不穏な気配。
「そろそろ王都に戻らなくてはならないけれど、まだアニエスの居場所はわからないわよね。」
フェザリス領にきてからもうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
流石に休暇を延長してもらうには無理があるし、一度戻った方がいいだろう。
「そうですね……。話を聞いている限り、もし本当に薬でおかしくなっているということであれば、ジェラールが気づくことはなさそうですが……一度戻ったほうがいいのではないかと思います。」
モニカの言う通りね。
本当にジェラールが薬でおかしくなっているということであれば、気づかなさそうだけど……他のメイドたちがなにか感じるかもしれない。それにもしかしたら何かを感じて別経路から帰っているなんて選択肢もあるだろう。
「モニカ……サフィールたちに一度王都に……「大変です!!」」
モニカに、サフィールへの伝言を頼もうとしていたら、クレソン様がすごい勢いで部屋にやってきた。
「クレソン様! レディーの部屋をノックもなしに開けるなんて……「すまない。後で小言なら聞こう。今は緊急なんだ……」」
クレソン様が息を切らしながらやってきたこと、モニカの話を遮ってまで話を続けるところを見ると本当に緊急事態なのだろう……。
「何があったの!?」
「それが……フェザリス領の周りに武装したガラの悪い奴らが集まってきています!!」
ガラの悪い奴ら……
恐らくアニエスの手先だろう。
「それと……その中に結婚式で暴言を投げつけた貴族たちも入っているようで、その先頭にいるのが……トマッティーノ前公爵だという情報が!!」
トマッティーノ……!?
「え? だれ? トマト? 野菜が攻めてきてるの!?」
「トマッティーノ前公爵ですよ。覚えていないのですか……?」
トマッティーノね……。
ん~……
トマッティーノ……どこかで聞いたことがあるような……。
「「「はぁ……」」」
クレソンとモニカ、ナニカの溜息が重なる。
え!?
そんなに覚えていないと駄目な相手ということ!?
「お、お、思い出したわ! あれよね!」
「思い出しましたか? そう!! あれですよ!!」
「うちにトマトを下ろしてくれている人……なんて事はない……わよねぇ……ハハハ……」
三人揃って「何を言っているんだ……コイツ……」みたいな目で見なくてもいいじゃない。覚えていないのだから……。
「覚えていないなら覚えていないと言ってください! 以前、貴方のせいで爵位を弟に譲ることになり家から勘当された男ですよ。覚えていないですか? 確か娘の名前は……」
確かに以前、そんなことがあった気がする。娘は娘でディーに言い寄ってたひとよね。名前は……確か。
「チェリーちゃんね!」
さくらんぼみたいに真っ赤だった顔を思い出すと、クレソン様が
「……若干違いますが、そんなところです。取り敢えず今はそんな事を話している場合ではありません。ディグレッド王太子殿下がお呼びです。至急集まるようにと……」
確かに、囲まれているということはいつ攻められてもおかしくない状況ということだろう。
私たちは急いでディグレッド王太子殿下と合流した。
***
クレソン視点。
ディグレッドから、クリスティーナ様の話を聞いてはいたが、信じることができずにいた。
マーガレットが信じると言ったのであれば大丈夫だとは思ったが、マーガレットの手綱を握っておくためにも私は冷静に考えて行動する。
これは父上からの命でもある。
本当はディグレッドにそういう立ち位置でいてほしいのだが……父上もディグレッドがマーガレットを好きすぎて無理なことをわかっているのだろう。
だからこそ二人とは違う考えを持ち続ける。そこから見えてくるものもあると……。
「本当に、損な役回りですよ。それでもあの二人を近くで見ていたいと思うのは……私も既に毒されているということなんでしょうね……」
ディグレッドに頼まれて老人を探していると兵士たちがバタバタ動き回っているのが見える。
何かあったのだろうか。
駆け寄って声をかけると、どうやら領地の周りをガラの悪い連中が囲んでいるという……。
ガラの悪い連中と聞いて、クリスティーナ様からの手紙の内容と以前ディグレッドが言っていたことを思い出した。
「やはり……アニエスか……」
元々この街には王国騎士団の団員が領民に変装して潜り込んでいる。王都に割と近いフェザリス領は王都までの道中の中間地点として利用する人も多く、人の出入りが多い。そのお陰で難なく潜り込ませることができた。
近くにいた団長を呼び、外の様子とフェザリス邸の様子を見てくるように伝えると、団長は皆に指示を出して動き出した。
それを見送った私は急いでディグレッドのところに向かう。
「ディグレッド大変だ……フェザリス領がガラの悪い連中に囲まれている……何日も顔を出していなかったアニエスだろう。」
「そうか……丁度父上から手紙が届いたから見ていたが、やはりアニエスは盗賊団の元締めらしい。もしかしたら元締めというのは嘘で、今も団長なのかもしれないが……」
ディグレッドは溜息をつきながら、不測の事態が来ていたことに落胆している様子だった。
「サフィール。お前は騎士団と合流しろ。何かあったらすぐ連絡。クレソンはマーガレットを呼んでこい。緊急事態だ……このままここでアニエスとクリストフを捕縛する。」
普段はマーガレットをずっと見つめてヘラヘラしている殿下もここぞと言う時はやる男だ。
私とサフィールはディグレッドの言葉を聞いて動き出した。




