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人生五度目。浅井茶々は遂に開き直った〜今度こそ、生き残らせてもらいます!〜  作者: 奈羅
第二章 生き残りを賭けて〜徳川家で戦国サバイバル〜
31/58

狸は腹の中で縁談を企んでました

天正十四年、七月。


さすがにこの時期になると、駿河も容赦なく暑い。


(あっっつ……。)


風はぬるく、日差しは強い。扇風機も冷蔵庫もないこの時代では、どうにもならない。


(クーラー欲しい……せめて、扇風機……。)


なんて、言っても仕方がないのだけれど。


そんな中、家康は大坂へ上阪し、豊臣家への臣従を宣言した。


これにより、徳川は豊臣の配下となる。


(……さて、どうなるかしらね。)


北条、伊達、最上。そして九州。

各地の動きが気になるところではあるが――


今はひとまず、家康が無事に戻ったことの方が大きい。


大政所は、『婿殿が帰って来たんなら、オラァはもう用はねぇな!』と言い残し、大坂へ戻っていった。相変わらずである。


それから、例の「柴積み事件」。

どうやら秀吉の耳にも入ったらしいが……


『徳川殿は誠、良き家臣をお持ちじゃ!』


と、なぜか上機嫌だったという。


(……基準どうなってんのよ。)


重次は、『御前様に頼まれてやっただけなんだが……』と、困惑していたという。


まあ、とりあえず……しばらくは平穏が戻るだろう。そう思っていた。


***


「姫様、殿がお呼びで御座います。」


帳簿と睨めっこしていたところで、於孝に声を掛けられた。


「殿が?」


「はい。本丸へ、との事で。」


(……何かやったっけ、私。)


思い当たる節が多すぎる。

嫌な予感がして、内心ビクビクしつつも本丸へ向かう。


家康の私室には、家康、旭、阿茶局が揃っていた。


「おお、一の姫!来たか!」


手招きされるまま、部屋へ入る。


「御尊顔を拝し――」


「ああ、挨拶はよい。」


即カット。


(雑っ。)


「一の姫に土産を渡したくての。」


「……土産、ですか?」


家康は長細い木箱を差し出した。旭に促され、蓋を開ける。


中には、真新しい筆。見るからに上等な品だった。


「これを……私に?」


「ああ。」


「ありがとうございます。大切に使います。」


顔を上げると、家康が娘でも見守るような目で、じっと茶々を見ていた。


「あ、あの……殿?」


「ああ、すまんすまん。」


ふっと視線を逸らす。


「土産のためだけに呼んだのでは、ないのでしょう?」


茶々はじっと見据える。


「……ははは!やはり敵わぬのう!」


ひとしきり笑った後、家康は表情を改めた。


(な、なんだろ……。怒られる?

やっば、蝉がうるさくてあそこの庭の枝を落としたことかな?

庭の池の鯉が一匹窮屈そうだったから、こっそり別の池に移したのバレた?

それとも………団子が食べたくなって、侍女たちとこっそり団子作って、夜中にお菓子パーティーしたこと、バレた?)


まぁまぁ、やらかしている。


「一の姫よ……。」


言い淀む。


(おや?これは……怒られない。もしかして?もしかする?)


茶々、澄ました顔をしているが、怒られないと分かり、内心安堵している。


「お茶々。」


先に口を開いたのは旭だった。


「アンタに、縁談があるんよ。」


「縁談、ですか?」


家康と旭が、静かに頷く。


(……なるほど。)


茶々は内心でため息をついた。


十九。


この時代では、決して遅くは………いや、むしろ遅いくらいだ。

妹たちはすでに嫁ぎ、あるいは婚約している。

順番で言えば、本来は自分が先だったはずだ。


(まぁ……仕方ないか。

でもさ!十九で行き遅れ扱いって、この時代早すぎん!?基準どうなってんの!?)


ほんの少し……いや、かなり納得がいかなかった。


「して……お相手は?」


「もうそろそろ来る頃かと。」


阿茶局が穏やかに答える。


(誰かな?)


茶々は、家康から貰った筆の木箱をぎゅっと握る。


(顔見知りだといいんだけど……。)


この時代、顔も知らぬ相手に嫁ぐのは珍しくない。


だからこそほんの少しだけ、不安だった。


「御免。」


短く告げる声。


その声を聞いた瞬間、茶々の思考が止まった。


(……え?)


聞き覚えがある。振り返らずとも分かる。


(ちょっと待って。いや、まさか。)


頭が上手く回らない……。


(……マジで?)


「おお、来たか。ささ、遠慮するな、此れへ。」


「はっ。」


男が、茶々の隣に腰を下ろしたので、ゆっくりと視線を向ける。


そこにいたのは……。


「……井伊様。」


井伊直政だった。


「すまんねぇ〜、井伊殿。」


「いいえ……。」


直政はどこかぎこちない。そして、顔がわずかに赤い。


茶々と目が合った瞬間、さらに赤くなりそっと逸らした。


(あ、これガチのやつだ。)


「一の姫。」


家康が口を開く。


「其方を儂と旭殿の養女とし、万千代の元へ嫁がせたい。」


「……へ?」


思わず、間の抜けた声が出た。


「どうしたの?不服?」


「い、いいえ!」


慌てて首を振る。


「突然のことで、驚いているだけです!」


(いやそりゃ驚くわよ!?

相手が井伊直政って何!?……レベル高すぎん!?え?いいの?こんなイケメン貰っちゃって!?)


貴女は嫁ぐ側ですよ。


直政は、隣で赤い顔をしたまま、じっと畳を見つめている。一切、茶々を見ない。


(いや、見なさいよ。……こっちが気まずいわ。)


「万千代、其方はどうじゃ?」


「……は、はい。」


直政が顔を上げる。一瞬だけ視線が合うが、またすぐ逸れる。


「一の姫様が良き、と仰られれば……。

某は……一の姫様を、妻に迎えとう存じます。」


言葉を選びながら、キッパリと告げた。


(……意外。)


もっと命令っぽいかと思っていた。だが違う。


(ちゃんと、自分の言葉だ。)


ふと、茶々の中で引っかかる。


(あれ?ちょっと待って。)


「殿、旭様。茶々が養女となり、井伊様へ嫁ぐ件――」


一拍。


「豊臣は、承知してござりましょうか?」


「ああ。」


家康が即答する。


「大政所様と北政所様には内諾を得ておる。」


(殿下は?)


言葉には出さない。

そこに、旭があっさり答えた。


「兄様のことでしょ?知らん知らん。」


(え。)


「母様と義姉上様がええ言うたんやから、ええわ。」


(いいの!?それで!?)


話は、あっという間に進んでいく。


「お茶々はどう?嫌なの?」


「嫌だなんてとんでもない!」


きっぱりと言う。


「良きご縁を整えていただきました。」


「じゃあ決まりやね。」


(決まるの早くない!?)


「あの、井伊様。」


「は、はい!」


ビクッとする直政。


「(……ちょっと、可愛い。)誠に、私で宜しいのですか?」


「はい。」


返事に迷いは一切ない。


「実は……一の姫様を是非にと、殿に直談判しました。」


(え。……うっそ!自分から!?)


「マジ?」


「……はい?」


「ごめんなさい、何でもないです。」


「お茶々。」


「はい!」


旭に呼ばれ、反射で返事する。


「私らは準備に取り掛かるから。」


「はい、ありがとうございます。」


「まぁまぁ、後は若い二人でぇ。」


ニヤニヤしながら、旭と阿茶局に部屋から追い出された。


廊下に出された二人の間には、長い沈黙。


(……気まず。)


茶々のやらかしは、小学生レベル(笑)

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