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人生五度目。浅井茶々は遂に開き直った〜今度こそ、生き残らせてもらいます!〜  作者: 奈羅
第二章 生き残りを賭けて〜徳川家で戦国サバイバル〜
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甘味は正義〜本多作左衛門は絆され、旭は覚悟を見せる〜

知らせを受けてから、十日後。


大政所が、駿河府中の城へ到着した。


久しぶりに会うその姿は、どこか白髪が増えたように見える。


(……白髪、増えてる。)


茶々は目を細めた。


(サルのせいで、ババ様の白髪増えてるじゃねぇか。……ちっ。禿げろ!!)


心の中で、大坂に向かって呪いを飛ばしておいた。


「旭、息災やったか〜?」


「母様……母様。」


輿から降りた大政所に、旭が駆け寄る。


抱き合う二人の姿は、年齢など関係ない、ただの母と娘だった。


(……やっぱり、母親は特別よね。)


「大政所様。大坂よりようお越しくだされました。

お疲れでしょう、どうぞごゆるりとお過ごしください。」


丁寧に挨拶した、その直後。


「アンタ誰ぇ?」


空気が凍結した。


直政たちはギョッとし、冷や汗を流す。

一方で、茶々たち大坂組はというと。


(あー……いつもの。)


とでも言いたげに、どこか懐かしそうに見守っていた。


「ははははは!徳川家康に御座る!貴女様の婿ですぞ!」


「おみゃあが婿殿か。」


じろり、と家康を見る。


「ええか?オラァのことは“おっかぁ”って呼びゃあ。」


「はい、おっか様。」


(強い。)


この城で一番強いの、たぶんこの人だわ。


翌日。


家康は、豊臣へ使いを出した。


「殿はいよいよ上洛ですね……。」


「そうですね……大事にならねば良いのですが……。」


旭は大政所を裏庭の畑へ案内した。


母娘水入らずにしてやろうと、茶々は阿茶局の手伝いに回る。


「一の姫様もご一緒されるかと思いましたよ。」


「そのつもりだったのですが……。」


少し考えてから、茶々は言う。


「……何となく、二人だけにした方が良い気がして。」


一拍。


「それと――阿茶局様に、相談したいことが。」


「私にですか?」


「はい。」


茶々は、まっすぐに言った。


「そろそろ、女房名が欲しいのです。」


「……え?」


阿茶局が目を瞬かせる。


「皆様、私を“浅井の姫”や“一の姫”とお呼びになるでしょう?」


「ええ……。」


「ですが私は、旭様の女房です。

いつまでも、その呼び方ではいけないと思いまして。」


阿茶局は少し考えから、静かに頷いた。


「殿が上洛から戻られた頃に、御前様と共に決めましょう。」


「ありがとうございます。」


それから程なくして、家康は重臣たちを伴い、大坂へ向けて出立した。


残された城で、旭は毎日仏壇に手を合わせていた。


「殿はきっと大事御座いませんよ。」


茶々が声を掛ける。


「酒井様や板倉様、それに平八郎様らもおられます。」


「そうは言うても……。」


旭の表情は晴れない。そこへ、仲が口を挟む。


「お茶々の言う通りだで、旭。

おみゃあはそんな心配せんでもええ。」


そう言って、いつもの笑みを向ける。


「婿殿が帰ってくるまで、のんびりしとれ〜。」


「……はい。」


だが、日に日に旭の元気はなくなっていった。


「何か、御前様の気が晴れるようなことを……。」


茶々と阿茶局は顔を見合わせる。


「ババ様は“放っとけ、そのうち元気になる”って仰ってますけど……。」


「……不安、なんでしょうね。」


同時に、ため息がこぼれる。


「……ん?」


茶々が顔を上げた。


「阿茶局様、何か聞こえませんか?」


「え?」


阿茶局はそっと耳を澄ましてみる。


「……あら、本当。」


微かに、外から音がする。


「何事でしょうか……。」


二人は顔を見合わせ、そのまま屋敷の外へ出た。


屋敷の外に出てみると、見慣れない光景が広がっている。

本多重次が、配下に命じて屋敷の周りに柴を積み上げている。


「……作左衛門様。何をなさっているのですか?」


「一の姫様。」


茶々が声を掛けると、重次は手を止め、軽く頭を下げた。


「いやぁ……御前様に、突然“屋敷の周りに柴を積み上げよ”と命じられまして。」


「旭様が?」


「はい。」


困ったように苦笑する。


「理由をお聞きしたのですが、“終わったら話す”と仰られて……某もさっぱりで。」


「そうですか……。」


茶々は一度、周囲の柴を見回した。


(……ああ。)


何となく、察しはつく。


(いや、ちゃんと旭様に確かめよう。)


「終わったら、声を掛けてください。」


茶々はにこりと笑う。


「茶と菓子を馳走しますので。」


「……かたじけない。」


部屋へ戻ると、阿茶局が眉をひそめた。


「御前様は、一体何をお考えなのでしょうか……。」


「誠に……柴を積ませるなど……。」


(正史では確か――)


茶々はふと思い出す。


(作左衛門様が館を囲んで、“何かあれば焼き討ちするぞ”って脅したやつよね……。)


一瞬、沈黙。


(……なるほどね。)


茶々は小さく頷いた。


「美也。」


侍女を呼び寄せる。


「作左衛門様たちが終わったら、こちらへ来ていただくわ。」


「はい。」


「茶と菓子を用意して。」


美也が目を瞬かせる。


「……何故、そのような?」


「作左衛門様も理由は知らないみたいでね。」


肩をすくめる。


「なら、せめて労いぐらいはしないと。」


「……かしこまりました。」


「茶は温めで。今日は少し暑いし。」


「はい。菓子は如何いたしましょう?」


茶々は少し考える。


「ビスカウト、まだ残ってたかしら?」


「昨日、一の姫様がお作りになられたものですね。十分ございます。」


「じゃあ、それと――」


少し顔を上げる。


「抹茶と小豆のカステラも出しましょうか。」


「はい。」


「あと……餅と小豆、残ってたわよね?」


「ええ。」


「……あんころ餅、作ろうかしら?何だか、食べたくなったわ。」


「でしたら、私もお手伝いします。」


茶々は、駿河に来てからも、時折お菓子を作っていた。


ある日、旭がぽつりとこぼした。


「お茶々のカステラが食べたい。」


その一言で、すべてが決まった。

阿茶局に頼み込み、台所を借りる。


そこからはもう、頼まれて作る、自分で食べたくなって作る、こっそり注文されて作る。

完全に、菓子職人である。


最近では、侍女たちや家臣の妻たちに作り方を教えるまでになっていた。


(前世の趣味がスイーツ作りでよかったわ……。)


しみじみ思う。


(オーブンないからどうなるかと思ったけど……まあ、何とかなるもんね。)


茶々は袖をまくって、鼻を鳴らす。


「さて……甘味は正義、よ。」


***


「作左衛門様、ご苦労様でした。」


「いやいや、何のこれしき!」


柴を積み終えた本多重次は、手拭いを首に掛けたままやって来た。

配下たちは、隣の部屋へと下がっていく。


「阿茶局様に、旭様をお連れするよう頼みました。」


茶々は湯呑みを差し出す。


「どうぞ。喉が渇いておられるでしょう?」


「いや……御前様がお越しになられてから――」


「旭様は何も言いませんよ〜。ほらほら。」


ぐい、と押し付けられ。

重次は観念したように湯呑みを受け取る。


「……では。」


一口啜る。


「はぁ〜……。」


空いた湯呑みに、すぐさま茶々が新しい茶を注ぐ。

そして、高杯を差し出すと、重次の視線が釘付けになる。


「これは……?」


「カステラです。」


にこり、と笑う。


「抹茶と小豆を混ぜて作りました。」


「一の姫様が……!?」


「はい。旭様のお気に入りです。」


指先で、ひとつひとつ示していく。


「こちらがビスカウト。こちらが、あんころ餅。

あんころ餅は、私の故郷・近江では、夏前に精を付けるために食べる風習があります。」


「ほう……。」


「召し上がる際は、その楊枝をお使いください。」


「美味しいですよ、お茶々の菓子は。」


声が重なった。


「遠慮せず、どうぞ。」


「御前様!」


振り向くと、旭が戻ってきていた。

重次が慌てて姿勢を正そうとするが、旭が手で制する。


「ええのええの、そのままで。」


ゆっくりと上座に腰掛けた。


「申し訳ないなぁ、本多殿。私の我儘で、あんなことさせてしもうて。」


「いえ!」


「さぁさぁ、遠慮せず。」


「はっ、頂戴いたします!」


「お茶々、私の分は?」


「もちろんございます。」


茶々はすぐに用意する。


「旭様、ババ様は?」


「眠い言うて、いま休んどるわ。」


「そうですか。(後で持っていこ。)」


「阿茶局様も、どうぞ。」


「では……遠慮なく。」


重次は、菓子を一つ口にして、目を見開いた。

次の一口は、ゆっくりと。味わうように。大事に。


(……分かりやす。)


茶々は心の中で頷く。


(甘いものの前では、強面のおっさんもこうなるのね。)


「……妻や倅にも、食べさせてやりたいものだ。」


ぽつりと漏れる。


「でしたら。今度、奥方とご子息を連れて来てください。」


「……よろしいのですか?」


「ええ。よろしければ、奥方に作り方をお教えします。」


「かたじけないっ!」


一息ついたところで、旭が静かに口を開いた。


「さて――何故、柴を積ませたか。話そうか。」


空気が変わり、茶々と重次、阿茶局が視線を向ける。


「……あれは、兄様への脅しよ。殿に何かあれば――」


一拍。


「母様道連れにして、屋敷に火を放って自害する。」


「御前様!」


阿茶局が思わず声を上げる。


「何も、そこまで……!」


「そこまでやらんと。相手は、あの豊臣秀吉や。」


「ならば!」


重次が身を乗り出す。


「その話、もし殿下の耳に入ったならば――

某が独断で行ったことといたします!」


「……そう、そこ。」


旭が頷くと、重次は一瞬言葉を失った。


「……はい?」


「どちらとも取れるでしょう?」


淡々と続ける。


「本多殿が、“殿に何かあれば、駿河御前と大政所を殺す”、と脅したとも。」


一拍。


「私が、"夫に何かあれば、母様道連れに自害する”、と脅したとも。」


「御前様……。」


「こんなこと、頼めるのは本多殿しかおらんと思って。……巻き込んで、ごめんなさい。」


「……御前様。」


重次が、低く言った。


「某を見縊ってもらっては困ります。

某は――徳川家の家臣、本多作左衛門重次に御座る。

御前様は、何も気になさることはございませぬ。」


胸を張る。


「すべて、この本多作左衛門にお任せを。」


旭は、静かに微笑んだ。


「……ありがとう。」


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