ドッペルゲンガー。
馬車に揺られ始めて二日。
途中で宿場町に泊まり、ここまで何事もなく進むことができた。
外を眺めれば、麦畑が広がっている。
ちょうど収穫の時期なのか、領民たちが麦を収穫していた。
「見たところ、収穫が落ち込んでいるという感じはなさそうですね……」
「そうね。領民たちも生き生きと仕事をしているようだし、領地自体に問題が起きている可能性は少なそうだわ……」
ジェラールが公爵になってから、一度も来ていないということは、おそらく誰かしらがこの地を仕切っているはず。その辺りも含めて、調べる必要がありそうだ。
「モニカ。あなたにはちょっと別行動を頼んでもいいかしら?」
「なんでしょうか?」
「領民がどのような生活をしているのか、この五年で何か変わったことがなかったかなど、調査してきてほしいの」
私が領民たちに話を聞くよりは、モニカが聞いた方が話しやすい部分も多いだろう。
それに、もしこの地にクリスティーナがいるとなると……私のことを悪く言っている可能性が高い……。
「ナニカ。念のため、宿を取っておいてくれる? もしかしたらジェラールから話が届いていない可能性も高いから……。それに、クリスティーナ様がもし屋敷に住んでいるとなると……それはそれで面倒なことになりかねないわ……」
ディーからの話を聞く限り、ずっとここに留まるには住居が必ず必要になってくるだろう。
クリストフがいくら商会の息子でも、ずっと宿に住むというのは難しいはずだ。それに、クリスティーナがお金を持って出てきているとは到底思えない……。
「「承知いたしました」」
二人はそれだけ言うと、馬車を降りて目的地に向かって歩き出した。
「スージー……私たちは一度屋敷に行ってみましょうか」
「そうですね。屋敷の様子も知りたいですし、行ってみましょう!」
屋敷の近くで馬車から降ろしてもらうと、そこからは歩いて屋敷まで向かった。
「え!? ここがフェザリス邸?」
屋敷の前まで来ると、とても立派な邸が建っている。最近改築しましたというほどには綺麗だ。王都の家は幽霊屋敷のようにボロボロなのに……。
「そうみたいですね。なんだか煌びやかで、お城のようですね」
確かに、スージーの言うことはよくわかる。屋敷まで続く庭には花が綺麗に咲き誇っており、噴水も水が綺麗に流れているほどだ。
こちらのメイドや執事は辞めさせられていないと言っていたし、手入れが行き届いているのだろうけど……それにしても、この差は何だろうか……。
「本当にそうね……。とりあえず、門兵に声をかけてくるわ。中に入れてもらいましょう!」
「夫から本日来るとお話を聞いていると思うのですが、マーガレット・フェザリスと申します」
門兵はこちらを睨むと……。
「は!? 何言っている!! マーガレット様なら家の中にいるぞ! さてはお前、マーガレット様に成り代わろうとしたな。このクソガキが!!!!」
肩を勢いよく後ろに押されて尻餅をつきそうになったところを、ディーが支えてくれた。
それにしても……どういうことだろうか……。
マーガレットは私なのに、マーガレットは別にいる?
もしかしてドッペルゲンガー……!?
「マーガレット様はいつ頃からご在宅なんですか?」
「フン。そんなの聞いてどうするのだ。この五年、一度も顔を出さない領主様に代わり、来てくれたのが奥様のマーガレット様だったのだ。お前になんか教えてやるものか!! とっとと帰れ!」
もはや目が点である……。
私と門兵のやり取りが聞こえた人たちが、ぞろぞろと集まってくる。これ以上騒ぎを立てられるのはまずいと感じた私は、急いでこの場を去った。
「一体どういうこと? 実はマーガレットは他にいたの?」
「姉上……それはあり得ません。貴族名鑑の名前を覚えていますが、マーガレットという名前は姉上一人です」
貴族名鑑を覚えるって、どれだけ暇なのよ……。
サフィールの言葉に心の中でツッコミを入れていると、これまで静かに物事を見ていたディーが話し出した。
「十中八九、中にいるのはクリスティーナだろうな。マーガレットに成り代わって来ているんだろう。ジェラールとの子供を妊娠している。出産、療養も兼ねて領地に戻ってきたとでも言えば、なんとでもなる。それに、マーガレットのことは見たこともないだろうしな……」
そういうことか……。
マーガレットの顔を見たこともない人からすれば、「妻のマーガレットです」と言うだけで信じてしまうもの。
貴族であれば夜会などで会ったこともあるだろうけど、周りが領民しかいないところで私の顔を知っている人はほとんどいない。
「クリストフはお付きの従者として来ているというところかしら……」
「その可能性が高そうだな……。とりあえず、今のままではあの家に入ることはできない。他の皆と合流しよう」
この場にいても埒が明かないと思った私たちは、一度馬車に戻り、モニカとナニカの帰りを待った。
そして、馬車に戻って三十分後、やっと二人が戻ってきた。
「まさかこちらでお待ちとは気づかず、申し訳ございません。やはり邸には……」
「えぇ。なぜか私のドッペルゲンガーが住んでいたのよ……。それで本物じゃないと言われてしまって……クスクス」
時間が経てば経つほど笑えてくる。
私のドッペルゲンガーは、いつまでドッペルゲンガーでいるつもりだろうか……。
「笑っている場合じゃありませんよ! ナニカ、宿は取れましたか?」
「はい、姉様」
ナニカの言葉に、そっと胸を撫で下ろした。




