江戸に帰る準備してたら、後継者が増えてる
怒涛の醍醐寺の花見から、一週間後。
旭、秀忠、賢子は予定通り江戸へ帰還することとなり、茶々たちもそれに付き従う形で関東へ戻ることになった。
荷造りを終え、茶々は旭と賢子と共に一息ついていた。
「江戸に着いたら、まずはお賢に城奥の案内せなあかんな。」
「はい。大坂城や聚楽第に劣らぬ城と聞いております。
とても楽しみです。」
賢子は若狭で生まれ、その後は畿内で育ってきたので、今まで畿内から出たことがない。
慣れ親しんだ故郷を離れる不安はあるが、新境地での生活を楽しみにしていた。
「私も帰るん、ほぼ一年ぶりやしなぁ。だいぶ変わっとるやろうな〜。」
ふと、旭が思い出したように言う。
「あ、そうや。お茶々。」
「殿は、もうしばらく上方に残るそうやで。」
「……そうなのですか?」
「うん。ほら、花見の時にあったやろ?」
「ああ……。」
茶々は苦笑する。
あのこの世の全てを凝縮したような地獄絵図、忘れようにも忘れられない。
「義父上様は、まだ残られるのですか?」
「うん。」
旭は肩をすくめた。
「治兵衛……ごほん。関白様が、兄様に家督の件を迫ったんよ。鶴松に譲れ、って。
あれなぁ……意外と賛成してる大名や公家衆が多いんやって。
殿も、その考えを支持する言うてたわ。」
(……調整役、か。)
茶々は静かに納得する。
「鶴松様は、まだ六つ。」
「元服もまだですのに……。」
「いくら周囲が支える言うても、早すぎるやろ。」
「……関白様は、秀保様の後見もされておりますよね。」
(過労で倒れたりしないかしら……。)
秀長の件が、頭をよぎる。どうにも、嫌な予感が消えない。
それから三日後、萩野が報告を持ってきた。
その顔は完全に固まっていた。
「……足利の旧幕臣らが動いております。」
「……は?」
「拾丸様を……豊臣家の後継に、と。」
「は??」
思わず素の声が出る。
「いや、でも……関白様は鶴松様をと……。いまその調整で皆、動いておる。」
「はい。」
萩乃は冷静に続ける。
「前田加賀様をはじめとする恩顧大名。
石田治部少輔様、加藤主計頭様、福島左衛門尉大夫様、大谷刑部様……。」
一拍置く。
「近衛様、九条様ら摂家も含め、主流は関白様支持にございます。ですが……。」
更に一拍。
「旧幕臣らの間では、三好と足利の血を引く拾丸様を推す声が、根強うございます。」
(……分裂してる。)
静かに、しかし確実に。
「……この件、大殿と御台様のお耳にも入れておいた方が良いわね。」
茶々は立ち上がる。
「誰ぞ!」
「はっ!」
控えの奥女中が駆け寄る。
「大殿と御台様へ、謁見を願い出て。急ぎ。」
「ははっ!」
「萩乃。大殿と御台様へのご報告を……。」
「かしこまりました。」




