画策。
クリスティーナとジェラールの結婚式が終わり、あれから私はさらなる多忙を極めていた。
なんと言っても結婚式プロデュース事業を立ち上げたからである。
「フ……フフ……フフフ」
「マーガレットお嬢様……お外でそのようなお顔はやめてください。皆様が見ております……」
「仕方がないじゃない……私の唯一の趣味なのよ?」
たくさんの袋にたんまりと入った金貨を、袋を覗きながら眺める。
この重量感、金貨ちゃん同士が擦れる音。そして金貨ちゃんの匂い……。
本っ当に最高だ!!!
クリスティーナとジェラールのおかげで結婚式プロデュース事業は大繁盛!! それからドレスレンタルというのを始めました。
これはクリスティーナからの提案でもあった。
「美しいものは貴族だけが好きなわけじゃないと思います。国民の皆さんも経験したいはずです。だったら……ウエディングドレスを低価格帯でレンタルできるようにすれば、さらに人気が出るのではないでしょうか? あとは結婚式のプランも色々な価格帯のものを用意しておくと良いかもしれません」
なかなか私では気づかない発想だ。
そしたらこれが大当たりである。ウエディング部門は服飾部門だけでなく、飲食部門、人材派遣部門、それから雑貨部門まで、あらゆる部署の人たちとの共同事業となっているのだ。
今では王都だけでなく、大きめの領地に新しい出店を考えているくらいである。
以前保育事業を立ち上げたことで、国全体が少しずつ変わり始めていた。
男が働きに出て女は結婚して家庭を守る。
そんなイメージから、女性も働きに出やすい社会へと変わってきている。
「クリスティーナがマルグリット商会に来てくれてよかったわね。仕事も任せられるし、以前よりも女性たちが働きやすそうよ……」
以前から積極的に女性従業員を採るようにはしていたものの、子供ができたらどうしても仕事を辞めざるを得ないとか、家のこともしなくてはならないから大変……なんてことをよく聞いていた。
こればかりは同じ女性でも、家庭や子供がいない私にはなかなか相談しにくい部分だったと思う。それでもクリスティーナがいることで、他の女性社員も相談しやすくなったようだ。
そしてもう一つ、この相談を受けて我が商会では産休、育休というのを作ってみました!
産休とは産前、産後半年間は休める期間、育休はさらにプラス一年をお休みできる期間を設けることだ。
この間、お給料の全額ではないが、いつもの三分の二を支払うことになっている。
「子供を産むことは女性にとって命懸けのものなんです! 仕事も辞めなくてはならないし、なのに男性は分かってくれない!」
なんてことをお昼休憩の時に女性社員たちが話していたことが事の発端でした……。
「」
もっと早く気づいてあげられなくてごめんなさい。妊娠すると辞めていく理由はここにあったんだと知れて良かったと、今では思います。
「ふぅ……ジェラールやクリスティーナと関わるようになってから色々なことが目まぐるしく動いていくわね。おかげで退屈しないで済んでいるわ」
「そうですね。実にマーガレット様らしいですよ」
それともう一つ。やっとスージーとサフィールが婚約しました。
スージーがずっとサフィールを追いかけていたのは知っていたけど、最後はサフィールから婚約の話を持ってきたみたい。
スージーが嬉しそうに話してくれた。
元々幼馴染だった期間が長いということもあり、サフィールが十八歳になったらすぐに結婚することになるそうだ。
あと、ディーは未だに婚約せずに自由に動き回っている。三日に一回はマルグリット商会に顔を出していて、王太子とはこんなに暇なものなのかとクリスティーナに聞いたことがあった。
「ふふ……そうですね。暇ではないと思いますが……会いたい方がいらっしゃるのではないでしょうか」
クリスティーナの言葉に私はピンときた!
「マルグリット商会の中に想い人がいるということなのね! 会う口実がないから幼馴染の私を通して会いに来ていると……ディーも健気なところがあるじゃない!!」
「「「「(想い人はあなたのことですよ……)」」」」
皆が私の言葉に大きく反応していたけど、大して気にすることなく仕事に没頭していたのは言うまでもない。
そして数ヶ月後……事態は大きく動くことを、この時の私はまだ知りもしなかった。
***
ディグレッド視点。
「お兄様!! これでは永遠にマーガレットお義姉様と結婚できませんよ!!」
そう言って部屋に入ってきたのはクリスティーナだ。
クリスティーナはマーガレットのところで働き始めてから、今までとは別人のようになった気がする。
もちろん、いい意味でだ。それにマーガレットに似てきていると感じるのは俺だけではないだろう……。
「はぁ……マーガレットに似てきたな……ジェラールも苦労してそうだ……」
「ふふふ。ジェラールはそんな甲斐性なしではありませんわ。それに今のクリスティーナのことも好きだといつも言ってくださいますもの……って、それよりもお兄様のことです!! ちゃんと想いを伝えているんですか?」
言われなくても何度も伝えているんだが……どうしてか通じないんだ……。むしろ、いい方法があったら教えてほしいくらいである……。
「伝えてはいるんだがな……。何故か伝わらないんだ……」
「それって……伝えていないと同義ですわ。マーガレットお義姉様は鈍感なんです!! そこがまた可愛いところですが、はっきり言わないと永遠にこのままですよ。それに……年々色気が増して、他の貴族たちからも狙われていると聞きました。早くしないと取られてしまいますよ。それでなくても……恋愛なんてどうでもいい方なんですから……」
知っているさ。社交界に行けば嫌でも耳に入ってくるマーガレットのこと。色々な事業を成功させていて、男性だけでなく女性からの支持も大きい。
それに、アニエスとクリストフの件でファレノプシス家は伯爵から侯爵へと爵位が上がっている。この功労者もマーガレットだと周りでは噂されているくらいだ。
「そう……だな……」
「そうです! 最近は色々な人に言い寄られて、とても迷惑そうな顔をしていますし、こんなことなら誰かと結婚だけしちゃおうかしら……なんて言っている始末ですよ……」
クリスティーナから聞いた発言に、思わず飲んでいたお茶を吹き出す。クリスティーナは「はしたない」と言っていたけど、今はそれどころではない。
「な、な、クリスティーナ……それは本当か!!」
「えぇ……本当ですわ。ジェラールとのことで巻き込んでしまっていますし、抵抗がないのでしょうね……そ・こ・で!! お兄様にはこちらを……」
スッと前に出してきたものは、どうやら手紙のようだ。
「近々、お義姉様は他領に事業拡大のため視察に行きます。本当は私が同行する予定でしたが……お兄様にお譲りしますので、ここで蹴りをつけてきてください。どちらにしても王太子殿下であるお兄様がずっと結婚しないわけにはいかないのですから……」
それだけ伝えるとクリスティーナは帰っていく。
俺は何も知らなかった。
これがクリスティーナだけでなく、サフィールたちが画策したことだということを……。




