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人生五度目。浅井茶々は遂に開き直った〜今度こそ、生き残らせてもらいます!〜  作者: 奈羅
第四章 井伊家、毎日が戦場。そして、世の中も戦の予感
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見届ける者、背負う者

【ご注意】

今回はかなり重い回です。

人身売買事件の処罰に伴い、処刑・火刑・自害などの描写があります。

苦手な方は無理をせず、ここで一度引き返すことをおすすめします。


今回の描写は、残酷さを強調するためではなく、「人の命を銭に換えたことが、どれほど多くの人間を傷つけたのか」を描くためのものです

且元は秀吉の命を受け、直ぐに織田屋敷へと向かった。


しかし——遅かった。


「自害……?」


且元は呆然とその場に立ち尽くす。


「この血は……残せぬ、と。」


織田家の小姓が、そっと一通の手紙を且元に差し出した。


北の方の遺言であった。


この命を持って、関白殿下に詫びる。

子供たちは残して逝けない、連れて逝くことをどうかお許しください。


且元は暫く動けなかった。


***


信雄の正室、嫡男と姫は、秀吉により大徳寺総見院にて丁重に葬られた。


「なにも……死ぬ事なかったやないか。ましてや、子供まで……。」


秀吉の声色から、強い後悔と深い悲しみが滲み出ていた。


***


そして、粛清が始まった。


人買いに関わった織田家臣たちは、縄を掛けられ、素足で洛中を歩かされた。


泣きながら歩く者、歯を食いしばる者、気が狂ったように笑う者。


この異様な光景に、人々は言い様のない恐怖を感じた。


六条河原の処刑台には、既に多くの人々が集まっており、ざわついていた。


見物に来た商人、手を合わせて念仏を唱える僧侶たち、不安気に処刑台を見つめる住人。


且元が澄んだ声で淡々と罪状を読み上げる。


「——女子を南蛮へ売り渡した罪。」


一人目。


刃が振るわれ、身体が崩れ落ちる。

砂が、静かに色を変えていく。


二人目……三人目。


悲鳴は次第に減り、代わりに嗚咽が広がる。

処刑人は、何も言わず手を動かし続けた。


三成は少し離れた場所で、筆を走らせる。


十七……二十三……三十一……。


一瞬だけ手が止まり、目を閉じる。だが、すぐに次の数を書き記した。


——晒し首。


縄に吊るされた"ソレ"が風に揺れ、町人たちはその前を通らされる。


「しかと、見よ!」


兵の声が響く。


「これが、人買いの末路である!」


夕刻の河原は静かだったが……砂は赤黒い。


同じ月に、堺では火刑が執行された。


見物にやって来た南蛮商人は祈り、キリシタンたちは十字を切る。

僧侶は合掌をして、小さく念仏を唱えていた。


火刑台に火が点けられ、人々から悲鳴が上がるが、それは途中で聞こえなくなった。

亡骸が燃やされた後、火が消され暫く晒された……。

辺りからは、とてつもない死臭が立ち込め、立ち会いの兵ですら、その場で嘔吐するほどだった。


そして、遺体は灰になるまで焼き尽くされ、その灰は川へと打ち捨てられた……。


その余りにの惨たらしさに、堺の人々は震え上がり、『豊臣秀吉』という男に恐怖した。


人買いに関わった者が余りにも多く、畿内は悲鳴と血の匂いに包まれた……。


***


聚楽第に安置されている仏壇。


三成は静かに数珠を取り合掌、静かに読経をする。


「摩訶般若波羅蜜多心経。観自在菩薩、行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄——」


声は揺れない。怒りもない。


寺小姓をしていた頃、骨の髄まで叩き込まれた経を、ただ仏に向けて唱えた。


読経が終わり、仏間に静寂が流れる。


「………佐吉。」


振り返ると、やつれた顔をした仲が、正則と吉継に支えられながら入って来た。

その後ろを歩く清正と、加藤嘉明もひどく疲れた顔をしている。


「ババ様……。」


仲はゆっくりと腰を下ろすと、仏壇に手を合わせる。


「経を、唱えてたんか?」


「うん。……罪を犯したとはいえ……命や。

これから……地獄の業火に焼かれるかもしれん、やけど……罪を償って、せめて次の世では……。」


「うん……そぉやねぇ……。」


仲は三成の隣で、長い間合掌していた。


「……ババ様、そろそろ。」


吉継が仲の肩にそっと手を置く。


「うん。」


仲がゆっくりと立ち上がると、廊下に控えていた二人の侍女がすっと入って来て、仲を連れて行った。


仲が部屋から出たのを確認してから、三成が切り出す。


「……堺は?」


「酷い有り様や……。」


清正がポツリと告げる。


「大坂も、似たようなもんや。」


嘉明が肩を落としながら、ポツリと溢した。


「……戦で、死体や血は見慣れてると思うてたけど。」


三成は両手で顔を覆い、深く息を吐く。


「戦で人が死んだんやない。人を銭に変えた者が死んでる。」


吉継の声も、流石に沈んでいた。


「関わってる人間が多過ぎるわ。……明日もや。」


いつものお調子者は鳴りをひそめ、正則も静かに溢す。


「いつまで続くんやろ……。」


重い空気が、仏間を覆う。


「殿下は、関わった者全てを処罰なさると……。」


「うん……。」


三成は静かに顔を上げる。


「やからこそ……俺らは目を逸らしたらあかん。」


四人が顔を上げた。


「……せやな。」


「最後まで、見届けよう。」


「武士として……一人の人として……。」


この場に居る全員、目を背けたいはずだ。

だが、自分たちが目を背けるわけにはいかない。


武士として、一人の人として、最後まで見届ける。


***


秀吉は執務室で書状をしたためていた。


「……殿下、そろそろお休みになりませぬと。」


御伽衆の一人、足利道休がそっと声を掛ける。


「うむ……。やけど、ここで手を止める訳にはいかんのよ。」


「なれど……。」


秀吉は筆を置いて、道休にふっと笑い掛ける。


「無茶すんのは、若い頃から慣れとる。それよりも、道休様こそお休みを。明日も早いで。」


道休は何か言い掛けたが、ぐっと飲み込む。


「では、御言葉に甘えまして。」


「ああ、明日も頼むで。」


道休の背を見届けて、秀吉は筆を握る。


秀吉とて、何も思わないわけがない。

人の命だ、軽いものではない。


だか、ここで止まればまた同じ事が繰り返される。

だから、止まる訳にはいかない。

次の犠牲者を出さない為に、今生きている人々を守る為に。


「藤吉郎……。」


顔を上げると、母の仲がヨロヨロと秀吉に向かって歩いて来た。


秀吉は慌てて立ち上がり、仲を支えようとするが、その前に仲は秀吉に向かって手を付いた。


「おっかぁ。」


「お願い、もうやめてぇ……。」


仲の声は、涙で震えていた。


「もうええやろぉ?三介様は改易になった。関わった者たちは死んだ……。これ以上は、もうやめて。」


秀吉はただ黙って母の言葉を聞いていた。


暫くの沈黙後、秀吉がゆっくりと口を開く。


「……おっかぁ、すまん。ここで止まる訳にはいかんのや。」


仲が顔を上げる。


「儂かて、好き好んでやっとるわけじゃないで。

……ここで止まったら、また同じことが起こる。

儂は……これから先、人が泣かんで済むように、せなあかんのだわ。」


仲は黙って息子を見つめる。


「決めたんや……。御屋形様が成し遂げられんかった……御屋形様が作ろうとしてた世を儂が作るって。

茨の道なら……とっくに覚悟の上だでよ。」


仲はゆっくりと目を落とす。


「……分かった。」


そして、顔を上げる。


「だったら、最後まで責任持ちゃぁ……。」


「……ああ。」


秀吉の声に、迷いはなかった。

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