↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生五度目。浅井茶々は遂に開き直った〜今度こそ、生き残らせてもらいます!〜  作者: 奈羅
第四章 井伊家、毎日が戦場。そして、世の中も戦の予感
63/103

御屋形様が守ろうとしたもの

聚楽第・奥向き、寧々の御殿。


「北政所様。」


孝蔵主に呼ばれて、顔を上げる。


「中将秀次様がお越しになりました。」


寧々は静かに立ち上がり部屋を出ると、秀次様がこちらに向かって歩いてくる。そして、その隣には小さな影。


「……秀信様。」


秀信は秀次の手をぎゅっと握ったまま、不安げに寧々を見る。

秀次が寧々の前に立ち止まり、頭を下げる。


「織田の御屋形様の血を守る為、暫しお預け申す。」


寧々は静かに頷いた。


「……内府様は?」


「……これより。」


短い答えだったが、寧々は全てを察した。

寧々は秀信の前にしゃがみ、目線を合わせる。


「秀信様。ここに居れば、誰も手は出さん。」


秀信の手を、そっと握る。


「御屋形様の血は、絶やさせぬ。」


秀次と目が合うが、そこに言葉はいらなかった。


***


信雄の尋問は、聚楽第本丸の詰所にて行われた。


三成ら奉行衆の厳しい追求にも、信雄はしらばっくれた。


(流石は、御屋形様のご子息や。そう簡単に口割らんか。)


信雄が尋問を受けて三日。


中々口を割らない信雄に、秀吉が痺れを切らした。


「悪知恵だけは働くたわけだでぇ……。予想通りやけども。いつまでも……悠長に待っとられんのだわ。」


そして、秀吉が自ら尋問を開始した。


最初こそ、秀吉は淡々と尋問していた。


しかし………。


(このたわけ……。御屋形様の名を汚しただけやない……。)


腹の底から、沸々と怒りが込み上げてきた。


秀吉自身、声を荒げぬよう注意を払っていたのだが、尋問が進むに連れて語尾が強くなる。


信雄が耐えきれず、視線を逸らせた。


これが、秀吉の逆鱗に触れてしまった。


「……こんの、たわけがぁぁっっ!!」


バキッ!と扇子が折れた音だけがやけに響いた。


三成は筆をそっと置き、且元は目を閉じる。

側に控えていた福島正則と浅野長吉は、すぐに止めに入れるように膝を立てる。


「儂はなぁ……御屋形様の名を背負っとるんや。」


静かにそう告げると、秀吉は立ち上がり、信雄の前に立ち塞がる。


「……女子供を売ったんか!?南蛮に流したんか!?」


「……。」


信雄は答えない。


長い沈黙の後、信雄の低い声が響く。


「……サルが。何を偉そうに……。」


秀吉の眉が上がり、正則と長吉が動く。


「……何を偉そうにっ!お前如きが!父上を語るでない!!」


その瞬間、バキッ!と鈍い音が響き、信雄が勢いよく後ろに飛んでいった。


「こんの、大馬鹿もんがぁぁ!!

おみゃあはな!御屋形様の名に泥を塗っただけやない!!

御屋形様の名を!織田信長の名と、織田の名を地に落としたんだわっ!!」


信雄を蹴り飛ばす秀吉を、正則は慌てて羽交い締めにして引き離した。


「殿下!!」


正則を吹っ飛ばさん勢いで暴れるので、長吉、そして三成と且元も慌てて止めた。


「阿呆や阿呆や思うてたけど!!ここまで阿呆やったとはな!!

たわけがっ!!女子供を!犬や馬のように売ったんかっ!?」


「殿下!なりませぬ!」


四人がかりでどうにか秀吉を抑えた。


倒れている信雄は、クツクツと笑い出した。


「……儲かるんだわ。」


「……は?」


三成と正則の動きが止まる。

秀吉は目を見開いて、信雄を睨み付けた。


「なんやと?」


信雄はゆっくりと起き上がり、楽しそうに笑いながら、秀吉を睨み返す。


「人買いは、儲かる。南蛮は、金を出す。領地も潤う……何が悪い。」


信雄の様子に、長吉は血の気が引いた。


「尾張は広い。金が要る。戦も終わった。南蛮は金を持っておる。

女子一人で村が潤うなら……。何が悪いのだ。」


その言葉を聞いた瞬間、秀吉の目から、理性が消えた。


「女一人、やと?」


秀吉は正則たちの腕から出て、信雄の方へフラフラと歩いていく。


「命を、銭で……数で勘定しよんか?」


三成たちは黙って秀吉の背中を見つめる。


その背中には強い怒りと、深い悲しみが滲み出ていた。


信雄の襟をグイッと掴み上げ、静かに告げた。


「おみゃあ……御屋形様の息子やろ?

御屋形様が、何のために戦ってたか……まさか、知らん言うんか?」


誰も何も言えない。


「御屋形様はなぁ……女や子供が……人が泣く世を変えようとしたんや。」


ポタリ、と秀吉の涙が畳に落ちた。


「それを、おみゃあは売ったんや……。

御屋形様が何よりも大事にしてたもんをな。」


信雄は、ようやく恐怖を理解した顔になる。だが、もう遅い。

秀吉はゆっくり立ち上がった。


「佐吉……。関わったもんを捕えろ。全員や。」


「御意。」


「市松……弥兵衛、このたわけは牢に入れろ。」


「「はっ。」」


「助佐……。内府の北の方と、嫡男、姫を連れて来い。」


空気が張り詰める。


「……承知、いたしました。」


秀吉は涙を拭わず、信雄を見つめた。


「改易や。」


ハッキリとそう告げた。


「死罪にする思うたか?……ほんまやったら、死罪や。

やけどな……死んだら意味がないがね。

自分が一体何をしたのか、生きて結末を見届けろ。

そして……二度と名乗るな。」


秀吉は乱暴に袖で目と頬を拭った。


次に顔を上げた時は、"関白"の顔であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。