関白秀吉、家族会議で敗北する
「アンタたち!騒がしいわねっ!!お茶々も居るのよっ!!」
寧々の一喝が部屋に響くと、清正と正則がガバッとその場に跪く。
「浅井の一の姫様っ!ご無礼つかまつった……!」
(いや反応早すぎん?)
茶々は内心でツッコむ。
「おっか様!至急、本丸御殿へ!」
「虎!だから“おっか様”じゃない!北政所様だ!」
「佐吉!今そんなこと言うとる場合かっ!!」
「そうだわ!紀之介の言う通りやで!」
「お前は黙っとれや!!」
――始まった。
清正&正則 vs 三成。吉継がその間に入る。
(……コイツら、五周目でも相変わらずだなぁ……。)
茶々はなんだか懐かしい気持ちで、四人を見守った。
「虎!市!佐吉!!」
ドン、と畳を踏み鳴らす。
「お黙りっっ!!うるさいっっ!!」
一瞬で、静まり返り、三人は見事に小さくなった。
(さっすが、寧々様……。)
茶々は気を取り直して、四人を見る。
「あのぉ……。」
茶々が恐る恐る声を掛けると、四人が茶々を見た。
「……何か、あったのですか?」
すると、吉継が一歩出た。
「……一の姫。行った方が早いかと。」
「殿下が……。」
清正が顔を上げる。
「ババ様と智様に、殺されるやもしれませぬ。」
「「はぁぁ!?」」
茶々と寧々の声が、綺麗に重なった。
そして、全員で本丸御殿まで全力移動である。
近づくにつれ、怒号、悲鳴、そして泣き声。
(……ああ〜、嫌な予感しかしない。)
そして、辿り着いた先で、茶々は………
言葉を失った。
庭の木に――――秀吉が縛り付けられていた。
(はぁ?え?なんで?)
「こんの、どあほぉぉぉおおおああああっっ!!」
「何考えとるんじゃああ!!」
仲、そして秀吉の姉・智が、全力で秀吉を殴っていた。完全にサンドバッグである。
「ちょっ!おっかぁ!姉やん!落ち着けってぇ!」
秀長が止めに入り、智の夫・三好吉房とその息子たちも必死だ。
廊下に蹲るようにして、旭が泣いていた。そして、その隣に座る阿古。
完全に目が死んでおり、ただ庭の騒動を眺めているだけだった。
(何これ?……カオスやん。)
茶々は庭で繰り広げられる死闘を眺めながら、ぼんやりと心の中でツッコむ。
「……阿古殿。」
静かに呼びかけると、ゆっくりと顔を向けてくる。
阿古が茶々を目にした瞬間に。
「うわぁぁぁ……お茶々様ぁぁぁ……!」
崩れるように泣き出した。
「ちょ、ちょっと……!」
茶々は慌てて駆け寄る。
「そんなに泣いたら目が溶けるって……!」
「うぇぇ……ち、ちち、うえがぁ……!」
「おじ様に何が?」
その問いに答えたのは、旭だった。
「……離縁、言われたんよ。」
静かな声だったが――震えている。
「兄様が……。」
一歩、言葉を絞り出す。
「五万石やるから、私と別れろって……。」
(……まさか。)
茶々の中で、確信が固まる。
「それで……?」
「あの人、聞き返したんよ。どういうことやって。」
旭は拳を握り、一拍。
「そしたら……私を、徳川に嫁がせるって。」
廊下の空気が、凍った。
「……は?」
茶々の口から、素で声が漏れる。
「そしたら、あの人……。」
旭の声が震える。
「……その場で……髷を……自分で切り落としたんよぉ……!」
そう言って、また泣き出した。
(武士が、自分で……?)
茶々は思わず、阿古の肩を掴む。
「……っ!」
「茶々様、痛いです……。」
「あ、ごめんなさい!」
慌てて手を離す。
(……おじ様……そこまでしたの?)
周囲を見ると、物陰から側室たちが様子を伺っている。
(出た、野次馬軍団。)
「阿古姉様!!」「旭様!!」
野次馬軍団を掻き分けて、お江が竜子と共に駆け寄ってくる。
「ど、どうしたのですか!?何か悲しいことでも――」
お江が慌てて声を上げる。
旭と阿古を前に、完全にオロオロしていた。
「大丈夫よ、お江。落ち着いて。」
竜子が肩を抱き、静かに宥める。
「……姉様、お江。」
茶々は静かに立ち上がった。
「旭様と阿古殿を、お願いします。」
短く言い残すと、そのまま人混みの中へ突っ込んだ。
(……まず、状況整理。)
野次馬の中から、萩乃を見つけたので、そのまま腕を掴み、人気のない場所へ引きずった。
「萩乃。」
「はい。」
「副田のおじ様は?」
「……それが。」
一瞬、言い淀む。
「最低限の荷だけ持ち、馬で城を出たと。」
(ああ……自分で出て行かれたのか……。)
茶々は目を閉じて、萩乃に静かに命じた。
「おじ様を探して。」
「……はい。」
「見つけたら、すぐ知らせて。」
「承知。」
萩乃は、そのまま駆けていった。
(よし。)
茶々は踵を返し、再び庭へ向かう。
「おっか〜!お智〜!持って来たでぇ!!」
聞こえた瞬間、嫌な予感が的中した。
現れたのは大筒を引いた男、蜂須賀小六正勝だった。
(あちゃ〜……最悪なの来ちゃった……。)
「すまんなぁ、小六!」
「このたわけ、木っ端微塵にしたってちょう!!」
「関白なったばっかやけど……しゃーないわ!
小六さ!私が許すで!派手にやってちょうよ!」
「おうよ!!」
完全に処刑モードである。
「おいぃぃ!!小六ぅぅぅーー!!」
縛られたままの秀吉が叫ぶ。
「儂の家臣やろが!?なんで母様と姉やんと寧々の言うこと聞いとるんじゃ!!」
「うるさいわぁ!!」
小六、完全にブチギレである。
「自分の妹と義弟、どう扱っとるんじゃ!たわけぇぇぇ!!」
「儂は旭の幸せを――」
「それでこれかぁ!?話ならんわぁぁぁーーーっっ!!」
怒号が叩きつけられる。
「おい!誰か火ぃ持って来い!!」
(いやもうガチやん。)
「小六ぅ!落ち着け!!」
「頼む!!小六さ!!落ち着いてちょうよぉぉーー!!」
秀長と吉房が必死に止め、正則と三成も小六にしがみつく。
「小六様ぁぁ!あかんってぇぇーー!!」
「今はやめて下さい!今は!!」
「市松ぅ!!佐吉ぃ!!止めるなぁぁ!!」
「「止めるわぁぁ!!」」
「ああーー!!うるさぁぁい!!
おみゃあたち、まとめて吹っ飛ばしたるわぁ!!」
完全にスイッチが入ってる。
(……あかん。)
茶々は一歩前へ出た。
「蜂須賀様。」
静かな声だが、はっきりと通るに、小六の手が止まる。
「……浅井の、一の姫様。」
茶々は、小六の両手を包み込むように手を添えた。
「お怒りは、ごもっともにございます。」
まず、肯定。
「ですが――」
ゆっくりと、視線を合わせる。
「先に、殿下と話をなされませ。」
一拍。
「煮るなり、焼くなり。皮を剥ぐなり。」
さらに一拍。
「大筒で吹き飛ばすなりは――」
茶々は笑みを濃くする。
「その後でも、遅くはございますまい。」
沈黙。
(言い方。)
(えげつな。)
(怖っ。)
周囲がドン引きする中――
「…………。」
小六は、しばらく茶々を見つめていた。
「……分かった。」
小六がようやく大筒から手を離す。
「止めたーーーーー!!!」
その場に鉢合わせた武将たち全員が叫んだ。
(浅井の一の姫……只者じゃない……。)
(この姫さん、凄っ!)
(これ、佐吉たちの喧嘩の仲裁役に使えるんちゃうか……?)
若武者たちの評価が、一気に跳ね上がる。
「ありがとうございます。」
茶々は一礼し、ゆっくりと振り返る。
「仲様、智様、北政所様。」
にこりと笑って。
「"殺る"のは、後にいたしましょう。」
「……。」
「……。」
「……。」
「加藤殿と大谷殿は、殿下の手当てを。」
「「はっ!!」」
ようやく、秀吉救出作戦が開始された。
(……さて。)
茶々は、静かに目を細める。
(ここからが、本番ね。)




