転生先が詰んでる
(これから……どうするべきなんだろ……。)
北ノ庄城を脱出した三姉妹は、残党狩りを掻い潜り、父方の伯母である実宰院の庵主・昌安見久尼の元へ難を逃れた。
母のお市が事前に知らせていたようで、見久尼は命かながら逃げて来た姪たちを温かく迎え入れてくれた。
見久尼が用意してくれた部屋に入り、茶々はようやく息を吐く。
「姉上、誠に大事ございませぬか?」
末妹のお江が心配そうに顔を覗き込む。
「ええ、大丈夫よ。ごめんね……。」
茶々は優しくお江の頭を撫でた。
「……お初、お江。もう休みなさい。今後のことは……明日考えましょう。」
「はい。ほら、お江。行くよ。」
「初姉様、江は姉上のお側におりとうございます。」
「……お江。いまは一人にしてくれないかな?これでも、私も混乱してるのよ……。」
「でもぉ……。」
「大丈夫よ。ほら、もう行きなさい。」
「……はい。」
まだ不服そうな顔をしているお江はお初と共に部屋を出た。
ようやく一人になった茶々は、盛大に溜め息を吐き、思わず愚痴が溢れる。
「はぁぁぁぁぁ………。またかい。なんでやねん、もうええやろ……。私、頑張ってたやん。何回やらすつもりなん?」
まず、"私"について説明しておこう。
"私"は平成から令和の時代を生きた現代人だ。
家と会社の往復、推し活に勤しむ、どこにでもいるヲタクなアラサーOLだ。
そんな私が……。
どういう訳か、『日本三大悪女』と貶されまくっている、淀殿こと浅井茶々に転生した。
一度目は抗う暇もなく、歴史の波に飲まれた。
そして、最期は息子の秀頼と共に大坂城を枕にして死んだ。
二度目は……。
流れは知ってる!だったら、今度は生き残る!とフラグをへし折りまくった……。
すると、秀吉にうっかり気に入られ、寧々の肝入りもあり、秀次の継室として嫁いだ。
側室同士のいざこざを宥めたり、今ひとつ頼りない夫に発破をかけ、豊臣家中で地位を確立させた。
秀次との間に娘も生まれ、慌ただしくも穏やかな日々だった。
だけど……秀次失脚のフラグはへし折る事ができなかった。
秀次粛清の煽りを受け、茶々は六条河原の露と消えた……。
三度目……。
燃える北ノ庄城、泣き震えて茶々にしがみ付くお初とお江の姿を確認して、天を仰いだ。
『またかい……。また帰ってきた……。』
父方従姉である京極竜子が三姉妹の後見となり、大坂城で暮らしている時に、"私"は茶々本人の記憶を垣間見た。
茶々は争いを好まぬ、ただ静かに暮らしたいと願う、野心とは無縁な人だった。
しかし、時代がそれを許してくれるはずがなかった。
茶々は妹たちの為、豊臣家の為と己の感情を無視して必死に生きた。
「今度は大人しくしよ……。」
そう決心した"私"は、お初とお江を無事に嫁がせた後、秀吉正室である寧々と竜子の側で極力大人しくしていた。
だが、またしても時代は茶々を巻き込んだ。
九州平定後、茶々は秀吉の養女として島津家へ嫁いだ。
薩摩での生活に慣れるまで苦労したが、それでも政治とは無縁の穏やかな生活。
初めて心から安らげた。
しかし……。
時代はどこまでも茶々に容赦なかった。
秀吉亡き後、徳川家康と石田三成の対立。
会津討伐、そして三成の挙兵、人質政策。
大坂城下に居た茶々は、登城を拒否。子供たちと侍女たちを逃がしてから、屋敷に火を放って自害した。
そして、四度目。
茶々は膝から崩れ落ちた。
「もういい加減にしろ!」と心の中で叫んだ。
どうでも良くなった茶々は、抗うのをやめた。
だが、お初とお江の安全確保は絶対に忘れなかった。
二人を嫁がせた後、秀吉に望まれて側室になった。
子供にも恵まれ、寧々や竜子に守られながら過ごした。
そして、ふと思い付く。
「……そもそもの原因を取り除けば良くない?
関ヶ原の回避は流石に無理やけど、福島正則たちと石田三成の対立をどうにか出来ないかな?」
茶々は寧々と協力して、朝鮮の役での処遇に付いて、対立を深めていた三成たちを集めて話し合いをさせた。
「おみゃあは昔っから頭が固いんだんわぁ!!」
「お前が猪みたいに直ぐに突っ込んで行くからや!後処理、誰がする思うてんねん!!」
「武功を上げてなにが悪いんやぁ!!」
「悪い言うてへん!考えろ言うてんねん!こんの!馬鹿松!!」
「誰が馬鹿やぁぁ!!」
「お前やぁぁーー!!」
すると、加藤清正と黒田長政が頷く。
「……だな。此奴は馬鹿だわ。」
「そこは佐吉が正しいわ。」
「おみゃあたちは、どっちの味方なんやぁぁーー!!」
取り繕う余裕すらなくなったのか、全員訛り全開で喧嘩した。
時には取っ組み合いになったが、お互いに腹を割って話したからこそ、なんとか内部分裂を免れた。
『豊臣家の為、秀頼様の為。』
その想いのもと、全員がどうにか踏み止まってくれた。
そして、運命の関ヶ原。
分裂を免れた西軍の圧倒的戦力と団結力を前に、東軍は敗北。
「歴史を、変えた!」
そう喜んだのも束の間……。本番は、ここからだった。
「……家康、どうするん?」
三成はボソッと呟く。
「切腹!」
「処刑!」
「島流し!」
「待て待て待てぇ!」
そう、戦後処理だ。
勝った!豊臣家残った!めでたし、めでたし。
……んな訳がない。現実はそんなに甘くない。
東軍の武将たちの処分、関東の仕置き、徳川家康に対する戦の責任追及、西軍の武将たちの恩賞、更に朝鮮や明との和睦交渉、南蛮の交易……。
「勝った後の方がしんどいなんて……皮肉やな。」
茶々は書状をしたためながらボヤく。
「少し……休むわ。」
「御方様?」
そのまま、バタッと倒れた。
「御方様!!」
「誰ぞ!医者を!」
「お茶々!しっかりしやぁ!!」
寧々が駆け寄り、茶々を抱き起こす。
「お茶々ぁぁ!!」
「母上ぇーー!!」
竜子、秀頼、侍女たちの声を遠くで聞きながら、茶々はゆっくりと目を閉じ……そして、二度と目覚めなかった。




