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人生五度目。浅井茶々は遂に開き直った〜今度こそ、生き残らせてもらいます!〜  作者: 奈羅
第六章 豊臣家の試練、家康は胃薬片手に政務をこなす
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変わらぬもの、変わっていくもの

——同じ頃。


京都・聚楽第 本丸御殿。


縁側に座り、キセルを燻らせながら庭をぼんやり眺めているのは、関白・豊臣秀次と、兵站奉行・石田三成だった。


「はぁぁ〜……良ぇ天気やなぁ……。」


「そうですね……。」


二人の姿は、とても二十代と三十代前半には見えない。


上と下に挟まれ、心労を溜め込み、胃薬と縁が切れない。

そんな四、五十代の中間管理職そのものであった。


「はぁ〜……。佐吉、吸い過ぎちゃうか?」


「………治兵衛様が言いますか?」


「……せやな。」


秀次は吸い殻をタバコ盆に落とし、湯呑みを手に取る。


「治兵衛様。」


三成が、少しだけ真面目な声になる。


「誠に……関白職を返上なさるおつもりで?」


「ああ。」


即答するその声に迷いがない。


「秀保と鶴松の後見を務め、諸侯の統率を取る。

そうなれば、関白の務めが疎かになるかもしれん。」


一拍。


「ならば……五摂家の誰かに任せた方が、朝廷も安心だろう。

……既に、各家には話を通してある。」


「なるほど……。」


三成は頷く。


「では、殿下は……?」


「叔父上か?」


秀次は肩を竦める。


「……何も言うとらん。」


「えぇ〜……。」


「徳川殿や前田の親父殿には伝えてある。それで十分や。」


「……はぁ。」


三成は紫煙を吐き出した。


「佐吉、こんな所におったのか。」


「治兵衛様もご一緒でしたか。」


縁側に現れたのは、福島正則と大谷吉継だった。どちらも、疲れ切った顔をしている。


「佐吉ぃ〜……お茶〜。」


「市松、俺は茶やないで。」


「お茶淹れてって意味ー!」


「だったらそう言わんかい。」


ぶつぶつ言いながらも、三成は煙管を置き、二人のために茶を淹れる。

なんだかんだで、幼馴染には甘い三成である。


湯呑みを受け取った正則は、三成の煙管に目を留めた。


「お前、煙草吸い過ぎだで。」


「……ええやろ、別に。今更や。」


「ふ〜ん。」


肩を竦める。


「まぁ、程々にしとけよ。お前、すぐ吸い過ぎるからなぁ〜。」


「……んなら、お前は酒を程々にせえ!!」


三成が即座に噛みついた。


「毎度毎度、面倒ごと起こしやがって!

お前の尻拭いをする俺や虎、紀之介の身にもなれ!!

この天災まがいの大馬鹿野郎が!!」


ギロリ、と睨みつけられるが、正則はにへら、と笑った。


全然反省してない。そんな顔である。


三成のこめかみに、ぴくりと青筋が浮かぶ。


「……はぁ。」


その空気を、吉継がやんわりと和らげた。


「佐吉、落ち着け。」


福島正則。


その名を知らぬ者はいないが、酒が入ると手がつけられない。

酒でやらかした数は未知数、"天災級の酒乱”である。


「酒呑童子と張り合えるの、あいつくらいじゃね?」などと冗談半分で言われるほどには。


有名な話もある。


黒田家の家臣、母里太兵衛が使者として訪れた際。

正則は真昼間から酒を飲み、機嫌よく絡み始めた。


「これ飲み干せたら、褒美やるで〜。」


止める家臣を無視し、並々と注いだ酒を差し出すと、太兵衛は静かに答えた。


「では、あの槍を頂きとうございます。」


視線の先には、名槍——日本号。


正則は、軽く頷いた。


「ええで。」


——そして、太兵衛はその酒を一滴残らず飲み干した。


(……やらかした。)


気付いた時には、遅い。


武士に二言はない。


意地を張った正則は、秀吉から賜った名槍・日本号を、そのまま譲ることになった。


この話は後に「黒田節」として語り継がれることになる。


「お前、この間も松寿んとこの母里殿にちょっかい出してたな!!」


三成の声が鋭く響く。


「使者を困らせてどないすんねん!阿呆がっ!!」


「いや〜、酒が強いって聞いたから、つい〜。」


正則は悪びれもなく笑う。


「ほんまに強かったんやでぇ?顔色ひとつ変えとらんかった!」


「……それで?」


三成の目が細くなる。


「殿下より賜った槍を、そのまま譲ったんやろうが。

自業自得のくせに、後から返せなどと……。

んな言われたら、松寿や母里殿でなくとも怒るわ!

お前の尻拭いをした紀之介に感謝しろ!」


「ははは!あの時はすまんかった〜!紀之介!」


「いや……もう終わった事だ。」


「ほんまに悪い思うてんのか!?その顔で!?」


三成の怒気が増す。


「ヘラヘラしよってぇ……。」


「佐吉〜、そんなに怒るなや〜。」


正則は肩を竦める。


「折角の男前が台無しだでぇ?」


「誰のせいやっ!!だ・れ・の!!」


そのやり取りを吉継は静かに宥めていた。


変わらぬこの光景を眺めながら、秀次はふと遠い昔を思い出していた。


——長浜で過ごした、少年時代。


年上の三成や正則、清正の後ろを、いつも追いかけていた頃。

彼らは幼い秀次を、弟のように可愛がってくれていた。


(将来の主君やのに、な。)


ふっと、笑みが零れる。


(あの頃から……。佐吉と市松と虎之助は、よう喧嘩して、紀之介が止めに入ってたなぁ……。)


ある日のことだった。


正則と清正、そして三成が大喧嘩を始めた。

周囲が止めても、収まらない。

あまりの騒ぎに幼かった秀次は、泣き出した。


それも、ただの泣き声ではない。

まるで封じられた妖怪が目を覚ますかのような、とんでもない大声だった。


流石の三人も喧嘩を中断し、必死にあやしにかかったのだが、騒ぎを聞きつけてやって来た寧々と智、そして仲に容赦なく雷を落とされた。


(あれは……怖かったなぁ。)


ふっと、苦笑する。


そして、もう一つ思い出す。


「なんで、佐吉と市と虎は喧嘩ばかりするのですか?」


そう寧々に尋ねた幼い日の自分。


「三人とも、私にとって兄者だから。仲良くしてほしい。」


その問いに、寧々は笑って答えた。


「喧嘩するほど、仲がええのよ。」


その日の夜、寧々に連れられて、こっそりと子飼いたちの部屋へ連れて行かれた。


覗いた先には、昼間あれだけ喧嘩していた三人が、並んで眠っている姿。


三成がふらりと起き上がったかと思ったら、布団を蹴飛ばしている正則と清正に、そっと布団を掛け直す。


そして自分も、再び眠りにつく。


しばらくして、今度は正則が寝ぼけて起き上がった。そして、何を思ったのか、三成の布団へ潜り込む。

さらに清正も、無意識のまま寝返りを打ち、三人は、くっつくようにして眠っていた。


「……な?」


寧々が小さく笑う。


「治兵衛は何も心配せんでええ。この三人はねぇ、お互いをよう分かっとるからこそ、喧嘩しとるんよ。」


——現在。


目の前では、相変わらず三成と正則がやり合い、それを宥める吉継。

何一つ、変わっていない。


思わず、秀次は声に出して笑った。


「いやいや、気にするな。」


三人が慌てて頭を下げる中で、秀次は笑いながら言う。


「時代は変わっても、俺たちは変わらんな、と思っただけや。」


その笑顔は、どこか昔に戻ったような、そんな穏やかなものだった。


こんな風に笑う秀次を、彼らは久しく見ていなかった。


「父上様、随分と楽しそうですね。」


鈴のような声に、秀次は顔を上げた。


そこには、秀次の継娘である於宮姫が、柔らかな笑みを浮かべて立っていた。


三成、正則、吉継の三人は、すぐさま頭を下げる。


「於宮、来たか。本日は如何過ごしておった?」


「今川の御屋形様より茶の湯と華道の稽古を。

それから道休様より和歌の稽古を付けて頂きました。」


「そうか、精進いたせ。」


「はい、父上様。」


穏やかなやり取り。その姿は紛れもなく、一人の父親であった。


(あのお小さかった治兵衛様が……。)


三成たちは、どこか感慨深げにその様子を見守る。


於宮姫の視線が、ふと横へ流れる。


「それより、父上様。」


視線の先にあるのは、タバコ盆。


「母上や於妻の方様たちと“程々に”とお約束なさったはずでは?」


じとり、と頬を膨らませ、秀次を睨む。


「もう喫まれておりますの?」


「……。」


一瞬、空気が止まる。


「姫様、それは……!」


三成が慌てて前に出る。


「某がお誘いいたしました!」


「まぁ、治部様が?」


「秀次様が控えておられるとは知らず……。誠、申し訳ございません。」


深々と頭を下げる三成に、於宮姫は少し驚いたように目を瞬かせた。


「……そうでしたか。」


そして、ふっと表情を和らげる。


「治部様がご存じなかったのであれば。

どうか、そこまで頭をお下げにならないでくださいまし。」


「……ありがたきお言葉。」


三成は静かに頭を上げる。


「ですが。」


於宮姫は、少しだけ声を強めた。


「此度だけでお願い致しますね?」


「母上たちが何も言わなければ、父上様はずっと喫み続けてしまわれますもの。」


「はっ。以後、気を付けます。」


「ありがとうございます。」


くすり、と微笑んでから。


於宮姫はさらに言葉を続けた。


「もし、父上様が隠れて喫んでいようものなら、その時は遠慮なさらずに、お止めくださいまし。左衛門様も刑部様も、お願いします。」


「「はっ!」」


「おい、お前たち……。」


秀次が呆れたように眉を寄せる。


「於宮の言うことを聞くつもりか?」


「姫様は、秀次様のお身体を案じておられるのです。」


吉継が静かに言う。


「刑部様の仰る通りですわ。」


於宮姫も頷く。


「今の豊臣には、父上様は無くてはならぬ御方なのですから。」


「……。」


一瞬だけ、秀次の表情が引き締まる。


「姫様の申される通りですぞ。」


正則が口を挟む。


「タバコは程々に!」


「「「だったら、お前は酒を程々にしろっ!!!」」」


三方向からの一斉ツッコミが入った。


「えぇ!?」


正則はいつものように誤魔化すように笑う。まるで反省の色はない。


その様子が可笑しかったのか、於宮姫は堪えきれずに、クツクツと笑い出した。


穏やかな笑いが、縁側に広がる。


(……こんな日々が。)


秀次は、その光景を眺めながら思う。


(いつまでも続けばええのに、な……。)


だが、同時に思う。


(……守らなあかん。)


ふと空を見上げる。


(これからは、今まで以上に。)


静かに目を閉じる。


(小一郎叔父……。どうか、俺たちを見守っててちょう……。)


目を開けて視線を戻すと、まだやっている。


三成と正則の言い合い。それを止める吉継。

そして、その輪に加わる於宮姫。


変わらない光景だが、もう自分は守る側なのだと。

秀次は、改めて心に刻んだ。


【ちょっと登場人物紹介】


・豊臣秀次

通称:治兵衛/関白様

身長:約169cm(茶々と同じぐらい)


豊臣政権の実質No.2。

幼少期は浅井家臣の宮部家に人質に出されており、そこで武家の礼儀作法を叩き込まれた。

秀吉子飼いたちの事は『兄』と慕い、三成たちにとっても、主君であると同時に『弟』でもある。


叔父・秀吉によく似て、無類の女好き。なのだが、女心をよく分かっていらっしゃるようで、女性たちもコロッとしちゃう。

また本人も公家の貴公子のような爽やか好青年なのもある。

正室の一の台も、もはや諦めている。

母・智に似たようで腕っぷしは意外にも強い。秀吉をぶん殴るほどには強い。


叔父の秀長亡き後、豊臣家をどう残すかを思案中。秀吉より先に根回し完了させるぐらいは、ちゃっかりしてる。


・豊臣秀勝

通称:小吉/大納言様

身長:約175cm前後


秀次の弟。

史実では朝鮮の役で若くして病死するのだが、今世では役が発生していないので健在。

叔父の秀長から政務を学ぶ。


豊臣家公式イケメン。しかも高身長。人当たりもよく、気が利く性格で、公家の姫たちの憧れの存在。

密かにファンクラブが出来ているが、当然本人は知らない。


史実では茶々の妹・お江と結婚するのだが、公家の姫君を妻に迎える。


・豊臣秀保

通称:辰千代(幼名)/大和殿

身長:158cm前後(成長期なのでまだ伸びる可能性大)


秀長の嫡男で、母は側室のお藤の方。

秀長家当主。

秀次と秀勝の従弟でもある。

本来なら彼は、秀吉の姉・智の子なのだが、タイムリープのバグのせいか、運命のイタズラか、秀長の息子として爆誕。

父の英才教育のおかげか、真っ直ぐ育つ。

従兄の秀次と秀勝の事を兄と慕う。


父亡き後、腹心である藤堂高虎に支えられながら、大和を統治中。

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