太閤殿下、緊急取締役会で退陣を迫られる
「やめて下さいっ!!寧々様!殿下を虐めないでっ!!」
淀殿が、止めに入った。
(ああーー!!やめんかぁぁ!!火に油ぁぁ!!)
場がさらに凍る。
「おみゃあは引っ込んでいなせゃー……。話がややこしなるでな……。」
寧々の声は、低かった。底の見えない、冷たい声。
その場の空気が、びり、と震える。
「斎、下がれ。出しゃばるでない。」
間に入ったのは、淀殿の養父である足利道休だった。
「どうして?殿下が可哀想……。どうして皆、意地悪するの?」
(ああああ………。出しゃばんなよぉ……!地頭が良くないのに!地雷様なのにぃぃ!!)
周囲の大名たちは、もはや呆然としていた。
道休はこめかみを押さえる。
「……斎、今一度申すぞ。……下がらぬか。」
「でも……。」
「聞こえなんだか!?」
怒声が響くと、淀殿は言葉を失った。
「北政所様、若政所様。斎は儂が引き取ります故。」
「ええ。」
「お願いいたします。」
なおも抗う淀殿を、道休は半ば強引に連れて行く。
その視線が、乳母へ向く。
「其方も来い。」
青ざめた乳母も、引き連れられていった。
その場に、ようやく"空気”が戻る。
「……淀殿は、奇しきお方じゃな。」
直政がポツリと呟くと、茶々は無言で頷いた。
「お茶々と同い年やのに、なんでこうも違うかな〜。」
「そうなのですか!?……まだ二十そこそこかと思うておりました。」
「旭殿よ。お茶々と淀殿は、背負ってきたものが違うじゃろ。
……なれど、あれでも母であるからのう。分からぬものよ。」
のんびりと菓子をつまみ、茶を啜る徳川勢。
(空気、違いすぎるやろ。スポーツ観戦かなにかかな?)
「さてと……そろそろお開きかの。」
「……そうやね。」
席を立とうとした、その時。
「こらぁぁ!!虎ぁぁ!!」
「戻らんかぁぁぁ!!」
三成と正則の絶叫が響き渡る。
「何じゃぁ!?虎ぁ!!」
再び怒声が飛び交い、振り向くと秀吉と清正が掴み合っていた。
(ちょっ!!また!??)
「もういっぺん、言うてみゃあ!!」
「だからずっと言うとるじゃあらせんか!!
ええ加減、あの女を遠ざけやぁ!!
アンタ、あの女を側に置いてから、可笑しいで!!」
清正の方が背が高いので、ほぼ持ち上げている。
「清正!控えろっ!下がらんかい!」
「三成の言う通りや!やめんかっ!こんなとこで!落ち着けっ!」
三成と正則が、泣きそうな顔をして止めていた。
「佐吉、市松……止めんでええ。」
秀次が二人を静かに制すると、場がぴたりと止まった。
「虎の言うとる事は正しいがね。」
(………ん?)
秀次の顔には、諦めと失望と、そして——覚悟があった。
「叔父上。虎の言う通りだわ。淀殿を遠ざけぇ。」
「治兵衛!おみゃあまで、何言うとる!?」
「唐入りも、淀殿も……。俺らももう限界だわぁ。」
(おいぃぃぃーー!!秀次様ぁぁ!!何言うつもりぃぃ!?)
空気が張り詰める中、秀次はとんでもないことを口にした。
「豊臣家の家督を鶴松に譲れ。」
——凍結。
「後見は、俺らがやる。だから、叔父上は隠居して——」
一拍。
「好きなだけ、あの女とおればええ!」
完全な沈黙。誰も、息をしない。
「……治兵衛。それ……本気で言うとるんか?」
「ああ。」
迷いはなかった。
「前田の叔父貴には、もう話は通しとる。」
視線が利家へ集まり、利家がゆっくり頷いた。
「藤吉郎。」
低く、重い声。
「あの女を側に置いてから……おみゃあ、おかしいでよ。」
一拍。
「切らんのなら。表から、身ぃ引け。」
——決定打だった。
これはもう、ただの口論ではない。
「……あ。」
茶々の視線の先には、湯呑みを傾けながら小さく笑う男。
徳川家康。
(……なるほど。コチラも根回し済み、か。)
その間も、上座ではまだ殴り合いが続いていた。




