見上げた。


(この人は……怖いもの知らずやなぁ。

それより、あの東北の阿呆はなんでおんねん!)


三成は息を吐いて、茶々の後に続いた。

【登場人物紹介】


■ 西郡殿

本名:時

身長:153cm


徳川家康の側室で、家康の次女・督姫の母。

浜松城では、家康の庶子や松平家の子女たちの養育を担っていた。

伏見城完成後は、伏見徳川邸の管理を任される。

真面目で気配りのできる人物。


……なのだが、家康の愚痴を聞きすぎてメンタルが限界突破。

江戸へ戻って僅か一年しか経っていない旭を再召喚し、さらに茶々まで連れて来てもらうことで、どうにか持ち堪えた。

たぶん今一番、旭と茶々の到着を喜んでいる人。


■ 榊原康政

通称:小平太

身長:178cm


徳川家臣。言わずと知れた徳川四天王の一人。

茶々曰く、「現代でも通用する爽やかイケメン」

面倒見の良い性格で、徳川家では「みんなのお兄ちゃん」的存在。


しかし、本人の人柄とは裏腹に、なぜか巻き込まれ体質。

家康には新薬の実験台にされ、一回りも年下の三成にはパシられる。


今日も徳川家の平和のために奔走している。


■ 伊達政宗

通称:陸奥守、独眼竜

身長:177cm


皆さんお馴染み、独眼竜。


男の色気漂う、まさに「男が憧れる男。」

ただし、性格には若干の難あり。

空気は読める。だが、あえて読まない。


面白そうなことが起こると、どこからともなく現れるトラブルメーカー。


特に石田三成へのちょっかいがお気に入りで、三成の反応と周囲の空気を楽しんでいるが、三成からの扱いはかなり雑。

そして当然、本人は全く気にしていない。

この男、鋼メンタルである。

なお、家臣の片倉景綱にはしょっちゅう怒られている。


※伊達政宗が石田三成にちょっかいを出す理由は『反応が一番面白いから』

小学生男子のような、しょうもない理由。

なお、三成は全く嬉しくない。


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