マーガレットはメイドになる。
「さぁ、行きましょうか……」
襟と袖部分が白く、黒を基調とした膝下のワンピース。
ブラウンのウィッグを被り、頬にソバカスを描く。そして大きめなメガネをかければ完成だ。
裏側の扉から離れを出て、屋敷の外に一度出ると、再度表から屋敷に向かった。
この辺りは昨日のうちに調査済みである。
屋敷は木や草で囲まれているため、そこを上手く通れば離れから誰にも見つからず行き来が可能だ。
門の前に立っている衛兵に声をかける。
「あ、あ、あのぉ……す、すすすすみません……メイドのめ、めめめ面接に来ましたぁ。よ、よよろしくおねがいします。」
一応、田舎から出てきたばかりという設定だ。弟たちを養うために王都に出てきたミアという少女だ。
「ふん。お前のようなやつ面接にすら通らないだろうが、精々頑張れよ。」
少しぶっきらぼうな言い方だが、悪い人ではなさそうだ。門扉を開けてくれたので中に入った。
中に入ってみると、庭は大きいのに枯れている花が多い。庭の中央にも噴水らしき物もあるが……水も出ておらず、枯葉や枯花が溜まっていた。庭にもたくさんの枯葉が落ちていて、掃除もされていないようだ。
「庭師もメイドもいないようね……一体この家はどうなっているのかしら……」
まるで幽霊屋敷のようで、なんだか寒気がしてくる。
恐る恐る扉を開けると……離れまでの酷さはないものの、全く掃除されてはいない状態だった。
「ご、ご、ごめんくださぁぁいぃ、メイド募集のチラシを見て参りましたぁぁ。ど、どどなたかい、いいいらっしゃいませんでしょうかぁぁ……」
エントランスで声をかけても誰も来ない。普通であれば執事長とか、家令、メイド長とかが来ると思うのだけど……ここでずっと待っていればいいのだろうか。
それからエントランスで待ち始めて二十分後……。
一向に誰も現れる気配がないため、人がいそうな方向に向けて歩き始めた。
「ご、ご、ごめんくださぁぁい。誰かいませんかぁ……」
廊下を歩きながら声をかけていく。
ここまで声をかけても誰も出てこないということは……本当に誰もいないのだろうか……。
もしかして逃げた……とか……?
いやいやいや、さっき門兵さんがいたし、もし誰もいなければ入っていいとはならないだろう。
もう少し先に進んでみると、一つの部屋から話し声が聞こえてきたので、こっそりと扉を開けて中を覗いてみた。
「全くぅ……本当に甘えん坊なんだからぁぁ」
「ママァァ……ジェラールきのうがんばったんだよぉ。もっとほめてよぉ」
「はいはい……いい子ねぇ。ジェラールは。今日はゆっくりしましょうねぇ。」
そこには……膝の上に頭を乗せて頭を撫でられている男性と、お父様とほとんど年の変わらない女性がいた……。
私は何も見なかったことにして、音が鳴らないようゆっくりと扉を閉める。
踵を返して歩こうとした瞬間、目の前にはメイド服を着た女性が立っていた。
「こ、こ、こんにちわぁぁ」
見てはいけない現場を見てしまったためか、かなり気まずい……。
「見てしまいましたね……」
「な、な、なななんのことでしょうかぁ……」
見てないと言いたいけど、この状態で見ていませんは無理がある。誤魔化そうと目を逸らしたが……。
「全く誤魔化せていませんよ……」
ハハハ……ですよねぇ……。
「はぁ……こちらへ……面接を行いますので。」
あまりこの場に居たくないのか、そそくさと去っていくメイド長の後を追って、私もこの場を離れた。
それから物置の部屋に入ると――
「軽く自己紹介してもらえるかしら。」
早速面接が始まった。メイド長にしては若く感じるのは気のせいだろうか。見たところ私とそこまで年齢が変わらない気がする。
「は、はい!! ミアと申します。メイドの経験はありませんが、家事は一通りできます。よ、よ、よろしくお願いします。」
ガバリと頭を下げると、
「そう……合格よ。それでいつから来られるかしら?」
「えっ!? 合格ですか? あ、あ、あありがとうございます。今日から働けますぅぅ!!」
名前くらいしか聞いていないのに、合格でいいのだろうか。仮にも公爵家だ。セキュリティ的にも問題がありそうなものだけど……。
「それでは、今日からよろしくお願いします。あとは、こちらのメイドに全て任せてあるから、話を聞いて。私はやることがあるので戻ります。」
それだけ言うと、メイド長は物置部屋を出ていった。
「カヤよ。よろしくね。」
私の教育をしてくれる人はカヤさんと言うらしい。
メイド長を見た時にも思ったが、若い人が多い気がする。若い人でも派手めな人はいなく、どちらかと言うと落ち着いているというか、地味な人ばかりだ。
「ミアです。よろしくお願いします。」
「じゃあまずは着替えてほしいんだけど……あの箱の後ろで着替えてきて。」
カヤさんが私の手に制服を乗せて、箱が積み重なっているところを指さした。
まさかの着替えるところがないということだろうか……。
「着替える場所は……」
「ないわ! 前はあったようだけど、メイド風情にそんなの要らないと撤去されたらしいの。」
「て、て、撤去ですか!?」
まさかの言葉に唖然である。メイドには着替える場所など必要ないから適当にその辺で着替えろ。それが無理なら辞めてしまえということだろうか……?
「そう……だからなんとかこの部屋で着替えられるようにしているのよ。もしそれが無理なら辞めてもらって構わないわ。」
私は首を振って箱の後ろで着替え始めた。
それにしてもこのメイド服……埃っぽいわ……。




