出発は今日よ!
「ふっ……はははは」
ディーに私の作戦を伝えると、ディーの隣にいた人が急に笑い出した。
「急に笑ってすみません。マーガレット嬢。騎士団長をしておりますバジル・ジェノベーゼと申します。」
バジル・ジェノベーゼ。
ジェノベーゼ辺境伯家の次男で王国騎士団長を務めるお方だ。
ジェノベーゼ家は昔から戦闘民族と言われるくらいに鍛えられている人が多いと聞く。
その中でもバジル様は歴代一、二を争う強さだったと記憶している。
「初めまして。マーガレットと申します。家名を名乗らないことお許しください。ちょっと色々ありまして……」
今の家名はフェザリス家……出来れば名乗りたくない……
「マーガレット嬢のお噂はかねがね聞いております。それで、先程お話していた作戦ですが……クク……」
木を隠すなら森の中。人を隠すなら二千人の中……いい案だと思ったんだけど……そんなに笑うことだろうか。
「とてもいいと思います。一人でも上手く紛れ込めれば王都に助けを呼びに行けるかもしれません。」
「王都は辞めた方がいいわ……さすがにバレやすいと思うもの……だったら……ジェノベーゼ辺境伯家に助けを求めるのはどう?」
確かフェザリス領から二つ先の領地だ。そちらに向かう方が確実な気がする。
「ディグレッド王太子殿下。マーガレット嬢は聡明でいらっしゃる。早く物にしなくてはなりませんな! ハハハ……。」
物ってどういうこと!? そもそも何でディーに言うのよ! そこは私に言うものじゃないの? ディーも「そうだろそうだろ!」って胸を張って言ってるけど……
なんであなたがそんなに偉そうなの!? 本当に意味がわからないわ!!
「ジェノベーゼ辺境伯家であればここから馬で飛ばせば一日ほど。王都よりも近いですし助けを呼ぶなら確実でしょう。で、誰を行かせますか。」
居てもいなくてもあまりバレないように、行動できる人がいい……
スージーやクレソン、ディーは除外するとして……
「わた……「だめだ!!」」
被せるように話してくるディー……でも一番は私がバレないと思うんだけど。
化粧で変装しやすい地味な顔をしているし、髪は幾分か派手だけど……そこはウィッグで何とかできる。
「なんでよ!!」
「ダメなものはダメだ。お前はもう少し自分を大事にしろ。それに……いなくなられては困る!」
いないと困るって……
たしかにクリスティーナを助けられるのはマルグリット商会のマルグリットだけだ。他の人は中に入れないし……
「たしかに、そうね……私がいなくなったらクリスティーナを助けられる人がいなくなるものね!」
「それもそうなんだが……お前がもし帰ってこなかったらと思うと怖いんだ。(お前が好きだから……)」
「そんな心配しなくても大丈夫よ! でもディーがそんなに心配なら私は残るわ。そしたら……サフィールがいいわね。あの子も私と同じ系統だから隠れられるわ!!」
サフィールもイケメンではあるけど少し残念なイケメンだ。
普通ならモテるはずなのに何故かモテないし、夜会などでも上手く周りと同化しているくらいである。
「それならいいだろう!! バジル団長。サフィールに伝えてきて欲しいのだがいいだろうか?」
「構いませんよ。サフィールはこちらに来るように伝えますね。」
バジル団長はディーに軽く頭を下げるとその場を去っていった。
***
サフィール視点。
スージーに無理矢理連れてこられたあと、スージーはそのまま残ると言うので、その場を後にすると外には騎士団長がいた。
どうやら俺を待っていたようだ。
「サフィール。ディグレッド王太子殿下がすぐ戻ってきて欲しいそうだ。」
ディグレッド王太子殿下がすぐ戻ってこいと言う時は何かしら面倒なことに巻き込まれることが多い。
そしてその大体の事に姉上が絡んでいるのだ。
「もしかして……姉上も絡んでいるのでは……」
「ふっ。行けばわかるさ。ただサフィール……お前の姉は……クッ……ククッ」
何かを思い出すように笑い出す団長。
絶対これは何かやらかしているに違いない。
「また何かやらかしたんですか!?」
「いや、まだ何もしていないと思うぞ。今回はディグレッド王太子殿下が止めていたからな。まぁ……その……なんだ……が、がんばれ。」
歯切れの悪い声で頑張れと言われても、絶対何かあるようにしか思わないのは気のせいでしょうか……。
ディグレッド王太子殿下が呼んでいる以上、戻りたくないが戻らないわけにはいかないので、急いで宿に向かった。
「ディグレッド王太子殿下。入りますよぉ。」
扉の外から声をかけると中から声が聞こえてきたので俺は扉を開いた。
「サフィール。お前、今からジェノベーゼ領まで行ってきてくれ。」
「え!?」
帰ってきて早々、理由もなくジェノベーゼ領に行ってこいですか!?
姉上といい、殿下といい……端折りすぎなんですよ!
「だからこれ着てジェノベーゼ領まで行ってきて欲しいんだ。」
そう言って渡されたのは町民たちがするようなシンプルな格好だった。
「話が見えないんですが……ジェノベーゼ領に行くにしても通れない可能性もあるんじゃないですか?」
「そこは安心してくれ。変装のエキスパートをお呼びしてある。」
いや、わざわざ呼ばなくて良いですって……。それ絶対姉上でしょ……。
そう思っているとやはり扉を開けて入ってきたのは姉上だった。
「サフィール。あなたには今から領民か盗賊に変装してジェノベーゼ領まで行ってもらうわ! そしてこの手紙を渡すのがミッションよ!」
姉上が右手でぴしりと俺のことを指さすと、ディグレッド王太子殿下も同じポーズをする。
いやいや、そこは真似をしないでくださいよ。と言ってやりたいが、我慢した……誰か俺を褒めてくれ……
「はぁ……どうせ何を言っても聞かないんでしょ? 分かりましたよ。行ってきます。それでいつですか?」
「今日よ!」
「え!? 今日!?」
流石に今日の今日ってどうなの?
「そうよ! 今日。頼んだわ。」
それだけ言うと颯爽とここを出ていった。
「本当に嵐のような人だな……」と思ったのは言うまでもない。




