クリスティーナの独白。クリスティーナ視点。
昔からよく、マーガレットと比べられることが多かった。
ディグレッドお兄様にしても、お父様にしても、お母様にしても……侍女にしても……。
「少しはマーガレットを見習いなさい!!」
と言うのだ。
私は私なりに頑張っているのに、誰もそれを認めてくれないことに腹が立った。
いつだったかは覚えていないけど、自分自身を見てもらうために少し言い返してみたら、初めてお父様やお母様と目が合った気がした。
子供だったから、自分を見てもらえたと思って嬉しかったんだと思う。
それからだ。わがままや癇癪を起こすようになったのは……。
初めのうちは罪悪感が勝っていたものの、次第にどこでやめていいか分からなくなってしまって。
本当は誰かにあのとき止めてもらいたかったのだろう。
ジェラールと婚約したとき、初めは嬉しかった。
やっとこの家を出られるんだって……もうマーガレットと比べる人はいないって……。
正直、マーガレットに嫉妬はしていたけど、嫌いではなかったのよ。芯が通っていて、自分の言いたいことを自分の言葉ではっきり言える。そして、やりたいことをやる。働く女性として模範とも言えるかっこよさがあった。
ジェラールとは話も合ったし、デートを何回も重ねた。次第にお互いがお互いを好きになって、私はこの人と結婚するんだろうって思ったときに、まさかの出来事が起きたの。
ジェラールとアニエスが付き合い始めたのよ。
私がいるのに……。
私は目の前が真っ暗になったわ……。
男の人って、こんなに簡単に裏切るものなのね。
でも、私はこの家から早く出たかったの。家の中での私も外での私もどちらも私なんだけど、どれが本当の私なのか分からなくなってしまっていたから。
だから、二人が付き合い始めても、外に出られるならと思ってそのまま婚約者を演じた。
それに、ジェラールのことがまだ好きだったから……。
そんなときに現れたのが、クリストフだった。
大雨の日、ジェラールとデートの約束をしていた日。待てども待てども来ない日があったの……。
いつも窓から抜け出して、ばれないように外に出ていたから、その日ももちろん護衛なんていなかったし、傘もさしていなかったからずぶ濡れだった。
それに……もしかしたら私との約束を思い出して来てくれるんじゃないかっていう期待もあったの……。
でも、だめね。期待なんてするものじゃないと思ったわ。
来なさそうだし、そろそろ帰ろうかなと思った矢先、クリストフが声をかけてきたの。
他の人たちは見て見ぬふりをするか、厄介なことに巻き込まれたくないと思っているのか、誰一人話しかけてこなかったのにね。
「お嬢さん、ずぶ濡れじゃないか……? 大丈夫かい?」
そう言って傘を差し出してくるクリストフが、何だか暖かく見えて涙が止まらなくなってしまった。
「だ、大丈夫かい!?」
そっと差し出してくれたハンカチも。
「もっと君らしく生きてもいいと思うよ」
お母様たちに色々小言を言われて落ち込んだときに言われた一言も。
「僕と一緒に色々なところに行かないかい?」
婚約者に別に好きな人がいると打ち明けたときの一言も。
全てが嬉しかったの。
この人となら、ずっと一緒に幸せに暮らせるんじゃないかと思った……。
でも、あなたが見ていたのも私ではなかったのよね。
「結婚式をぶち壊す方法があるんだ。それがうまくいけば俺たちはずっと一緒にいられる。だから力を貸してくれ……」
その一言を疑おうとしなかった私がいけなかったわ。「恋は盲目」なんて言葉があるけど、まさにその通りだった。
結婚式を挙げる半年前くらいに、一度だけジェラールが私の元に来たことがあった。表向きは私の婚約者だから、王宮にジェラールが来ても誰も怪しむことはなかった。
そのときに一度だけジェラールと関係を持ったわ……。そのときにジェラールが言っていたの。このままではアニエスに全てを取られると……。
しかし、家に帰るとどうしても体が言うことを聞かないのだと……。
初めは臭いと感じていたはずが、徐々に何も感じなくなって今に至ると……。
「クリスティーナ……すまない。君には嫌な思いをさせているが……必ず君の元に戻るから待っていてくれ。それと、クリストフには気をつけろ。分かったな?」
今まで一度もクリストフの名前を出したことがないのに、何故ジェラールが知っているのか……。
今思えば、アニエスとクリストフがつながっているからだったのね。
それからすぐ、妊娠していることに気づいた。
とても嬉しかった。この子を育てるためにも、私はきちんと母親にならなくてはならない。そのためにクリストフには会えないことを伝えると、クリストフは下卑た笑みを浮かべた。
「妊娠だと!? 本当にお前は誰でもいいんだな? おい、クズ。今回のことがばれたくなければ俺の言う通りにしろ。なぁに……悪いようにはしないさ。死ぬとしたら《《ジェラール》》とその腹の中の子供だから安心しろ。まぁ、お前みたいなクズ、誰も助けてくれるやつなんかいないと思うけどな……ハハハ」
それから私はクリストフの傀儡となるしかなかった。
そして、こんなときに思い浮かぶのはマーガレットのことだった。
マーガレットなら何とかしてくれないかしら。
マーガレットならこんなとき、どうするかしら……。
そして、やっとのことで考えついたのが、フェザリス領でマーガレットとして暮らすことだった。
いつかマーガレットが気づいてくれればいい。
いつかジェラールが迎えに来てくれる。
そう思って、子供を取られたあとも毎日耐え続けた。
「ついに、このときが来た……この手紙をマルグリット商会の会長に渡してほしいの……よろしくね、ジェームス」
この家の家令であるジェームスに手紙を渡した。
マーガレットが来ているということは、きっとお兄様も来ているのでしょう。あの二人は昔から二人で一つだから。血のつながった兄妹よりも兄妹だと思うわ。
二人に無事この手紙が届くよう祈った。




