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人生五度目。浅井茶々は遂に開き直った〜今度こそ、生き残らせてもらいます!〜  作者: 奈羅
第四章 井伊家、毎日が戦場。そして、世の中も戦の予感
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姫君の結納、豊臣家の火種

夏の暑さが本格的になり始めた八月。


茶々は政姫を連れ、再び江戸を訪れていた。

竹千代――元服し、長康(ながやす)と名を改めた若君との結納のためである。


四月に訪れた時よりも整備が進んだ城下を眺めながら、茶々はふと考える。


(ここが、後に大都会になるのかぁ……。)


隣では、政姫が目を輝かせて辺りを見回していた。


本来であれば、杏や虎松たちも連れて来る予定だったが、杏が第二子を身籠ったため、今回は留守を任せている。


江戸城、本丸御殿にて、長康との対面した。

かつて岡崎で会った幼い少年は、すっかり面影を変えていた。


祖父・織田信長と祖母・安土殿の血を色濃く受け継いだ、端正な顔立ち。更に、十二とは思えぬ背丈と落ち着き。

まさに“美しい”と形容するに相応しい若君へと成長していた。


思わず見入る茶々の横で、政姫は頬を真っ赤にして茶々の後ろへ隠れてしまう。


「あらあら、恥ずかしいのかしら。」


安土殿がくすりと笑う。


「政姫は、お茶々の小さい頃によう似ておる。」


「そうですか?」


「ええ。でも……お茶々の方が、もっと活発だった気がするわ。」


(それ、ただの落ち着きない子では……?)


茶々は内心で苦笑する。


幼い頃、敗将の娘として舐められてはならぬと意気込み、従兄弟たちを物理的に泣かせまくった。その度に、母に怒られていたが……。


……こうやって思い返してみると、どう考えても「活発」で済む話ではない。


そんなある日、ちょうどその場面に信長が居合わせた。

茶々にぶん殴られて泣いている従兄弟、棒を手にして立ちすくむ茶々を見比べて、信長は豪快に笑った。


『お茶々が男ならば、天下取りに名を連ねておったやもしれぬな!』


茶々が、最初で最後に見た、伯父の笑顔だった。


その後、滞りなく結納は進み、長康と政姫の婚約は正式に成立した。


その場に居合わせた家康は、『長康は三郎に似ておると思っていたが……こうして見ると総見院様の若き日によう似ておる』と感慨深げに語った。


一方で、旭と阿茶局はというと………。


完全に長康に見入っていた。


(おばちゃんがイケメン好きなのは、いつの時代も共通か。)


茶々は心の中でそっと突っ込む。


やがて儀式が終わると、長康が立ち上がり政姫の前へ歩み寄った。


「姫。よろしければ、城内を散策なさいませんか。」


政姫は茶々を見上げる。まだ頬は赤いままだ。


「行ってきなさい。」


茶々は優しく背を押した。


「折角のお誘いよ。」


政姫はこくりと頷き、長康に手を引かれるようにして部屋を出て行った。


その背を見送りながら、旭がぽつりと呟く。


「まだまだ、兄妹みたいやね。」


「……はい。」


その場に、柔らかな空気が流れる。


「さて。」


家康が口を開くと、一瞬で空気が変わった。


「お茶々と安土の御方様に、頼みがある。」


「頼み事、ですか?」


旭が姿勢を正す。


「此度、長丸が……いえ、秀忠殿が京極の賢姫と正式に婚約いたしました。」


長康と同じく元服し、秀吉より偏諱を賜った長丸は、『秀忠』と名を改めていた。


「結納のため上洛し、そのまま暫く京に滞在いたします。」


旭は静かに続ける。


「その折に、お茶々と御方様にも同行していただきたいのです。」


安土殿はすぐに頷いた。


「異存はありませぬ。」


だが、茶々は少しだけ言葉を濁す。


「私は……構いませんが。夫と領地、それに子供たちが……それに、杏が身籠っておりまして。」


「ああ、そのことなんやけど。」


旭が阿茶局に目配せをすると、茶々の前に漆盆をスッと差し出す。その上には、一通の文。


「北政所様よりの書状にございます。」


茶々はそれを手に取り、目を通した。


――そして、表情がわずかに強張る。


「お茶々、何と?」


安土殿の問いに、茶々は静かに答えた。


「……阿波の姫君が、懐妊されたそうです。」


その場の空気が、一瞬で変わる。


寧々の文には、さらに続きがあった。


阿波の姫は、かつての天下人・三好の血を引き、さらに足利将軍家とも縁を持つ。

もし男児が生まれれば、その血を掲げ豊臣の後継に据えようとする動きが出るだろう。


奥向きはすでに騒然としており、竜子も平静を装いながら、内心は穏やかではないという。


そして、茶々を竜子の側に暫く置いてほしい、との願いが記されていた。


(……厄介ね。)


茶々は静かに思う。


(もし男児なら……確実に波乱になる。)


まだ生まれてもいない命が、すでに政(まつりごと)を揺るがしかけている。


(せめて……産まれる子が、姫であることを願うばかりだわ。)


茶々は、胸の内でそう呟いた。

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