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豊臣家臣団、限界です

清正謹慎の報は、伏見城にて政務中の三成の元にも届いた。


「………はぁ?主計頭が、謹慎?」


向かいの文机に座る浅野長吉もゆっくりと顔を上げる。


「……どういう事や?」


長吉が静かに問いかけると、知らせに来た小姓はビクッと肩を震わせて、ぽつりぽつりと話し出した。


小姓からの報告を聞き、二人は暫し固まった。


その直後、ガンッッッッ!!と鈍い音が詰所に響く。

三成が文机に頭を打ち付けていた。


「あんの阿呆は……。なんで勝手したんや……!!なんで、俺や弾正様たちに相談せんのやっ!!」


長吉の目から光が消える。


「虎之助ぇ……。あんの、たわけぇ……。今の藤吉郎さは、正面から行ったってどうにもならんでぇ。」


そんな二人の元に、更に嫌な報が届いた。


「福島左衛門大夫様と、大谷刑部様が……登城禁止を言い渡されたとの由に……。」


二人は勢いよく頭を上げる。


「「……嘘やろっ!?」」


そして、同時に天を仰いだ。


***


それから、数刻後。


ゴォォォッッッッ!!という突風が、こちらに向かってくる。


長吉が顔を上げる。


「……え?なんや?」


三成は本気で怖がった。


「ちょっと待って、怖い怖い。」


二人が身構えていると………。


「弾正様ぁぁぁあああああ!!!」


「治部殿ぉぉぉおおおおおおおお!!!」


パァァァン!!と障子戸を吹っ飛ばす勢いで、熊二頭……いや、清正と正則が文字通り飛び込んできた。


そして、二人は華麗なスライディング土下座を披露した。

熊二頭が床に頭を打ち付けたため、詰所がちょっと揺れた。


「勝手なことして!!申し訳御座いませぬぅぅぅぅ!!」


「申し訳御座いませぬぅぅぅ!!某が!この福島左衛門大夫正則が至らぬばかりにぃぃぃーーー!!」


そして清正の隣には、無言で土下座する大谷吉継が。


耳を塞いでいた三成がそっと腕を下ろす。


「……ごめん。なんで、こうなったん?説明してくれん?状況整理したいから。」


すると、吉継がゆっくりと頭を上げた。


「あのですね……。虎が……清正が謹慎になった聞いて、正則が抗議に行きましてね……。

で、清正の覆撤を踏みかねん思うて、私が正則に付いて行ったんですけど……。」


「うん……。ほんで?」


「淀の方様が……なにが起こってるのか分からん顔して、ちょこーんっと……殿下の隣に座ってて……。

ほんで、つい……。」


三成は静かに筆を置き、長吉はそっと煙管を咥えた。


「あんたのせいで、こうなっとるんやろ……と言うてしまいました。」


長吉はギョッとした。


「……え?おみゃあが言うたんか!?」


清正や正則なら、まだ分からなくもないが、物事を冷静に見ると定評がある吉継が言ったのか……。


「はい、俺が言いました。

ほんで……淀の方様が泣いてもうて……。俺と市松に登城禁止を言い渡したんですわ。」


三成は両手で顔を覆った。


「……それ、言うたらあかんやろ。なんで言うたん……。」


「ごめん、俺も言うつもりなかってん。でも……。」


吉継が再び頭を下げた。


「あの顔見てたら……ハラワタが煮えくり返って……自分でも止められんかったん。」


長吉は大きな溜め息を吐く。


「……そりゃなぁ。揉めてる時に、隣でキョトンってされてたら腹立つわな。」


長吉は今だに頭を上げない清正と正則を見る。


「……市松は?怒鳴ったんか?」


「…………はい。紀之介と同じで……。あの顔、不思議そうに俺らを見てくるあの顔が腹立って……。

"そんなに自害したいんなら、俺が介錯したろか?"って……。」


沈黙。


三成は顔を覆ったまま、泣いた。

長吉は額を押さえながら、盛大に溜め息を吐く。


「……はぁぁぁ。まぁ、言うてもうたもんはしゃあない。

虎之助、市松。ええ加減、顔上げやぁ。

これからの事について、話さないかんでよ。」


長吉がそう告げると、二人はようやく顔を上げた。


***


「………で、どうする?」


長吉が煙管に火を入れながら、切り出す。


詰所の真ん中にタバコ盆を置く。

五人はタバコ盆を囲って、愛用の煙管を燻らせた。


正則が天井を見上げながら、紫煙を吐き出す。


「殿下に真正面から……は、無理だなぁ。」


「ああ。今の殿下は、理では動かん。」


吉継は紫煙を吐き出しながら、即答した。


「う〜ん……。淀の方様を遠ざけるか?」


「……佐吉。それやって、俺が謹慎だで。」


「ああ……そうや。また泣くわ、あの女……。」


三成は新しいタバコ葉を丸めながら、溜め息。


「……前田の叔父貴は?」


清正の言葉に、長吉と三成、正則はブンブンと首を横に振る。


「又佐はあかん!」


「殿下が死ぬ!」


「叔父貴も間違いなく槍持って、怒鳴り込みに行く!」


血相変える三人とは裏腹に、吉継はいつもの調子でのんびりと告げる。


「どさくさに紛れて、淀の方様だけ仕留めてくれたらええんやけどなぁ〜……。」


「「おい!!」」


「豊臣家を割る気か!」


三方向から一斉にツッコミを喰らう。


「ごめんごめん、冗談や。」


「おみゃあが言うと、洒落にならんわ……。」


長吉は紫煙を吐き出しながら呟く。


「ふふふ。うーん……外を固めるか……。でも、それやると誰かが倒れるなぁ。」


「……あかん。堂々巡りや。」


三成は紫煙を吐き出しながら、ある人物が頭に浮かんだ。


「……徳川様は?」


三成の口から意外な人物が出て来たので、四人とも、目が点になる。


「え?」


「徳川様か……。」


「確かに……纏め役をできる御方ではあるけどもぉ……。」


五人は顔を見合わせる。


「……まだ、刺激が強いわな。」


長吉の言葉に、四人は頷く。


「新たな火種になるかもしれまへんし……。」


「だな。徳川様かて、んなもん望んどらんやろ。」


五人は同時に溜め息を吐く。


「……あかん、もう分からん。」


「うん、分からんな。」


長吉はふと声を上げる。


「淀には、助佐がおるんか。」


「え?はい、そうですね。」


「そうか。」


長吉はタバコ盆に灰を落として、ポツリと呟く。


「……アイツ、大丈夫か?」


沈黙。


三成は暫く考えていたが、顔を上げる。


「俺……淀に行って、片桐の兄ぃの加勢してきます。」


「え?今から?」


「今からや。」


三成は勢いよく立ち上がる。


長吉は少し考えた後、膝を叩く。


「よっしゃ!ここは俺らに任せぇ!佐吉、頼んだで!」


「はい。」


三成は不安を胸に抱きながらも、急ぎ淀城へと向かった。



【ちょっと人物紹介】


・片桐且元

通称:助佐、東市司 

身長:165cmぐらい


豊臣家に仕える奉行衆の一人。

元は浅井家に仕えており、茶々たち三姉妹の事は、幼少期の頃から知る。

三成とは政務で関わることが多く、互いに胃薬を手放せない仲。


穏やかな笑みを絶やさないが、只者じゃない雰囲気を醸し出している。

さすが、賤ヶ岳七本槍。


本作では、何かと騒ぎを起こす豊臣家の面々の間に挟まれ、胃を痛めながら調整役を務めている。


……たぶん、この人がいなかったら豊臣家の胃薬消費量は今の三倍くらいになる。


なお、三成たち子飼い衆からは「片桐の兄ぃ」と呼ばれている。


頑張れ、片桐の兄ぃ。


・浅野長吉

通称:弥兵衛、弾正

身長:172cmぐらい


浅野長政の名で知られる戦国武将、豊臣家の奉行衆の一人。


北政所寧々の妹・ややと結婚しており、秀吉とは相婿の関係。

秀吉がまだ若い頃から仕えており、長い付き合いのある人物である。


三成や吉継からは「弾正様』と呼ばれ、正則や清正からは「浅野のおっちゃん」と呼ばれている。


穏やかで温厚そうに見えるが、実際にはかなりの苦労人。

豊臣家中の調整役として奔走し、何かと騒がしい周囲を見ながら胃を痛めている。


本作では、三成や且元と並ぶ「胃薬が必要な人」

また、ベビースモーカーで隙あらば煙管を咥えている。

煙管が無くなったら、多分死ぬ。


行幸の際には、何度も「佐吉〜、胃薬余っとらんか〜?」と三成に聞いていた。

……なお、三成からすると、「なんで俺に聞くんや」である。


頑張れ、浅野のおっちゃん。



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