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人は千年、宙は万年

「空が落ちてきた時からイザナミとイザナギは止まってる。これ、空の上からイザナミとイザナギを動かしてたから、って考えれば、筋が通るよな。憶測だけど」

 憶測に憶測を重ねた結果だけれど、そう考えれば色々と、こう、言葉にできない何かがしっくりくるような気がする。

 私達は自分たちの意思とは関係なく生まれ、生きて、死ぬ。

 何の為でも無く、何を残すでも無く。2000年間ずっと、同じことを繰り返して。

「不思議だね。彼らは私達がそういうことを思うって、思わなかったんだろうか。憶測だけど」

 空の上の人達は、なんの意図でこんなことをしているんだろうか。

 私達が気づかずに滅亡の危機を脱して喜んで、これからも生きていくんだと思ったんだろうか。

「それも含めて、俺はこう考えるね。空の上の人達は、何らかの手段で俺達の様子を見てるんじゃないか?憶測だけど」

 余りにも無為な営みは私たちの為にあったのではない、と。

 それならば、私達の2000年間に理由がつく。

 あまりにも何も無かった、何も動かなかった2000年間。

 それは私達が生まれようと思わないのに生まれ、生きようと思わないのに生きて、続けようと思わないのに続けてきたもの。空の上の人達の為の2000年間。

 私達の為ではなく、私の為では尚更なく。

「やってられないね、憶測とはいえ」

「実にその通りだ。憶測とはいえ」

 そこでカップが2つ運ばれてきたので会話が途切れる。

 ふわりと湯気を立てるカップに口をつければ、冴えた苦みと香りが広がった。

「……あれ、砂糖入れないんだっけ」

 彼の疑問に答える前に、彼のカップに私の分の角砂糖を放り込んだ。

「あ、ちょ」

「苦手な物無理して飲んでた方がストレスで禿げるよきっと」

 そう言えば彼はあっさりと、「それもそうだな」と納得して、彼の分の角砂糖もカップに落としてスプーンで混ぜ始めた。

 それを一口飲んで満足げな顔をするのだから、多分こいつの毛根は相当しぶといんじゃないかな、なんて思ってみたりする。


「憶測とはいえ、裏付けはあるんだな。俺達は他の生物とは違う生まれ方をする。イザナミとイザナギから生まれるだけ、自分たちの能力で繁殖しないのが俺達だよな。けど、これ、人類がずっとそうだったはずはない。イザナミとイザナギができる前の人類は自力で繁殖してたはずだし」

 珈琲もそこそこに、元の話に戻った。

「空の上にオーパーツがあったことは事実だしな。だとしたら空の上に人が居た、って考えるのは割と妥当じゃないかと思う。で、その人たちがそこから旅立った、っていうのも、絶滅した、ってよりは納得がいく。そして、俺達は多分、彼らによって作られていた存在だ。ここまでの仮定はオーケイ?」

「オーケイ」

 全部憶測にすぎないけれど、点と点を繋いでいったものにしては出来がいい。

 それに、色々となんというかこう、しっくりきたのだ。だから、とりあえずそれに乗る。

「そこで俺は考えてしまった。さて、ここまで考えたうえで、まだ俺達は生きていたいんでしょうか?」


 私達が生まれて、生きて、続けてきた事は私達の為じゃない、と分かってしまった……というか、その可能性に思い当たってしまった。そしてそれに納得してしまった。

 だとしたら……今、目の前にあるこの機械を……。

「この機械、多分、このコードの部分をさ、複数人分の血とか、それに近い物が入ってる水槽とかに入れておいて、それでこっちの機械からその情報送ってイザナミとイザナギ動かして、ってやってたんじゃないかと思う。それも、これだけじゃなくて、複数台で」

 そして、その情報から生まれたのが私達人類なのだろう。

 もう私はその憶測を疑ってなんていなかった。

「……この機械、私達が隠しておいたらどうなるの」

「人類は滅亡する」

「発表したら」

「人類は生きながらえる、かも」

 ……頭が痛い。

 空の上の人達よ、何故私と彼にこのような試練をお与えになったのですか、なんて。

「……うん、俺もこれ悩んでてさ。折角だし一緒に悩んでもらおうと思って」

 一緒に悩んで、って。

 ……違うな。きっと違う。

 一緒に面倒くさがって欲しがっただけでしょう?きっと。

「……ええと、辞書、調べててさ。ほら、空の向こう側に夜に見える光、あるだろ。あれ、星、っていうんだってさ」

 私が何も言わないのを、悩んでるからだと思ったらしい彼が、話題を継ぎ足した。

「星」

「そ、星。あの光の粒さ、一つ一つが星で、その星って、一つ一つが滅茶苦茶でかいんだよ。それこそ、人類全員が移住してもまだ余る位にでかいらしい。滅茶苦茶遠くに浮かんでるから、小さく見えてるだけなんだってさ」

 私達が2000年間ずっと知らなくて、そして5年前に初めて見て、ずっと理解できなかった事が、たった1つのオーパーツには全て記されていたらしい。

「それがアマテラスに照らされて光って……ええと、アマテラスも星の1つで、オーパーツとかじゃなくて……空の上の人達が生まれる前からああやって浮いてた、らしい」

「なにそれ」

 私達を作った人たちが生まれる前に既にあったもの。

 じゃあ、アマテラスを作ったのは誰だったんだろう。

 ……その人が、空の上に居た人達を作ったんだろうか。それとも、もっと別の……やめよう。考えてたって埒が明かないし。

「俺は、空の上の人達はその星のどれかに移り住んだんだと思ってる」

「滅茶苦茶遠いのに?」

「それぐらいできる技術はあるだろ、多分」

 それもそうか。

 空の上に居た人達なら、何をやったって不思議じゃない。

「……空の向こう側の、さらに向こう側では、空の上に居た人達がまだどこかで生きてる、んだよね、きっと」

「そうだろうなあ」

 窓の外を眺めると、青い色が広がっているのが見える。あの、さらに向こうに、彼らは居るんだろう。

「私や君が死んでも、まだ生きてるよね」

「そうだろうなあ」

 もう死んでる、とかだったら、それはそれで皮肉だけれど、多分そうじゃないような気がする。

「どのぐらい生きるんだろう」

「あと一万年ぐらいは生きるんじゃないか?」

 一万年。人類が過ごしてきた2000年間の、5倍だ。気が遠くなりそう。

 ……もしかしたら、空の上の人たちにとっては一万年程度、別にどうって事の無い時間なのかもしれないけれど。

「それでも私達を監視してるの?」

「かもしれないし、もう飽きて放り出したのかもな。この機械とか辞書とかは、ほら、捨て猫捨てるときにダンボールの下に毛布敷いてやる感覚でさ」

 なんにせよ、そこに私達の意思は無いのだ。それは確かだ。




「1つ、聞いていい?」

「どうぞ」

 空になったカップを手で弄びながら、頭の中身を言葉にして出力しようと試みる。

「私、このまま人類が年取って死んで、人類が全員死ぬ時のデメリットが思いつかないんだけれど」

 もともと私達は、何かを残すでも無く、何かを作るでも無く、ただ生まれて消えていくだけだったのだ。それが消えっぱなしになった所で、何が問題なんだろう。

「うーん……それ、俺も考えたんだけど……多分、最後に残された人が、さびしい」

「でもそれは私でも君でも無い」

「そうなんだよなあ。けど、多分、さびしい思いをする人は居る訳だ。俺達、人の立場に立って物事を考える、ってことがなまじできちゃうからなあ」

 ……嫌だな。こうやって人類は今まで続いてきたのかもしれない。

「じゃあいっそ、全員同時に死んじゃえば?」

「もっと生きて美味いもの食いたい、って人が文句言うと思う。あと多分、人類は俺とお前みたいな人ばっかじゃない」

 マイナスを削ろうとするとプラスまで削れてしまうのだ。しかも、人によってそれがプラスかマイナスかは微妙に違うんだろう。

 だからきっと、この機械を発表して公にして、人類全員で決めよう、なんてやったら、絶対に人類は人類を存続させようとする。

「でも、決定権は俺とお前にある」

 そうだね。

 そして幸か不幸か、私も彼も結論なんてとっくに、5年前から出てるんだろう。きっと。

「とりあえず、もう一杯珈琲飲みたい。アップルパイも頼もうかな」

 メニューを見て、ガトーショコラと迷ったけれど、やっぱりアップルパイにしよう、と決めた。

「それから……もっと、変な話、聞かせて。私も変な話には事欠かないから。それから、いつも通り食事でもどう?その前に公園か何か挟んでもいいけど」

 彼が、にやり、と笑う。

 けれどその笑みはどこか昏くて、その目はここじゃない、ずっと先の何時かを見ているんだろう。

 きっと私も同じような顔をしているに違いない。

「それから……私は帰って、眠って、明日が来て、いつも通り過ごして、何年もそうやって、繰り返して、それで、死ぬ。それで終わり。それが私の今後の予定」

 人類を救いも、人類を滅ぼしもしない。

 ただ、もう延々と、意味も価値も無い事を続けるのはやめたい。それだけ。

「予定、だから、途中で変わるかもしれないけれど、今の私が考えた、これから先の私の予定は、以上で」

 そう言って、今までずっと意味も無く手に持っていた空のカップをソーサーに戻す。

 かちん、と、硬く澄んだ音が小さく響いた。

「俺も同じだな。……あ、でも、時々お前と駄弁る、っていう予定があるのが相違点で」

「それ、私も追加ね。わざと言ってるでしょう。……すみません、珈琲のおかわりと、アップルパイ1つお願いします」

 彼を一睨みしてから通りがかったウェイトレスを呼び止めてオーダーすると、彼が慌てて、俺も珈琲と、あとガトーショコラ1つ、と継ぎ足す。

「……さて。この後の食事はファミレスでいいよな」

 彼が、テーブルの上に出ていた機械を鞄に戻しながら、確認してくる。

 そうだね。私達が駄弁るのにはあそこが一番丁度いい。

 肯定しながら、5年経っても変わり映えしない事を、少しだけ嬉しく思った。

 そして、これがあと数十年続くことを少しだけ願った。

 そして最後に、数十年後、これがきちんと終わる事に、大いに安堵した。



後書き等は活動報告をご覧ください。

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