今度こそ、戦国を読み切る
そして……今回、五度目。
「やっと終わったと思ったのに……。
もう〜……何が正解なんだよぉ!」
茶々は拳を握り締め、ポコンと軽く殴る。
思い切り殴るなんて出来ない。だって、手が痛くなるじゃん。
茶々は畳をじっと見つめて、本日何度目かの溜め息を吐き、顔を上げる。
「……先ずは、私たちの……お初とお江の安全確保やな。これは最優先。」
茶々は気を取り直し、文机に向かう。
墨を磨って、紙を広げて筆を持つ。
月明かりを頼りに、紙に書いていく。
「一度目は、従兄の織田信雄様に保護された……。
二度目と四度目は、竜子姉様が迎えに来てくれた。
三度目は、秀吉に保護された。」
紙に書き終えて、腕を組む。
「信雄と秀吉………。却下、今世では関わりたくない。
此処に残るってのもアリだと思うけど……。それだと伯母上が危ない。」
う〜ん……と目瞑り、唸る。
「……あ。」
目を開いて、紙に目線を落とす。
「……竜子姉様は?」
紙に書いた『京極竜子』の名。
(姉様なら、信頼できる。……でも。)
そして、同時に理解する。
(秀吉の側室……。つまり、羽柴側の人間。)
茶々はゆっくりと目を閉じて、考えをまとめる。
(信用できるかは、別として……いや、姉様なら信用できる。
これまでの人生、あの人は誰よりも私たちを気に掛けてくれた。)
目を開けて決意する。
「姉様を頼ろう。もう手段なんて選んでられへんもん。
お初とお江を守らないと……。今度こそ何が何でも生き残る。」
その時、見久尼がそっと声を掛けてきた。
「お茶々、今ええか?」
「あ、少しお待ちを……。」
茶々は紙をグシャリと丸め、火鉢に突っ込んだ。
(後で燃やそう。これ残しとくとマズイ。)
茶々は紙が火鉢の灰に埋もれているのを確認してから、障子戸を開けて、見久尼を中へ入れる。
「実はな……。竜子から知らせがあったん。」
「……姉様からですか?」
「ええ。もし、其方らがここに来たら、知らせてほしい、迎えに行くと。」
茶々は目を瞬かせた。
沈黙が流れたが、やがて小さく息を吐く。
「……竜子姉様を、頼ろうか思います。」
静かにそう告げた。
「頼れる実家はもうない。そんな我らに、姉様が手を差し伸べてくださっているのなら……。
ですが、私一人では決められぬので、明日の朝に、お初とお江に私から話します。」
見久尼は静かに頷いた。
そして、翌朝。
茶々は、お初とお江を呼び出し、竜子の元へ行こうかという話をした。
二人とも、当然戸惑っていた。
しかし、お初は同意した。
理由は、茶々と同じだ。
生きていく為なら、致し方ない。
お江は嫌がっていたが、それでも『茶々とお初と一緒なら。』と同意してくれた。
そして、見久尼に頼んで竜子に連絡を取ってもらい、一週間後に竜子本人が迎えに来た。
竜子は、三姉妹の無事をその目で確認すると、駆け寄ってきて、三人まとめて抱き締めた。
「ああ……無事でよかった!」
「姉様……。」
「北ノ庄城が落ちたと報せを受けた時は生きた心地がせなんだわ!
……もう何も案ずることはない。これからは、私の元で暮らしなさい。」
「はい、姉様。」
見久尼に見送られ、三姉妹は竜子に連れられ、まずは長浜へと向かった。
(一先ずは、目先の問題はクリアやな。
後は、秀吉……。はぁ……上手くできるかな?)
茶々の胸の内に不安が宿る。
でも――
(今度こそ……。もう歴史の流れとか、んなもん知らん!
今度は、詰みを読み切ったる……!)
今度こそ、間違えない。




