まずやることは……
結婚式が終わって一日が経った。
結婚式会場を出たあとは、それはそれは大変でした。
だって、馬車の一つもないんだもの。
そう、ジェラールは勝手に一人で帰ったのだ。お父様たちはまだ残っていたようだけど、帰り道は反対方向。
頼めば送ってくれるのは分かっていたけれど、馬車代をジェラールに請求しないと気が済まなかった私は、モニカに頼んで馬車を探してもらった。
しかも大変だったのはそれだけじゃない……。
これは今も絶賛継続中だけれど、公爵邸に着いても誰一人出てこないのだ。
まぁ、メイドは必要ないとこちらから言ったわけだから、百歩譲って仕方ないとしよう。
ただ、一応ここの主人になるのだから、挨拶くらいは来るものでしょう。
離れに住むようにすると言うくらいなんだから、人が住めるような所だと想像していたんだけど、着いてみたらびっくり!!
離れとは言えないボロボロの小屋だったわけです……。
これにはモニカも大激怒。
これもこの家の人たちが好き好んでやっているようなので、あえてこのままここに住むことにしました。
この仕打ちについても後で精算させていただきたいと思います。
「住めば都なんて言葉があるけれど、住めば都になるかしらね……」
「さすがにそれは難しいと思いますよ。至る所に穴が空いていますし、掃除もしていないのでしょう。蜘蛛の巣も張っていますし……本当に最悪です。」
見たこともないジェラールの恋人のために結婚したのだから、掃除くらいしておいてくれてもバチは当たらないと思うのだけど……。
どんな人なのか、あとで顔を拝みに行ってやりたいと思います。
「何か言っても始まらないわ。取りあえず掃除しましょう。ここに住むわけだし、少しだけ修理もした方がいいわね。外側はそのままで内装だけ変えて、バレないようにしましょう。」
なるべく住居は早めに変えた方がいい。そろそろ寒い季節になってもくるし……今日一日過ごすだけでもやっとだった……。
今回の出来事を含め、モニカには手紙を実家に持っていってもらうことにした。
「あと、これからのことだけど……」
できればジェラールの相手の女と、クリスティーナの相手の男を調べておきたいし、昨日結婚式会場にいた貴族たちのことも調べておきたい。
見たところ、貴族全員が来ているという雰囲気ではなかったもの。
恐らく……二人の知人だけが来場していた……つまり、初めからグルだった可能性が高いのではないかと思う。
「商会も今まで通り閉めずに営業していきたいところなのよね。情報収集もできるし、金貨ちゃんたちに会えるのだもの。こればかりはやめられないわ……そのためにも……モニカにお願いがあるのだけど、ナニカを呼んでもらえないかしら?」
「ナニカをですか?」
ナニカとはモニカの双子の妹だ。ナニカもファレノプシス家で侍女をやっている。
双子ということもあって顔も似ているし、入れ替わっても気づかれないだろう。
「そう……モニカにはやってもらいたいことがあって、その間ナニカにはモニカと入れ替わってもらいたいのよ。」
ここまで話すと、モニカも理解したようだ。
「分かりました。ナニカを連れてまいります。それでお嬢様は何をされるのですか……?」
「フフフ……これを見てちょうだい……。先日、王都の自店舗を視察に行ったときにいいものを見つけたのよ。」
遡ること三日前。
王都にある自分のお店の売り上げや店員の接客、今の流行を知るために視察に行くと、あるものを配っている人たちがいた。
それは……。
メイド募集のチラシである!
「メイド募集ですか!? この時期に珍しいですね。」
「そうなの……でね、外で配っていたから出店をしているおじ様たちに話を聞いてみたら……これが初めてではないらしいのよ。」
おじ様たちも噂程度しか知らないようだが、メイドを募集してもすぐ辞めてしまう人が多いらしい。
以前メイドをしていたという人に会ったそうなのだが、一週間と経たずにクビになったそうだ。
「きっと本邸で何かがあるのね……一週間でクビってなかなかないじゃない……。それに、入っても三日経たずに辞めてしまう人もいるみたいなのよ……」
配っているチラシをもらって内容を見ていると、募集内容や仕事内容も他と変わらなかった。一か所を除いて……。
「あとね、ここをよく見てみて?」
私が指を指すと、モニカがチラシをのぞき込んでくる。
「子猫のお世話。子猫がなつけば給金アップ……ですか?」
「そう! 昨日のジェラールの会話を思い出してみてほしいの。あの人……『僕のかわいい子猫ちゃん……』って言っていたでしょ? きっとこの子猫ちゃんは恋人のことだと思うのよね。」
恐らくその子猫に気に入られればクビになることはなし。耐えられれば給金がアップするのだろう。
「なるほど……それで昨日はベールを外すことができないと言って顔を隠していたのですね。よくあんな嘘を信じるなと思っていましたけど……」
「そういうこと! この後早速、少し変装をしてからメイドの面接に行ってこようと思うの。だからここのことはモニカにお願いしてもいいかしら?」
メイドの仕事は一通り覚えている。これも仕事の幅を広げるためだ。伯爵令嬢という立場であれば、これから結婚されるであろうティグレッド王太子殿下のお相手。王太子妃の侍女になる可能性だってある。
何かあったときのために色々覚えておくことは悪いことではない。
「そうおっしゃると思っていましたよ……どうせ止めても無駄なんですよね……。嫌な予感がしますし、無理だけはしないでくださいよ? 私はナニカに手紙を出し、早急に来てもらうようにいたします。ナニカが到着しましたら大至急動いていきますので、お嬢様は本邸の方に集中していただいて大丈夫です。」
「ありがとう。それじゃあ早速行ってくるわね!」
「はい、お気をつけて!」
こうして私はメイドの面接に、モニカはナニカを呼ぶために動き出した。




