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第三章:波を越えてきた守護神


「おばあちゃん、中国の裸足の戦士は、どうやって日本に来たの? 泳いできたのかな?」


陽菜の無邪気な質問に、嘉代子はふふっと声を立てて笑った。


「そうね、半分は当たりかもしれないよ。妙見さまはね、今から千三百年以上も昔、大きな船に乗って海を渡ってきた人々――『渡来人とらいじん』たちが日本に連れてきてくれたんだよ」


嘉代子は縁側の柱に寄りかかり、遠く千葉の街の方角を眺めた。


「この千葉の土地はね、妙見さまととっても縁が深いんだ。今日は少し、お侍さんたちの格好いいお話もしようかね」



第三章:波を越えてきた守護神



日本にやってきた妙見さまは、最初は渡来人たちのコミュニティで大切にされていたけれど、平安時代の終わりごろから、特にお侍さんたち……『武士』の間で爆発的に信仰されるようになったんだ。


中でも有名なのが、この土地を治めていた『千葉ちば氏』という一族だよ。


彼らはね、妙見さまを単なる神様じゃなくて、『自分たち一族のご先祖さまを守ってくれた英雄』として、一番大切に崇めたんだ 。


「お侍さんは、どうして星の神様が好きだったの? 強いから?」


「それもあるけれど、もっと切実な理由があったんだよ。陽菜、あの北斗七星の端っこにある星を見てごらん。あそこは『破軍星はぐんせい』と呼ばれていてね」


嘉代子は夜空にひしゃくの形を描いた。


「お侍さんたちはね、『あの星に向かって戦えば必ず勝ち、背を向けて逃げれば必ず負ける』と信じていたんだ。命懸けの戦場では、迷いは死に繋がる。

だからこそ、空に輝く不動の妙見さまを、絶対に裏切らない『軍神いくさがみ』として心の支えにしたんだね」

当時の妙見さまは、まだ中国の真武大帝の影響が強くて、剣を持った勇ましい姿をしていたんだよ。でもね、日本という国で何百年も愛されているうちに、妙見さまの姿は少しずつ『日本らしく』変わっていったんだ。


「どう変わったの?」


「それが面白いんだよ。あんなに怖かった武士の姿が、いつの間にか、可愛らしい子供の姿――『童子どうじ』の姿で描かれるようになったんだ。ふっくらした顔で、綺麗な着物を着てね」


「えーっ! 裸足の戦士が子供になっちゃったの?」


「そう。でも、ただの子供じゃないよ。足元を見てごらん……そこには、中国から一緒にやってきた、あの『亀』がしっかりと妙見さまを背負っているんだ。亀の上に立って、右手には宝剣を持ち、すべてを見通す眼で見守ってくれる……そんな日本独自の、優しくて力強い姿になったんだね」


武士たちは、戦いの時には勇ましい軍神として。そして普段の生活では、水や農業を守ってくれる優しい神様として、妙見さまを『妙見さん』と呼んで親しんできたんだよ 。


嘉代子は少し寂しそうに、夜空にたなびく薄い雲を見つめた。


「でもね、陽菜。そんな風に千年以上もみんなに愛されてきた妙見さまに、とても大きな試練が訪れるんだ。それは、私たちが住むこの日本が『新しく生まれ変わろう』とした、明治時代の初めのことだったんだよ」


陽菜はおばあちゃんの膝をぎゅっと握った。


神様が経験した『試練』という言葉に、少しだけ胸がざわついたのだ。



(第三章 完)



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