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第十四話 葡萄畑と笑い声

ある日の夕方。ブルゴーニュ地方、ニュイ=サン=ジョルジュの古びた修道院のワイン蔵。

木樽が並び、蔵の空気にはアルコールが混じり、甘い発酵の匂いが漂っていた。

酒に弱い人間ならここの空気を吸っただけで酔ってしまうかもしれない。


相変わらずモンゴル軍兵士のブカは、既に腰を下ろし、当然の顔で杯を掴んでいた。

ここしばらく戦いは起こらず、兵士が戦功を立てることも無く、ブカはアルバン(10人隊長)のままだ。

戦ばかりの人生だったブカは、こののどかな日々を心地良く感じるようになっていた。



「それはまだ新酒だぞ」馴染みの老修道士のギベールが渋い顔をする

「飲めば同じだ」牡牛のようにゴツいブカは美味そうにワインをあおる

「同じではない」

「飲んで酔う。同じだ」


この議論は毎年繰り返され、何も進展しない。

ブカは杯を満たし、豪快に流し込んだ。


「赤いワインを飲むと舌が黒くなる。馬乳酒はいいぞ」

「そう言いながらワインを呑みに来る」

「酒は良いな。三杯で聖人になれる」

「まぁ、お前さんは、怒鳴ったり、喧嘩を始めたり、泣き出したりするような、悪い酒飲みではないから良いか。聖人には遠いが」


ブカは喉を鳴らして笑った。

ギベールは樽にもたれ、その様子を優しい眼差しで眺めていた。


「結局、私はこの世界に慣れてしまったな」ギベールは眉尻を下げて笑った

「慣れた?」ブカはワインの杯を持つ手を止めた

ギベールは吐き出すように言った。

「そうだ慣れてしまった」

「生きている証拠だ」ブカは拳をグッと握ってニヤリと笑う

「まったく、その通りだ。しかし私は自分に問うのはやめないぞ」

「問うのをやめない?」

「そう、自分はこれでいいのか?という問いだ」

「それは大事だな。それを忘れると戦で負ける。坊さんは良い隊長になれるぞ」

「ふふふ」

「いやいやいや、それはやはり無理だろう、坊さんのその体力では。筋肉が足りない」

「ふん、文字を書く筋肉は異常発達しているぞ」

「フハハ」「ふっふっふ」


二人の笑い声が、修道院の垣根を抜け、葡萄畑のなだらかな斜面に広がっていった。



ーーー完ーーー

次ページに略年表と修道士ギベールの事績を加えます。

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