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行幸は豊臣家の恒例イベントで締められる

聚楽第を発ち、大坂城へ向かう前。


徳川一行は、秀吉への挨拶のため、聚楽第の一室を訪れていた。


家康、旭、少し後ろに阿茶局。そして、その後ろには井伊夫妻が控えている。


「いやぁ〜、上洛も無事に終わって何よりじゃ!」


秀吉は上機嫌だった。


「天子様の行幸も無事に終わったし、皆もよう働いてくれた。徳川殿もご苦労であったな!」


「勿体なきお言葉。」


家康が頭を下げ、その隣で旭も微笑んでいた。


「兄様も、お疲れさんでしたなぁ。」


「旭もようやったでぇ!」


「私は何もしてへんわぁ。」


「何を言うとる!徳川殿の正室として――」


秀吉はそこで、ふと視線を後ろへ向けた。


「……おや?」


茶々と目が合う。

茶々は心の中で舌打ちした。


(……ちっ。)


「お茶々。」


「……はい。」


茶々は嫌な予感がした。


(やめろ。)


直政も僅かに眉を動かす。


「久しぶりに見れば、また一段と綺麗になったのぉ。」


「……おほほほほ、ありがとうございます。」


茶々は社交辞令で返すが、秀吉は嬉しそうに笑う。


「直政の妻になったとはいえ、儂にとっては可愛い身内やでぇ。もう少しこっちに来て顔見せてちょうよ〜。」


「殿下。」


即座に低い声が遮り、秀吉が顔を向けると、ニッコニコの笑顔の直政。


「ん?なんだね?」


「一つ、よろしいでしょうか。」


「なんじゃ?」


直政は茶々の手に自分の手をそっと添える。


「茶々は、某の妻にございます。」


「うむ。」


「その妻を、夫たる某の目の前で口説かれるとは……。」


一拍。


直政は笑みを深くする。


「関白殿下は、実に愉快なお方ですねぇ。」


「…………。」


空気が凍り、茶々は隣で固まっている。


(旦那様……。)


家康は僅かに振り返り、直政を小声でたしなめた。


「(……万千代、怒っておるな。)これ、兵部……。」


旭は呆れた目で兄を睨み付け、阿茶局は静かに視線を逸らした。


突然、バキッ!と派手な音が響いた。


秀吉の隣で寧々が手にしていた扇子をへし折っていた。

近くに控える孝蔵主は『やれやれ……』と言いたげに肩をすくめている。


「…………。」


秀吉の顔から笑みが消える。


「ね、寧々?」


寧々はにっこりと笑った。


「お前様。」


「はい。」


「……またですか?」


「いや、違う!今回は儂は――」


「佐吉。」


「はっ。」


いつの間にか部屋の隅にいた三成が、一歩進み出る。


その手には………


縄が握られている。


「…………。」


茶々と直政は思わず二度見した。


(どっから出した!?)


(いつの間に!?)


寧々は三成を見て、穏やかに微笑む。


「やれ。」


「承知。」


「ちょ、待て待て待て!!」


秀吉が立ち上がり、慌てて見苦しい言い訳を始める。


「儂、まだ何もしておらんぞ!?」


三成は無表情のまま縄を構える。


「……今回は、ではありません。」


「何!?」


「これまでの累積です。」


「累積!?」


「はい。」


「そんな制度あったん!?」


「今できました。」


「おかしいやろがぁぁぁああ!!」


三成は静かに縄を構えたかと思ったら……


「――うおっ!?」


シュッ、と三成の手が素早く動いた。


「早っ!?」


側に控えていた正則が思わず声を漏らす。


「相変わらず、手際がええな。」


「慣れたくて慣れたわけやないで。」


清正が腕を組んで頷く。


「見事だわ。」


「褒めるとこ、そこなん?」


吉継はいつもの笑顔で眺めていた。


「見事な連携ですねぇ。」


「お前らも手伝え!!」


秀吉の悲鳴が響く。


「…………。」


そして秀吉は、あっという間に庭に吊るされていた。


「…………。」


その姿を眺める徳川一行。


「徳川殿、旭殿。」


寧々に呼ばれて、姿勢を正す。


「ウチの人が申し訳ない。アレで堪忍してちょう。」


家康は何も言えなかった。

その隣で旭は腕を組んで、ふん、と鼻を鳴らす。


「ほんま、懲りんでぇ。あのろくでなし!」


阿茶局も静かに頷く。


「……誠に。」


家康は深々と息を吐いた。


「殿下も、そろそろ学習なさればよいものを。」


茶々は隣の直政を見る。


「……旦那様。」


「何でしょう?」


「止めなくて良いんでしょうか?」


「豊臣家中の問題じゃ、我らが出しゃばるわけには参らぬ。」


直政は茶々へ視線を向ける。

先ほどとは打って変わって、とても優しい眼差しだった。


「それから……妻を守るのは、夫の務めである。」


茶々の顔が、ほんのり赤くなる。


「……旦那様。」


「はい。」


「大好き。」


「…………。」


直政の顔も赤くなる。


「……俺もだ。」


「嬉しい……。」


完全に二人だけの空間である。


「……おい。」


家康が眉間を揉む。


「儂らの前で始めるでない。」


「ええやないですかぁ〜、まだ新婚さんなんやから。」


「微笑ましい限りです。」


旭が嬉しそうに笑い、阿茶局も穏やかに笑う。


その頃、庭では……。


「……なんでや。」


吊るされた秀吉が呟く。


「なんで儂だけこんな目に遭うんじゃ……。」


三成は縄を確認しながら答える。


「自業自得ですよ。」


「佐吉ぃぃぃ……!」


「泣くな。鬱陶しい。」


「冷たい!」


清正が鼻を鳴らす。


「まだ懲りとらんなぁ……。」


「虎之助、追い打ちせんといて。」


吉継が穏やかに笑う。


「殿下。次は何をなさいます?」


「何もせんわ!!」


「それなら結構。」


吉継はにっこり笑った。


「では、縄はそのままで。」


「なんでじゃぁぁぁぁ!!」


聚楽第の春。


行幸は終わった。徳川一行は、まもなく駿河へ帰る。


ただし――豊臣家の天下人だけは、今日も庭で宙に浮いていた。

隙あらばイチャつく井伊夫妻(笑)


そして、豊臣子飼いたちは上司であり、父親代わりでもある秀吉に対して、割と辛辣。


『だって、女関係は擁護のしようがあらへんもん。』

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