豊臣家、業務連絡
道休が徳川邸を訪れている同時刻。
聚楽第、本丸御殿・表。
石田三成、福島正則、加藤清正、大谷吉継は縁側に並んで、煙管をふかしていた。
「「「「ああ〜………胃が痛い。」」」」
四人の声が見事に揃った。
「佐吉と片桐の兄ぃが胃薬手放されへんの、よう分かったわ……。」
清正は煙管を咥えたまま、ポツリと呟くと、三成が鼻で笑う。
「俺ら、行幸の間なにしてた?」
正則はタバコ盆に灰を落として軽く手入れをする。
三成は煙管を咥えたまま、指を折る。
「初日の朝っぱらから、あの阿波のおばはんが騒ぎ起こしたから、事情聴取。
んでその後に、徳川の控えの間に行って、片桐の兄ぃと一緒に、茶々姫様と阿茶局様に頭下げに行った。
んで、天子様の出迎え……昼は警護で、夜は宴席……。」
「まぁ、その後は……これと言って騒ぎはなかったねぇ……。」
吉継は紫煙を吐き出しながら、のんびり呟く。
「……あったやん、最後の日……。」
正則は新しいタバコ葉を詰めて、火を入れる。
「「「………ああ〜、アレな。」」」
三成と吉継、清正の声が重なる。
「アレはないわ……。」
「殿下の前で成り上がり者って……。」
三成と清正は顔を見合わせて、首を横に振る。
「お前んとこの姫様、誰の側室やねん。」
「ほんまに……。女房が分かってなかったらあかんやろ。
姫様が………あの調子やねんから。」
「せやなぁ。アレを殿下や北政所様の前で言うなんてなぁ……。実は腹の中では殿下を見下してると思われても仕方がないでぇ。」
四人は同時に溜め息を吐く。
「自尊心だけは一丁前に高いわ。」
「富士山より?」
「さあ?」
三成はタバコ盆に灰を落とす。
煙管の手入れをしていた清正は、ふと手を止めて、三成と正則を見る。
「そういや……あの女房どうしたん?」
三成と正則は遠い目になる。
「………殿下が追放なされた。」
清正と吉継は、目を見開く。
「姫様の女房を?」
「うん、殿下が"女房としての自覚が足りんから、かような騒ぎを起こすのじゃ。天子様の御前でなければ、手打ちにしておるぞ。"って……。」
正則の言葉に、三成が付け足す。
「"成り上がり者たる余の側室となった姫に仕えるは、其方の自尊心にそぐわぬであろう。"とも言うてたわ。」
「そのまま着の身着のまま、ポイっ……や。」
沈黙。
「………根に持っとるやん。」
清正がポツリと呟く。
「そりゃそうや。それから……喧嘩売った相手もまずかったしな……。」
「うん。よりにもよって、織田の五の姫様に……。」
「織田の御屋形様の姫君やで……。」
「うん。」
また沈黙。
「……阿波の姫様は、なんて?」
清正の問いに、正則は盛大に溜め息を吐く。
「"殿下がそう言うんなら、仕方ない"……やって。」
再び、沈黙。
「………ああ、そう。」
「うん、そっかぁ……。」
もうそれしか言えなかった。
しばし、四人は無言で煙管をふかす。
やがて、正則がふと思い出したように口を開いた。
「そういや……浅野のおっさん、ぶっ倒れそうな顔してたで。」
「……あぁ〜。道理で"佐吉〜、胃薬余っとらんか〜?"って、一刻置きに聞いてきたわけやわ……。」
三成が眉間を揉む。
「うん。片桐の兄ぃも大概やけど、あの人も胃が痛いやろなぁ。」
「前田の叔父貴も、酒の量がいつもより多かったし、まつ姉ちゃんなんか、笑ってるのに顔怖かったん。」
清正が煙管を手入れしながら呟く。
「……ああ。」
三成も頷く。
「行幸の間、何かと気苦労が多かったやろうからな。」
「官兵衛のおっさんは、相変わらず笑ってたわ……。」
正則が思い出したように言う。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
三人の視線が、正則へ集まる。
「絶対楽しんでたで。」
「「「……それは思う。」」」
四人は揃って遠い目をした。
「……なぁ、俺ら武士やんな?」
正則は空を見上げながら、呟く。
「……武士やで。」
三成が煙管に火を入れながら答える。
「奉行でもあるけどねぇ。」
吉継がいつもの笑みで答える。
「じゃあ、なんで女房同士の喧嘩まで裁いとんねん。」
「知らん。」
三成が即答した。
「俺も知らん。」
清正も即答した。
「俺も知らんわぁ〜。」
吉継も即答した。
「………なんでやねん。」
正則は紫煙を吐き出しながら、呟いた。
日本にタバコが伝わった年代については諸説ありますが、本作では「種子島伝来と同時期に伝わった」という説を採用しております。
当時、タバコは高級品だったため、上流階級にとっては一種のステータスでもあったのではないかと思います。
(今も高級品になりつつあるけど……。)
ちなみに、作中で武将たちが煙管をふかしているのは……まぁ………私の趣味です(笑)




