寧々様に報告、仮眠から目覚めたら謎の土下座。感情処理が追い付かん
(アポ無しで大丈夫なんかな?)
少し不安になりながらも、茶々は寧々の住まう御殿へ向かった。
しかし、その心配とは裏腹に、あっさりと通される。
寧々はすでに支度を終え、軽い朝餉の最中だった。
「お茶々、済まんね〜。こんな状態で。」
「事前に知らせもせず参上した無礼、お許し下さい。」
「気にせんでええわよ〜。お茶々は身内なんやから〜。」
何気ない一言なのだろうが、茶々はほんの少し胸が温かくなる。
「で、どうしたの?」
寧々はごく自然に聞いてくる。
寧々の顔を見て、茶々は一瞬言葉に詰まるが、意を決して、口を開く。
「はい……あのですね……。寧々様、心してお聞きください。」
「??……うん。」
「実は……。」
明け方に起こった騒動を一通り報告すると、寧々は重く溜め息を吐いた。
「そんな事が……。はぁぁぁ……朝っぱらから……何してんのよ……。今日は失敗は許されん日なのよ。」
「……駿河御前様がお収めになりましたが……。」
「そう……。後で私も姫路殿の様子を見に行くわ。
お茶々も……朝からご苦労やったわね。」
「有り難き御言葉に御座りまする。」
寧々は、ふと視線を落とす。
「はぁぁ〜………。それにしても……阿波の姫……どういうつもりやろぉか?」
(多分、何も考えてないと思いますよ……。)
お江たちから聞いた話と、あのおばさん……乳母殿の態度を見た限り、思ったことをそのまま口にする……。
そんな類の人間にしか思えない。
「北政所様、如何なさいますか?」
「え?うん……。」
寧々はゆっくりと茶を啜り、目を閉じる。
やがて、静かに告げた。
「天子様の出迎えが済んだら、下がらせるわ。
何をしでかしてくれるか、分かったもんじゃないわ。」
「それが宜しいかと。」
「はぁ……先の公方様も、面倒なモンをウチの人に寄越したもんやわ。」
(それは同意……。)
寧々は残りの茶を飲み干した。
「それでは私はこれにて、失礼致しまする。」
「ええ、ご苦労様。」
「はっ。」
御殿を後にした茶々は、そのまま旭の元へ戻ったが、部屋にはすでに姿はなかった。
片付けをしていた阿茶局が、茶々に気付く。
「お帰りなさいませ、少輔の方様。」
「旭様は、もう行かれたのですか?」
「ええ。今し方、殿が参られて。朝餉を一緒にと。」
「では、私どもも支度しましょうか。」
「そうですね……ですが、まだ刻が御座いますので……。」
今上帝の出迎えは、秀吉と寧々、竜子ら側室、そして諸大名とその正室が務める。
茶々たちの出番は、午後の茶会からだ。
「……少し、休みましょうか。」
「そうですね……支度に加えて、あの乳母殿の件もありましたし……。」
「流石に疲れました……。」
茶々と阿茶局は、しばし仮眠を取ることにした。
***
半刻後。
部屋の外が妙に騒がしくて、目が覚めた。
「……何事でしょうか?」
「御前様が戻られたのでしょうか?」
阿茶局と顔を見合わせ、襖を開ける。
すると、廊下に見覚えのある男の姿。
「石田殿……?」
そして、もう一人。
「あら?助佐……?」
かつて浅井に仕えていた男、片桐且元の名が思わず口を突いて出た。
「……如何なさいましたか?」
「何か問題でも?」
茶々と阿茶局が二人の前に姿を見せた瞬間……。
「「申し訳ございませぬぅぅぅぅ!!!」」
三成と且元は、勢いよく廊下の板に額を擦り付けた。
「……は?」
茶々と阿茶局の声が、ぴたりと重なる。
「ど、どうされたのですか!?」
「い、いや……これは……その……。」
三成が何か言おうとするが、言葉が続かない。
且元も同様に、顔を上げようとしない。
「……お二人とも、顔を上げて下さい。」
阿茶局が静かに促す。
しかし、二人はただひたすらに頭を下げ続けた。
(え、何?何が起きたん?)
理由も分からぬまま、空気だけが重く沈む。
そして、結局その場では何も分からなかった。




