まさかの……!?
デザイン画を持って宿に戻ると、マルグリット商会の精鋭たちが迎えてくれる。
マルグリット商会はいくつかの部門に分かれている。
一つ目は服飾部門だ。
ドレスやアクセサリーのデザインから作成まで、服飾に関することをすべて担っている部門だ。
オーダーメイドでドレスなどを頼みたいときは、服飾部門の精鋭たちが動く。ドレスもアクセサリーも細部までこだわっているため少し時間はかかるものの、斬新なファッションセンスを持っている人が多いため、流行の最先端を行くものを作成してくれる。貴族たちの間では、マルグリット商会にドレスを作ってもらうことで自分の今後の立ち位置が決まる……と思っている人もいるそうだ。
ドレスには確かに自信があるが、それで今後の立ち位置が決まるかどうかは本人のやる気次第ではないかと思うのだけど……。
購入してくれるのであれば越したことはないので、その件に関しては頭の片隅にしまい込むようにしている。
二つ目は人材派遣部門。
メイドや執事、御者、護衛など、人手が足りないときに派遣する部門である。少し割高ではあるが、マナーを叩き込んでいることや、守秘義務を徹底的に守るようにしていることで、利用しているお客様も多い。家にいる者を連れて歩くには少しリスクがあるときは、大金をはたいてでも信頼できる人に頼みたいものである。おかげで人材派遣部門は常に成績がいい。
三つ目はレディース部門。
化粧品や練り香水、お香など、女性が持っていて喜びそうな商品を作成する部門だ。
何が流行っているのか、皆がどのようなものを欲しがっているのかを町中で調査し、新しいものを作っていく。
貴族たちの間で流行っているものを民でも使えるように改良などもしているので、貴族だけでなく民たちにも人気である。
四つ目が飲食部門。
今は王都で一店舗カフェを経営しているだけだが、これが意外に人気がある。ケーキや、それに合った紅茶などを振る舞うことで、とても人気が高い。他の部門も含めてだが、販売員はマルグリット商会の教育をきちんと受けているため、マナーが素晴らしいのだ。
おかげで、何故かカフェのケーキを目当てに来るというよりは……従業員を目当てに来る方も多いくらいだ。
言い方を変えるならば……執事喫茶……みたいな感じだろうか。
最近は本格的に、メイド喫茶や執事喫茶を作ることで儲けが出るのではないかと思うほどである。
こんな感じで色々な部門があるのだが、今回はその中でも精鋭中の精鋭である服飾部門のメンバーが来ていた。
しかし、この服飾部門……恐らく商会の中で一番と言っていいほど個性的である。
「このデザインに宝石ですかぁ……いいですけどぉ……かなり高くつきますよぉ」
「いいじゃねぇーか。その分、次回作も赤字にならずに済むぜ」
そうなのです……いつもやりたい放題してくれるので、布の値段も高価なものばかり……宝石もふんだんに使う。
高位貴族なら難なく支払えるものでも、低位貴族はなかなか購入できないことが多々あるのです……。
「本当に……ただ、今回は向こうが支払いも問題ないと言っているくらいですし、うまくいけば男性のスーツ作成も展開できます。これはまたとないチャンスです! 頑張りましょう!!」
私の言葉に皆がやる気を出している中、モニカが慌てた様子で入ってきた。
「マーガレット様!! 大変です」
「どうしたの?」
「それが……この地にアニエスが向かっているようです!!」
え!? 来ているのはジェラールではなくアニエスだけ……!?
一体何が起きているというのだろうか……。
「そう……もしかすると、アニエスはこの地に何か隠しているのかしら……クリストフとも何か関係がありそうよね……」
モニカの言葉を聞いてからというもの、頭は逆に冴えてきていた。
人というのは、周りが慌てているときほど自分は冷静になっていくものなのだと思う。
取りあえず、服飾部門のメンバーに迷惑を掛けたくはないため、部屋から出た。
「モニカ……アニエスがこちらに向かっているのよね。アニエスがいない今が、恐らく帳簿を見つけ出すチャンスだと思うの。スージーに頼んで、スージーの代わりに入っているメイドに帳簿のありかを探してもらえないかしら。恐らくスージーのことだから、信頼のおける人を置いていると思うのよ」
「承知いたしました。スージー様に確認してみます。マーガレット様は……?」
「私はこれからディーたちのところに行ってくるわ」
ディーやサフィール、クレソン様は、元々別の宿を取っていたらしく、そちらに泊まっている。
護衛が同じ邸に泊まることはできないと思っていたらしい。
「なんだか、一気に事が動き出しそうね……」
ここ数か月以上、部屋から出なかったアニエスが突然領地に来る。
クリストフはまだ何を考えているかわからないが、同じ商会を経営する者として、性格が愚図なのは知っているし……。
あとは減額申請の理由さえ分かればいいのだけれど……こればかりはどうやっても証拠がつかめない……。
アニエスたちと減額申請は別のことなのか……もしくはクリストフあたりが悪知恵を働かせているのか……。
話を聞くために、ディーたちのところへ急いで向かった。




