思わぬ人からの手紙。ディグレッド視点。
ノックと同時に扉を開ける人を、俺は一人しか知らない。
そう……マーガレットだ。
そのおかげで何度も裸を見られたことか。初めは恥ずかしがっていた俺も、気づけばマーガレットに毒されて気にならなくなってしまった。
そして今日も、その元凶であるマーガレットがノックと同時に扉を開けてきた。
大変だと言って慌てて入ってくるときは、大抵周りが見えていない。
そんなマーガレットが俺に恋愛について聞いてくるのは、珍しいことだった。
「ディーだったら好きな女の子と一緒にデートとかしたいものなの?」
「そ、そりゃ俺だって色々なところに行きたいさ。なかなかうまくはいかないがな」
マーガレットといられれば俺はそれでいいと思っているし、あわよくば一緒に色々なところに行ければいいと思っている。
「そうなのね……ディーも好きな人がいたのね!」
「あ、あぁ……一緒に来れてるし、大丈夫だ」
マーガレット、お前と一緒に来れている時点で幸せなんだ! 半年会えない間、お前は何も思わなかったのか?
俺はいつも隣にいたマーガレットがいないだけで仕事も手につかず、何度クレソンに頭を叩かれたか……。
そろそろお前に気づいてほしい。
こんなに分かりやすく言っているんだ。
そう願いを込めながら話すと、マーガレットは少し考え始めた。
もしや、ついに俺の気持ちに気づいてくれたということか!?
「そうなのね! 一緒に来れて良かったじゃない。それで先ほどの話だけど……」
俺はマーガレットの言葉に、思わず椅子から落っこちそうになった。
そうだ……マーガレットは昔からこうだった……他のことには鼻が利くのに、何故か恋愛についてはまったく鼻が利かないのだ。
そんな鈍いところも俺がマーガレットを好きな理由の一つなのだが。
昔から女性でグイグイくるタイプの人は苦手だった。
かといって、控えめなお淑やかな人もタイプではない。
小さい頃からマーガレットと一緒にいるからか、マーガレットみたいな女性が好きなのだ。
そう、マーガレット以外は興味がないということなのだろう。だから、どんなに言い寄られてもなびくことはなかった。
マーガレットが何か色々話していたけど、話は半分くらいしか頭に入ってこなかった。
許してほしい。だって、マーガレットが一生懸命話す姿が可愛いんだから……。
それからマーガレットはアニエスのことについて話したあと、手紙を預かったと一通の手紙を机の上に置いた。
宛先もない手紙……。
マーガレット一人だったら開けるなと言ったところだが、この手紙はなんだか読まなくてはならないような、そんな気がした。
ただの直感だが……。
俺は手紙を手に持ち、封を切った。
そして恐る恐る手紙を開くと……見たことのある字で色々なことが書いてあった。
「これはクリスティーナの字だ」
俺の言葉を聞いて、マーガレットも覗き込んできた。
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マルグリット商会
マルグリット様。
いえ、マーガレット様。そしてお兄様……。
この手紙が無事にあなたの元に届いてくれていればいいのですが……。
急なお手紙、申し訳ございません。
何から話せばいいかわからないのですが、まずは結婚式の件、本当に申し訳ないことをしたと思っています。
ですが、ああする他なかったのです。
そのことについては、また改めて謝罪をさせてください。
今はあまり時間がありませんので、単刀直入にお話しいたします。
アニエスとクリストフはグルです。
アニエスは、もしかしたらフェザリス前公爵を手にかけている可能性もあります。
元々ジェラールは、あのような性格ではございませんでした。
それがアニエスという女が家を出入りするようになってから、急に変わったのです。
信じてもらえないかもしれませんが、ジェラールと私はお互い愛し合っていました。ですが……
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その手紙には、二人の関係や、いつから変わったのかなどが書いてあった。
正直、今までわがままばかり言っていたクリスティーナしか知らないからか、この手紙を読んでも本当にクリスティーナなのか信じがたいものがある。
「これは本当にクリスティーナなのか……?」
「私は本当だと思うわ。見張りがいてもおかしくない状況の中、わざわざ手紙を届けさせているし、帳簿の場所まで教えてくれている。それに、あの家には子供がいなかったのよ。クリスティーナが子供を産んでいるのだとしたら……どこに行ったのかしら……」
確かに、妊娠していることは王家の医師が確認をしていたし、間違いないはずだ。そう考えると……人質にされている可能性もあるな。
「マーガレットが信じると言うなら俺も信じよう。それに、血を分けた兄妹だ。もし危ない目に遭っているなら助けてやりたい」
「そうですね! 早速、現状を確認するために、明日、デザイン画と一緒に忍び込みます。ディーはおじいさんを探してください。それから、アニエスとクリストフの関係を。あと、アニエスの盗賊団がどうなったかも聞いておいてくださいね」
この短期間の間に次の動きを指示できるのは、さすがだ。女にしておくのがもったいないと、よく父上が言っていた意味もわかる。
マーガレットの言葉に頷くと、マーガレットが手紙を手に取って匂いを嗅ぎ始めた。
「柑橘系の匂い……もしかして……」
それだけ言うと、近くにあった蝋燭に紙を近づけた。
「この手紙は読んだら燃やしてください。最後にマーガレット。あなたを選んだのは、あなたなら何とかしてくれるのではないかと思ったからなの。巻き込んでしまって本当にごめんなさい。帳簿については、今日この手紙を届けたおじいさんが知っています。お兄様、お義姉様、ご武運を……ティーナ」
紙を近づけると、文字が浮かび上がった。
「あら、ディー……お姉様なんていた?」
「いや、いない……きっとこれからのことを書いているんだろ」
お義姉様とはお前のことだよ、マーガレット……頼むからそろそろ気づいてくれ……。




