戦国婚活事情
天正十二年、年が明けた。
大坂城には、新年の挨拶のため多くの人が出入りし、城内は慌ただしさに包まれていた。
正室である寧々は来客対応に追われ、茶々とお初も女房の真似事でそれを手伝う。
(お江は……阿古殿のところに避難させて正解ね。)
やがて喧騒も落ち着き――
寧々が、お初と京極高次の縁組を秀吉へと取り持った。
結果は、上々。
京極家も承諾し、二月には婚約が整った。
(……よしよし。)
まずはひとつ、詰みを回避できた。
「お茶々やお江の嫁ぎ先も見つけないとね。」
寧々の言葉に、茶々は軽く頷く。
「まずはお初を送り出してからで、お願いします。」
(さて、と。)
茶々は一人、思考を巡らせる。
(次は――お江。
徳川に繋ぐ?……いや、待て。)
腕を組み、考える。
(下手に動けば詰む。候補としてキープ……あり?)
「一の姫様。」
(……私自身は?)
畳のフチを睨み付けながら、考える。
(また豊臣に関われば詰む。
……あ!離れるか!……いや、どこ行くん?)
茶々は目を閉じて、眉間に皺を寄せる。
(いっそ女房として残る?寧々様の側近の孝蔵主様みたいにキャリア路線……?)
「姫様。」
(……生き残れるか?周りが黙ってないわよね。特に秀吉。)
「茶々姫様。」
(寧々様や姉様にご縁を組んでもらおうか……。
誰に?福島正則?……いや、ダメ。アイツは呑んだくれ。
加藤清正?……あかんわ。あの熊、城の話しかせえへん。)
「姫様っ!!」
(じゃあ、石田三成?……いや、確かもう結婚してたよな。
そもそも、毎日喧嘩する自信しかないわ。
四度目の時、結構バチバチにやりあったもん。
大谷吉継は?………あの人、何考えてるか分かんない顔して笑ってるからヤダ。)
「一の姫様っ!!!」
「うわっ!?」
顔を上げると、萩乃が眉を寄せて立っていた。
「さっきからお呼びしておりましたが……。」
「ああ、ごめん。考え事してた。」
「随分と難しいお顔をされておりましたよ。」
「……そう?」
軽く頬に触れる。
(やば、顔に出てた?)
「で、どうしたの?」
萩乃は、少しだけ声を落とした。
「お耳に入れておきたき事が。」
空気が、変わった。
「近々、筑前様は……織田信雄様と戦をされるやも知れませぬ。」
一瞬で、体温が下がった気がした。
(あ……。)
「……萩乃。」
「はい。」
茶々は、じっと彼女を見る。そして、意を決して静かに言った。
「貴女……甲賀の者でしょう?」
沈黙。
萩乃の喉が、小さく鳴る。
「……いつから、気付かれて?」
「なんとなく?(実は最初からって言えんからね。)」
茶々は肩をすくめた。
「私の勘、だいたい当たるのよ。」
「……敵いませぬね。」
萩乃は、観念したように頭を下げた。
「寧々様は知ってるの?」
「いいえ。身元は偽っております。」
「そう。」
一拍。
「どうして、私に仕えてるの?」
茶々は答えを知っている。
だけども、萩乃の口から聞きたい。
意地悪で言ってるわけではない、本当にそう思ったから。
萩乃は姿勢を正し、深く頭を下げる。
「我が一門は、浅井家に恩が御座います。
その御恩を……今の浅井家当主である姫様にお返ししたく。」
茶々は、ゆっくりと息を吐いた。
「……ありがとう。」
そして、目を細める。
「何か分かったら、すぐに知らせて。」
ほんの一瞬、間を置いて。
「……はい、一の姫様。」
萩乃は深々と頭を下げた。
(ごめんね、萩乃。今は利用させて……。
今度こそ、貴女ごと守ってみせるから。
だから、それまで力を貸して……。)




