徳川重臣、開幕で撃沈
旭一行は、駿河・府中の城へ入った。
奥御殿へ通されると、そこにはすでに女たちが揃っていた。
阿茶局を筆頭に、家康の側室たち。
そして、その侍女たち。
簡単な挨拶と紹介が済む。
(阿茶局……それに於愛の方、お久の方……)
茶々は視線を伏せたまま、密かに観察する。
(側室方は……旭様に好意的ね。)
敵意はない。だが……。
(油断は禁物。)
侍女たちは、まだ読めない。
(様子見、かな?)
茶々は、気取られぬよう警戒を強めた。
「御前様、お疲れのところ申し訳ございません。」
阿茶局が一歩進み出る。
「これより、殿へのご挨拶でございます。」
「は、はい……。」
旭の顔が、わずかに強張る。
着替えを済ませ、阿茶局に導かれて本丸御殿へ向かう。
付き添いとして許されたのは、茶々のみ。於孝と萩乃は留守番だ。
(めっちゃ文句言ってたなぁ……。)
「疲れてるでしょう?休んでなさい。」
旭の一言で、強制終了である。
通された大広間。
上座には――徳川家康。
その左右に、十歳前後の少年が二人。さらに、ずらりと並ぶ重臣たち。
旭が姿を現した瞬間、空気が止まった。
(あー……。)
茶々は心の中でため息をつく。
(“関白の妹=ハゲネズミの妹”って認識だったんやろな。)
茶々は心の中で、くすりと笑う。
(こんな美人が来ると思ってなかった顔してるわ。)
正直、全員に鼻で笑ってやりたい。
(だけだ、我慢、我慢……。)
茶々は大人しく、旭の後ろに従う。
「……お茶々。……お茶々!」
「……っ、はい!」
旭の声に、はっと我に返る。
「どうしたの?ぼーっとして。ご挨拶なさい。」
「は、はい……!」
慌てて姿勢を正す。
「……御尊顔を拝し、恐悦至極に存じます……。」
――そこから先は、正直、よく覚えていない。ただ一つ、確かなこと。
(おっさん共、よう喋るなぁ……。)
重臣たちが、遠回しに旭へ難癖をつける。
(だったら、やり返すだけよ……。)
茶々も、同じく遠回しに応戦する。
そして、結果は……。
(顔真っ赤で草……。これだけで白飯三杯いけるわ!)
そこだけは、しっかり覚えていた。
そして気が付けば、奥御殿へ戻っていた。
「今日のお茶々は、えらくぼんやりしてるわね。」
旭がふっと笑う。
「於孝。お茶々も疲れてるやろうから、休ませてあげて。」
「はっ。」
「い、いえ!大事ございませ――」
言い終わる前に。
にっこり、と。
――有無を言わさぬ笑み。
(あ、これあかんやつや。)
そのまま、於孝に引きずられる。
気付けば、着替えさせられ、布団に放り込まれていた。
(早い早い早い!)
「北ノ庄の時も、こんな感じでしたねぇ。」
「……長浜で倒れた時だったかしら?」
「姫様。」
於孝が、静かに言う。
「御前様をお守りするのは立派です。」
一拍。
「ですが――姫様がお倒れになっては本末転倒です。」
布団を肩までかけられる。
「もう少し、ご自分を大切になさってください。」
「うう……面目ない……。」
「後は私どもにお任せを。御前様には、私や萩乃たちが付いております。」
「……」
「姫様は、安心してお休みください。」
茶々は、観念したように息を吐いた。
「……分かった。」
一拍。
「このまま戻ったら、旭様に投げ飛ばされそうだもの。」
「ふふ……。確かに。このまま戻れば……御前様が姫様を布団ごと投げ飛ばすやもしれませんね。」
於孝は静かに部屋を出た。
一人になった茶々は、天井を見つめる。
「……そういえば。」
大広間にて、やたらと目が合った若武者がいた。
「……すんげぇイケメンだったなぁ〜……。」
旭を見て、頬を赤く染めていた。
「旭様、綺麗だもん。照れるわよねぇ〜……。」
そして、布団を被り直す。
「……また、会えたらいいな。」




